第11話

あの後、みずほの準備が終わった頃、明日香は放心した葵を連れて俺の部屋から出てきた。


葵は俺を見るなり、顔を赤くして慌てて帰っていった。


原因を作った方に目を向けると、微笑みを返されたので、まぁ、大丈夫かと納得して、今は、お墓の前に父さんが俺を庇って命を落とした現場へと、お袋たちを連れて来ていた。


「お兄ちゃん。こんなところに何の用事があるの?献花台はここじゃなく向こうだよ。」


俺がいつもの場所じゃなく、献花台から大分離れた位置に花を供え終えたことを疑問に思ったようだ。


「……いや、……ここであってるよ。お袋、みずほ。ここが父さんが命を落とした本当の現場だ。………お袋には少し話したけど、9年前の今日、ここで父さんは俺を庇って、……命を落とした。」


覚悟はしていた。でも、いざ言葉にすると悔恨の念が溢れ、気付けば拳を強く握りこんでいた。


「は?何をいってるの?お兄ちゃん。お兄ちゃんを庇ったって何?私達とは違うシェルターにいたんじゃないの?」


「ああ、当時俺はシェルターにはいなかった。保護プログラムによりそう情報操作されていたんだ。実際はここで敵幹部と相対していた。その時に父さんが俺を庇って、攻撃を受けた。悪いけど詳しい話は、レストランで話すよ。」


俺は強引に話を打ちきり、父さんの眠るお墓へと向かった。



掃除とお供えを供え終え、お袋達に続いて俺と明日香は柏手を打った。


「父さん、ようやく覚悟が決まったよ。…俺は先に進む。父さんがくれたこの命の続く限り。今まで支えてくれた彼女と共に。父さん、やっと言えるよ。彼女が神丘明日香だ。俺が、結婚を申し込んだ最愛の人だよ。」


隣で明日香が優美に一礼し俺に続いた。


「ご無沙汰しております。お義父様。9年前のお約束をようやく果たせますことを嬉しく思います。これから先、私は将兵さんをお支えし、幸せに致します。お見守りください。」


それから、報告できたことを嬉しく思いながらしばらくの間、二人で手を合わせた。


「あら、先生?ご無沙汰しております。こんなところで会うなんて、奇遇ですね。先生もお参りですか?」


「ご無沙汰しております。ええ、今日は友人の命日ですので。」


懐かしい声に振り向くと、早瀬先生が立っていた。


「鈴城くん。神丘さん。久しぶりですね。すみません。先にお参りさせていただいても構いませんか?」


そう言って先生は、父さんのお墓の前で手を合わせた。


「先生は、父さんと友人ってほんとですか?今まで、そんな素振り見せなかったじゃないですか?お袋は知ってた?」


お参りを済ませた早瀬司令に尋ねつつ、お袋にも聞いた。


「私も知らなかったわ。あの人そういうことは何も言わなかったから。」


「和臣らしいな。出会ったのは高校の入学式だったよ。席が隣だったから、あいつの性格もあって、すぐに友人になった。あの頃は楽しかったな。心の底から笑えていたと思う。俺の掛け替えのない時間だった。まぁ、高校卒業後、アメリカに渡ってからは、忙しさにかまけて疎遠にはなったけどな。だから、鈴城、お前が入学してきたとき、あいつから声をかけられて驚いたよ。とっくに忘れられていると思ったからな。まぁ、そこから飲みにいくようになって、よくグチを聞いてもらっていたよ。」


「父さん、そんな素振りは見せてなかった。先生も言ってくれればよかったのに。」


「いや、出来るだけ隠しておいた方が良かったんだ。いろいろうるさいからね、火種は作りたくなかったから。っと、そうだ、鈴城少しいいか?」


一瞬、雰囲気が変わったことに気づいたので、お袋達には近くの喫茶店で待っててもらうことにした。俺は先生の車へと移動した。


「すまないな、鈴城。ここでこうして会えたことはちょうど良かった。まずは、これを受け取ってくれ。」


司令から受けたったのは、小さなボイスレコーダーだった。


「これは、和臣から時が来たら、君に渡すように言われていたものだ。後でご家族と確認してくれ。それと、ここからが本題なんだが、特殊科学研究所という組織を知っているかい?」




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