第5話
プロポーズを終え、その日のうちに神丘家への挨拶は済ませた。最も、以前より親しくしていたのと、初対面の時から何故か気に入られていたので、すんなりと話が纏まった。うちのお袋への紹介は次のオフに、つまり父さんの命日に、一応婚約発表はライブの時に行うことを決めて、その日は別れた。
「じゃあ、明日は例年どうり午後からお墓参り、そして、食事に行くから。用事があるならそれまでに済ませてちょうだい。」
父さんの命日を明日に控え、鈴城家を支えてきたお袋、鈴城
「もちろん明日は予定いれてないから、私は大丈夫だよ。お兄ちゃんは?」
「ああ、お袋、みずほ、お願いがあるんだけど、明日の午前中、紹介したい人がいるから、会って欲しいんだ。いいかな?」
「お、お兄ちゃん、それって、まさか?」
「将兵、彼女なの?ねぇ、彼女なの?」
いきなりの俺の言葉にハイテンションになった二人が身を乗り出してきた。
「ああ、もちろん。プロポーズしたから、顔合わせをかねて会って欲しい。もちろん、父さんのお墓参りにも一緒に行こうと思ってるよ。」
「ねぇ、それって葵ちゃんなの?将兵?」
「ホント?お兄ちゃん。本当に葵さんなの。」
何故か葵が出てきた。
「何で?一言も葵なんて言ってないけど。」
「何でって、将兵の交遊関係で葵ちゃんしか心当たりがないからねぇ。」
「私もお兄ちゃんは葵ちゃんと付き合ってるってずっと思ってた。違うの?」
「違う違う、そんな関係じゃないよ。葵とは友達だ。それに、そんな勘違い葵に失礼だよ。葵が好きなのは伊東だし。」
二人はお互いに目を合わせて、「何言ってるんだこいつ。」とでもいうように、あきれたような目で俺を見てきた。
何故そんな目で見られるのか分からず、首をかしげると、二人は再び顔を合わせて、こそこそと「まさか……。」「いや、でもおにい……だし。」「あお……けっこ……アプ……たけど。」しばらくやり取りしていた。
「お兄ちゃん。鈍いって言われない?」
「ん、いきなりどうした。言われたことないけど。」
「確かに将兵は、人の心の機微には敏感な感じがしてたのよねぇ。恋愛感情だけ鈍感なのかしら。」
「じゃあさ。葵さんじゃなかったら誰なの?お兄ちゃん。心当たりがないんだけど。」
「明日まで秘密だ。でも、きっと気に入ると思うよ。楽しみにしてろよ。」
そう言って俺は、自室へと向かった。
Side みずほ
お兄ちゃんが部屋に戻った後、私も慌てて自分の部屋に戻り、葵さんにループで連絡した。
葵さんとはお兄ちゃんが大学生の時に、鷲嶋さん達と一緒に遊びに来たことがきっかけで仲良くなった。それから4年の付き合いで、今ではお姉ちゃんみたいな感じで、よく相談にのってもらっている。出会ってからすぐに、お兄ちゃんに気があるとわかったから、それからは、二人が付き合えるように応援していた。
数コールの後、ループが繋がった。
「どうしたの?みずほちゃん。」
「葵さん!落ち着いて聞いてくださいね。明日、お兄ちゃんが彼女紹介するって、プロポーズもしたって言ってきたんです。心当たりありますか?」
「えっ、ええぇぇ?」
トサッという音と共に静寂が訪れた。
「みずほちゃん。今日はエイプリルフールじゃないわよ。流石にこれはみずほちゃんらしくないわよ。」
「葵さん。私も冗談でもこんなことは言わないです。突然言われて、ビックリしたんですから。私だって冗談と思ったんですけど、お兄ちゃんは真剣でした。ほんとは知らせようか迷ったんですけど。」
「ううん、ありがとう知らせてくれて。ちょっと用事ができたから切るね。」
葵さんはそう言ってループを閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます