第4話
明日香を抱き締めながら、俺は話続けた。
「あの戦いの後から、君との時間が増えていくにつれ、だんだんと自分の気持ちを押さえられなくなって、でも、再び戦いに飲み込まれるかもしれない、直ぐに死ぬかもしれない。だから、そんな人間が人を想っちゃいけない。この想いは心を殺してでも抑えようと思ってた。そんな時、君から遊園地に誘われた。あの日最後に乗った観覧車で、夕日に照らされた君を見て、その美しさにするつもりではなかった告白をしてしまった。君が答えてくれようとしたのを遮って、無かったことにしてほしいと、忘れてほしいと、今にして思えば、最低の告白だった。君は『私には、貴方が何故そのようなことをおっしゃるのかはわかりかねます。ですが、貴方の心の苦しみは取り除きたいのです。何よりも大切な貴方が苦しむ姿は見たくありません。貴方は生ある限り幸せになっていいのです。貴方が伝えないなら、私が貴方に伝えます。』そう言って俺を抱きしめながら、告白してくれた。嬉しかった。君と幸せになろうそう決意した矢先に、再び戦いの渦へと飲み込まれて、つらい時には君が常に支えてくれた。」
そこで俺は、明日香をさらに抱き締める力を強めた。
「あの日、目の前で父さんを失って、お袋や妹の悲しむ姿を見て、自分自身の不甲斐なさや、俺のせいでお袋達の幸せを奪った、俺のせいで父さんが死んだ。そんな罪悪感が押し寄せてきて、俺は誰も幸せにすること何て出来ない、傷つけるだけの存在だと思い込み、次第に戦いの中で死ぬことを望むようになっていった。ただただ、罪の意識から逃れようと、自分を傷つけて、回りを傷つけて、自暴自棄になっていた。こんな想いをしているのは自分だけじゃない。そんな当たり前のことを忘れて、暗い哀しみに身を任せて、当たり散らしていた。明日香やお袋達の想いに気付かずに。そんな中、無謀にも敵に突っ込んで、生死を彷徨う大怪我をおった。」
当時を思い出したのか、今度は明日香のほうからぎゅっと抱きしめられた。
「目を覚ましたときの君の泣き顔をみても、なんの感情も浮かばなかった。だけど、『貴方が私の最愛を奪わないでください。もうこれ以上まわりに悲しみを与えないでください。』初めて君に怒られて、その後のお袋達の想いを聞いて、本当の意味で、目が覚めた。自身の愚かさと回りの想いを改めて気づいた。あの時にようやく俺は父さんの死にきちんと向き合えたんだ。今こうしてちゃんと生きていられるのも、愛しいと感じることが出来るのも、全ては明日香が傍にいて支えていてくれたからなんだ。ありがとう、傍にいてくれて。ありがとう、支えてくれて。愛してます、明日香。」
ここまで俺の独白を静かに聞いていた彼女。空気が変わったことが分かったのか、どうしたの?とでも言うように、俺の胸から顔を放し、首をかしげながら澄んだ瞳で見つめてきた。
そこで俺は明日香を放し、素早く片ひざを付き、ポケットから用意していた婚約指輪を明日香の前に差し出した。
「世界中の『歌姫』御堂明日香のファンから恨まれるかもしれないけれど、俺だけのために歌ってほしい。傍にいてほしい。笑っていてほしい。そして、誰よりも君を愛してます。神丘明日香さん。結婚してこれから先の人生を俺と共に歩んでください。」
そう告げた瞬間、瞳にたっぷりの涙を貯めた明日香が抱きついてきた。俺は支えきれず、床に倒れながら泣き止むまでの間、頭を撫で続けた。
ようやく落ち着いたのか、まだ潤んだままの瞳を向けて、そのまま何度も口づけを交わした。
「ずっとお待ちしておりました。貴方とお会いしたその日から、いつかこのような日が来ることを待ち望んでおりました。私も貴方と共に過ごして生きたいと思っております。愛しております。将兵さん。」
そういった彼女の笑顔は、出会ってから一番の最高に美しい笑顔だった。
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