第3話

風呂から上がり、昼間見た彼女の顔色が気になり、ループを立ち上げた。

打ち込もうとしたら、通知が届いた。


『将兵さん、お時間よろしいですか?』


『俺もちょうど連絡しようと思ってた。昼間みたとき、だいぶ疲れが貯まってるようだけど、大丈夫?大事をとって、明後日のオフのデート中止しようか?』


『それは絶対に承諾したくありません。貴方に逢える日を糧に頑張っています。ですので、貴方に逢えなかったら、とても頑張ることは出来ません。』


『わかったよ。じゃあ、予定変更で出掛けるんじゃなく家でデートしよう。明日香は休んでて、俺がお世話するから。』


『いえ、貴方をお世話することは、私が好きでしていることですので譲れません。例え疲れていても、貴方と共にいられるのであれば、疲れなどなくなります。ですので、おうちデート賛成です。満足するまでお世話いたします。』


彼女の頑固さにため息を漏らしつつも、俺を想う優しさに、昼から生まれたモヤモヤが、癒されるのを感じた。


『わかったよ。じゃあ、二人でお互いをお世話しよう。だから、今日のところは、まだ話していたいけど、ここで終わりにしよう。無理して体調崩したら元も子もないからね。』


『そうですね。残念ですけど、貴方の言う通りです。明後日の楽しみにとっておきます。おやすみなさい。将兵さん。』


『ああ、おやすみ明日香。』


俺は、ループを閉じ、机の引き出しを開け、先日買った物を撫でた。


止まっていた時を、前へと進める覚悟と、長かった13年に想いを馳せながら。






約束の日の朝、彼女、神丘明日香かみおかあすかの家のドアに鍵を差し込もうとした瞬間、鍵の開く音がしたので、鍵をしまいドアを開けた。


最初に感じたのは柔さ、暖かさ。そして、心のそこから落ち着けるような優しい香り。確かな存在感を感じて、気がつくとギューッと抱き締めていた。


「久しぶり。そして、ただいま。明日香。」


「はい。お逢いしたかったです。お帰りなさい。将兵さん。」


言葉を発した後は、お互いの存在を確かめるかのように、しばらく玄関先で抱き締めあった。

その後、俺たちは、明日香が入れてくれたコーヒーと手作りクッキーを片手に、お互いの近況を話し合った。


気がつけばお昼を過ぎており、二人でお昼ご飯を作って、いや、正直にいうとほとんど明日香が作ってしまったが、お互いに食べさせあった。


食器を片付けた後の午後は、明日香に膝枕されながら、心の中で今後の計画を確認していた。そのせいかふと、明日香との出会いを思い出していた。


「明日香と出会ったのってちょうど13年前の今頃だったよなぁ。」


「今でもはっきりと覚えています。機械生命体が初めて確認され、町が破壊されたあの日。逃げ遅れ怪我をしていた私をシェルターまで連れていってくださったのが出逢いでしたね。」


「あの頃の俺は、カイザーとの約束を胸に生きてたから、行動を起こすのにためらいはなかったからね。」


「本当にあの時は諦めていましたから。回りは自分のことで一杯で、誰も私の声を聞いてもらえませんでした。そのような中でも貴方が、手を差し伸べシェルターまで運んでくださりました。」


「今にして思うと、一目惚れだったのかもしれない。俺の目は、あの一瞬君に引き寄せられたいたから。そして、そこから君と関わりが増えていった。」


「私の目も、貴方に引き寄せられていました。あの混乱の中で一瞬喧騒が消え、貴方と私、二人だけの世界にでもなったような気がしました。私もあの一瞬で恋に落ちたのだと思います。でも、その気持ちをわかろうとして貴方を探していたのだと思います。」


「だから、君と会う確率が高かったんだ。俺が自分の気持ちに気づいたのは、逃げ出して震えていたときに、テレビのニュースでお袋と、妹、そして君が映し出されていたときなんだ。それをみた瞬間、失う恐怖で戦う恐怖が上書きされて、再び戦うことが、守ることが出来た。そこから意識し出したんだ。」


「その時から、私たちは想いあっていたのですね。きっと私たちは、出逢うべくして出逢う運命だったんですね。」


頬を染め、感極まった彼女は、感情のままに俺に抱きついて、胸に顔をうずめてきた。






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