第9話

「ここが俺の部屋だけど、とりあえず今回はスルーで。隣が妹のみずほの部屋だ。」


自室のドアを開け、一旦部屋の中を見せてから、隣の部屋へ誘った。


ノックしてしばらく。

ドアが開いたら、すごい勢いで閉められた。


明日香をドアの前で待機させてたら、驚きのあまり勢いで閉めたみたいだ。


その証拠に、ドアを少し開け、隙間から現状把握をしているようだった。


俺は、ノブに手をかけゆっくりと引っ張った。


「何やってんだ?みずほ。それに葵も。とりあえず、彼女が神丘明日香。こないだプロポーズした俺の彼女だ。そして、明日香。ドアの前で固まってるのが、妹のみずほ。座ってるのが、友人の深月葵。」


「初めまして、みずほさん、深月さん。将兵さんとお付き合いさせていただいております、神丘明日香です。よろしくお願いしますね。」


俺に続いて、明日香は上品に頭を下げた。


「おーい、みずほ。いつまで固まってるんだ?そろそろ再起動してくれ。」


みずほの前で手をヒラヒラさせながら、呼び掛けたらようやく戻ってきた。


「お兄ちゃん。今、そこに御堂明日香がいたような気、が、し、た……って、ほんとにいるーーー!!」


勢いよく食いついてきたが、視界の端に捉えたのか、ギ・ギ・ギと音が聞こえるような仕草で、俺の隣に立つ明日香に向けて、首を動かし、叫んだ。


「って、ちょっと待って、今、神丘明日香って名のってたよね。そうよね、本物の歌姫がお兄ちゃんの彼女なわけないよね。うん。」


妹が何か俺に対する残念な評価から、どこか生暖かい目で俺を見て言った。


「お兄ちゃん。カメラどこ?これ、モニタ◯ングでしょ。」


カメラを探すように、キョロキョロしていた。

とりあえず、みずほにチョップしながら、否定したら、今度は、明日香に向かってしたり顔で、明日香に矢継ぎ早に問いかけてきた。


「じゃあ、御堂明日香によく間違われません?そんなに似てたら大変じゃないんですか?でも、こんな美人さんが彼女だなんて、歌姫じゃなくても、驚きなんですけど。お兄ちゃん何かとは釣り合わないし、もっといい人がいるんじゃないですか?ホントに彼女ですか?レンタルとかではなく?」


妹の暴走を止めようと、口を開きかけたら、明日香の目に止められた。


「みずほさん。改めまして、私は御堂明日香という名前で、歌手として活動しております。本名は神丘明日香と申します。それから、モニタ◯ングではないですし、レンタル彼女でもないですよ。それと、将兵さんはとても素敵な御方ですよ。もし、釣り合う、釣り合わないということになれば、私の方が釣り合わないと言われるかもしれません。」


明日香を抱き寄せながら、伝えた。


「明日香。いくらなんでも、それはないよ。みずほの言う通り明日香に対して、俺は釣り合いがとれてないと、多くの人が思うと思うよ。でも、君がいつも言ってくれてるように、周りがなんと言おうと、俺には、君しかいないから、自分を卑下しないでほしいな。」


明日香は、俺の肩に頭を預けて微笑んだ。


「ええ、でも、本当の貴方を知る方々には、そのように思われているのかもしれません。ですから、私は貴方とのことを、誰からも認めてもらえるように頑張らなくてはいけません。決して自身を卑下しているわけではありませんわ。」


「ありがとう、明日香。俺もふさわしい男であれるように頑張るよ。」


「ふふっ。そうですわね。私も支えていけますように、これからもお世話させていただきますね。将兵さん。」


自然とお互いに見つめあっていると、腕をぐいっと引かれた。


「お兄ちゃん。いきなりイチャつかないで!じゃあ、ホントに明日香さんがお兄ちゃんの彼女で、お義姉ちゃんになるの?」


「ええ、先日将兵さんにプロポーズと共に指輪をいただきました。もちろん、慎んでお受けいたしました。宝物のひとつですわ。」


愛しそうに左手の薬指に触れた。


「お、お兄ちゃん。明日香さんすごい幸せそうな表情なんだけど……。あんな表情みたこと無いよ。ホントなんだね。」


チラッと葵を見た後、なにか思い付いたのか、ニヤニヤとしだした。


「ねぇ、お兄ちゃん。そんな素振り全く見えなかったのに、二人はいつから付き合いだしたの?どっちから告白したの?いつデートしてるの?二人はどこまでいったの?」


答えようと思ったら、明日香が袖をくいっと引いたので、慌てて廊下の時計をみて、頷いた。


「みずほその答えは、夕食の時でいいか?もうそろそろ時間だから、準備してくれ。それと、葵の用事は終わったのか?」


葵の方に目を向けると、青ざめた表情でこっちをみていた。


「葵、どうしたんだ?顔色が悪いけど?具合でも悪いのか?」


心配だったので、声をかけたが、ただ首を降り続けるだけだった。


「すみません。将兵さん。少しお時間いただいてもよろしいですか?それと、お部屋お借りいたしますね。」


俺がうなずくのを確認したら、葵の手を引いて、俺の部屋へと入っていった。

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