第6話
ピンポーン
リビングの掃除が終わり、不備がないか確認しているとチャイムが鳴った。時計の針はまだ十時を指しておらず、予定より早いなと思いながら、慌てて玄関へと向かった。
扉を開けると、そこには何故か葵が立っていた。
「忙しいところにごめんね。将兵。みずほちゃん呼んでもらっていい?」
「おう、とりあえず上がれよ。みずほー。葵が来たぞ。」
「おにいちゃーん。私の部屋に来てもらってー。」
葵にも聞こえていたようで、俺の横をすり抜けて、みずほの部屋に向かっていった。
リビングに戻ると、お袋が麦茶をグラスに注いでいて、持ってくように渡された。
みずほの部屋に持っていき、時計を見ると十時近くになっていたので、玄関へと向かった。
ピンポーン
玄関に着いたとき、タイミングよくチャイムが鳴り、扉を開けた。
そこには、待ち望んでいた女性が優美に立っており、その美しさに一瞬見惚れてしまっていた。
「こんにちは、将兵さん。お待たせして申し訳ございません。」
「時間通りだし全然待ってないよ。それよりも明日香、暑かったろ。さ、上がって。」
「はい。ここが将兵さんの育った家なのですね。少しドキドキしますね。」
明日香はスリッパを履きながら、興味深そうにまわりを見回していた。
「そうだね。出会ってからずっとうちに連れてきて紹介したいと思ってた。じゃあ、リビングに行こうか。」
リビングに向かおうときびすを返したとき、袖を引っ張られる感覚がしたので、振り向いた。
「すみません。将兵さん。まずはお義父様にご挨拶させていただけませんか?」
「そっか。うん、そうだね。じゃあ、ついてきて。」
俺は明日香をつれて、神棚のおいてある和室に入った。
優美な所作でお供えをして、手を合わせ、しばらく佇んでいた。
その姿を後ろから眺めていると、挨拶が終ったのか振り返った。
「ありがとうございました。次はお義母様に挨拶をさせていただけませんか?」
「じゃあ、リビングに行こうか。」
俺は、明日香をつれて今度はお袋の待つリビングに向かった。
リビングにはいると、テーブルにはすでにお茶がセッティングしてあり、とりあえず明日香を席につくようすすめた。
お袋はというと、明日香を見た瞬間驚いたのか、口を大きく開けて固まっていた。
「お袋。固まってないで、とりあえず挨拶させてもらえないかな。」
「し、しょうへい。もうちょっと待って、深呼吸するから。」
そう言ってお袋は、「ヒッ、ヒッ、フー。」と何故かラマーズ法で呼吸し出した。
「お袋。彼女が昨日話した、結婚を前提にお付き合いしている人です。」
「初めまして。お義母様。将兵さんとお付き合いさせていただいております、神丘明日香と申します。よろしくお願いいたします。」
「ち、ちょっと、将兵!本物なの?」
「お袋、いくらなんでもひどいんじゃない?そんなに俺って信用ないの?本物の彼女だよ。」
「違っ、そうじゃなくて!本物の御堂明日香なのかってことよ!って彼女!?彼女って言った?どっきりじゃないわよね?」
「そっちなの?どっきりじゃないし、ちゃんと彼女だよ。」
「あのっ、お義母様。確かに私は御堂明日香として活動しておりますが、将兵さんとは真剣にお付き合いさせていただいております。」
お袋は、ジーッと明日香の目を見つめ、しばらくして、ホウッと息をついて口を開いた。
「ごめんなさいね。将兵が貴方のような美人を連れてきたことに驚いてしまって。この子にそんな甲斐性があったってことにも驚きで。明日香さん、ひとつ聞いてもいいかしら?うちの愚息で良かったの?もっといい人が世界中にはたくさんいるんじゃない?」
「そんなことございません。将兵さん以上の人なんていません。将兵さんは優しくて、強くて、 かっこいいんです。むしろ私の方が将兵さんに見限られないように努力しなければいけないくらいなんです。それに、初めてお会いしたときより、私は将兵さんしかいないのです。それ以外の方とは考えたくもありません。」
「お袋。俺も明日香と同じなんだよ。出会ってからずっと惚れ続けてる。明日香以外に目を向ける気なんて……ないよ。」
一瞬ある女性が頭をよぎったがすぐに打ち消した。
「将兵、今の一瞬間が空いたけど、どういうことかしら?やっぱりこれってどっきりじゃないの?」
「違う。どっきりじゃないよ。ちょっと噛んだだけだ。明日香以外いない。」
「大丈夫ですよ。将兵さん。私は信じております。ずっと見てきましたから。」
「それよりもお袋。彼女との結婚を認めて欲しいんだけど。」
「将兵。私は今日初めてお会いしたのよ。結論を急がせないで。明日香さんと結婚するのを認めたとして、彼女は今後も仕事を続けていくのでしょう。いざ結婚したとしてもすれ違いが多くてうまくいかなくなるかもしれないでしょう。そこのところはどうするの?」
「お義母様。その事に関しては問題ありません。今度のライブで引退を宣言しますので。」
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