第8話

Side  みずほ


連絡もなく、いきなり訪ねてきた葵さんに、私はニヤつきながらブーたれていた。


「ねぇ、葵さん。来るのはいいけど、連絡くらいはほしかったかな~。これから、お兄ちゃんの彼女が来るんだから。未来のお姉ちゃんはどんな人かなぁ?」


「ごめんってみずほちゃん。昨日から、なんかこう頭の中がぐちゃぐちゃして気づいたらここに来ちゃってたの。」


テンパってる葵さんを見てたら、だんだん可愛く見えてきたので、からかうのをやめて、これからどうするのか聞いた。


「葵さん。うちに来た理由はわかりましたから、これからどうしたいんですか?」


葵さんは、アゴに手を当てて首をかしげながら、口を開いた。


「まずは、将兵を好きになる女なんかいないんだから、絶対騙されてるわ。だから、騙されてることを突きつけるわ。そして、叩き出してやるわよ。そして、傷心の将兵を慰めて、こ、告白するわ。もし、騙されてなくても、付き合いの長さは私の方が長いから、宣戦布告して将兵を私に惚れさせるわ。」


聞いてたら、なんか無茶苦茶なことを言ってることに気づいた。

そこで、フッと気づいたことがあったので、聞いてみた。


「ところで、葵さん。お兄ちゃんに好きって気づいてもらえるようなアプローチはしてるの?」


「もちろんしてるわよ。よ、よく好きって言ってるし、か、間接キスだってしてるわよ。手だって繋ぐこともあるし。」


「で、その時のお兄ちゃんの反応は?」


なんか残念臭を感じたけど、一応聞いてみた。


「食事してるときとかに好きっていったら、俺も好きだって言ってくれるし、ジュースとか飲んでるの見てたら、飲ませてくれるし、人混みで手を繋いでくれるのよ。好きじゃなきゃしてくれないでしょ。」


やっぱり思った通りだった。お兄ちゃんは葵さんを異性として見ていない。友人や妹のように思ってるんだと確認できた。自分のアプローチが伝わってると思ってる葵さんを見て、はぁっとため息を吐いて現実を教えることにした。


「葵さん。残念ながら、お兄ちゃんには伝わってないです。葵さんがお兄ちゃんに好きっていってても、シチュエーション的に多分、料理が好きだとか、葵さん以外のことを言ってるんだと思います。又、ジュースとかは普通に友達同士でやる感覚ですね。手を繋ぐのははぐれないためでしょうね。たまに私もされますし。お兄ちゃん鈍感だから、直接言わないと気づかないと思いますよ。」


「じゃあ、将兵は私のことを異性として意識してないと、私一人勘違いして盛り上がってたってことなの?」


「ごめんなさい。そうなっちゃいますよね。で、でも、これから巻き返せるかもしれないですし。」


葵さんは突きつけられた事実に衝撃を受け、自分の行動を思いだし、顔を赤くして、クッションを抱えて部屋の隅でうずくまってしまった。


「葵さん、大丈夫です。お兄ちゃんは気づいてないから、恥ずかしくないですよ。」


「それが一番恥ずかしいんじゃない!それに、その言い方だと回りは、少なくともみずほちゃんは、気づいてたんでしょ。」


「ソ、ソンナコトナイデスヨ。キヅイテマセンヨ。」


「目をそらしながら言われても説得力ないわよ。あーもうサイアク。これまでの私をぶん殴ってやりたいわ。みずほちゃん。私のことはいいから、将兵の恋人って人に会ってきて。私はもう一度出直してから来るわ。。今日のところはこっそり帰るから。」


「会わなくていいんですか?そのために来たんでしょ。一緒に行きましょうよ。葵さん。気になってるんでしょ。ライバルとして。お兄ちゃんを好きになったのが、どんな人なのか。女は度胸です。」


葵さんを無理やり引っ張って部屋を出ようとしたとき、ドアをノックされ、お兄ちゃんの「入っていいか」という声がした。


「ん、ちょっと待ってお兄ちゃん。今開けるから。」


ドアを開けたら、驚きのあまり思わず閉めてしまった。

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