最後の日常

第1話 

気がつけば、料太たちを強制転送させ、ブレアが駆けつけて来て300秒が経過した。




敵の増援はなくなったが、幹部クラスとの戦いは熾烈を極めた。




予定時刻まで残り300秒。使用可能兵装は90%が使用不可となっていた。






本来なら、撤退一択の状況だが、やつらの狙いが『御堂明日香』であり、そして、切り札である彼等を、『彼女』の元へと送り出す。その作戦の為、引くに引けない戦いとなっていた。




再び刀を持ち、敵のただ中へと飛び込み、回転切りで吹き飛ばし、さらに近づいてくる敵を、唐竹、袈裟切り、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、左切り上げ、右切り上げ、逆風とただただ無心で斬り結んでいた。




『アラート。ミサイル接近中!着弾まで360秒。推定被害範囲、着弾点より半径30km。退避を推奨します。』




『アーティー』からの突然の警告。出来ることならその提案に全力で乗っかりたいところだが、ミサイルへの対応する時間を作るためギアを上げようとした。




しかし、ミサイルへ意識がそれた一瞬のうちに、敵幹部たちは俺たちから距離をとっていた。




「申し訳ありません。戦闘はここまでのようです。皇帝陛下より撤退命令が出ました。どうやらあなたごとミサイルで吹き飛ばすことにしたようです。別に逃げてもらっても構いませんよ。出来るものならですけどね。では、またお会いしましょう。生き抜くことが出来たらの話ですけどね。」




そういって敵幹部たちは空間の揺らぎの中に消えていった。俺は急いで会長へと通信回線を開いた。




「会長!今ここにミサイルが接近している。着弾まであと4分もない。あとどれくらいで発進できるか」」




『もうすぐ発進シーケンスが完了する。すぐに戻ってこい。回収次第発進する。』




「それは出来ない。放置すればこの付近60㎞が吹き飛ぶ。この付近のシェルターに避難している人たちを見捨てる選択なんてしたくない。。悪いが俺はこのままミサイルを破壊しに行く。俺を置いてそのまま行ってくれ。」




『何をいってるんだ、将兵。お前を置いていけるわけないだろう!ミサイルを破壊しに行くなら、俺たちも行く。待ってろ!』




「料太!一時の感情で大局を見誤るな!今は俺よりもネルティエルターナへ行く事だけを考えろ!明日を守るために今何をなすべきかを考えるんだ!それに切り札はまだある。そいつを使えばミサイル一個余裕で破壊することが出来る。それに、何も俺は死にに行くわけじゃない。ミサイルを破壊したら必ず後から合流する。必ずだ。」




俺は一方的にそう告げ、すぐ発進できるよう『イデ』へと命じた。




「『イデ』シーケンスは最低限必要なもののみ行え。残りは破棄してかまわん。完了後すぐに発進しろ。」




『了解。最上位ランクからの命令を確認。すべてのシーケンスを破棄。本機はこれより、ネルティエルターナ皇国へと発進致します。発信まで10カウント。8、7、6、5、4、3、2、1、0、発進します。』




飛び立つブレイブベースを確認した俺は、すぐに宇宙戦艦を降下させ、乗り込んだ。ジェンたちが作ったEscaの最終形態、騎士型のロボットへと変形させ、ミサイルへ向けて飛び立った。




迫りくる巨大なミサイルからこの星を守るために。


・・・・あの時には、こんなことになるとは思ってなかった。


§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


「見ろよ、ショウ!今日のヒル◯ンデスのゲストは御堂明日香みどうあすかなんだぞ!」

ようやく終わった午前の業務。疲れた体を休めるべく、昼のワイドショーをBGMに、ぼんやりと弁当を食べていた俺、鈴城将兵すずきしょうへいは同僚の伊東浩平いとうこうへいのハイテンションな声と共に、体を揺すぶられて、我にかえった。

言われるままテレビを見れば、確かに今では世界でもっとも有名になったディーバ《歌姫》御堂明日香が映っていた。ちょうどコメントを求められていたみたいで、透き通るような美声で答えようとしていた。

しばらくテレビを見ていると、

「やっぱ、歌姫はスゲーな。そう思うだろ!ショウ。」

「確かに、すごく頑張ってるなぁとは思うよ。彼女を見ると活力が湧いてくるしね。」

「わかってるなぁ、ショウ。でも、歌姫のすごさはそれだけじゃない!まずはその容姿。腰まで届くしなやかな黒髪、常に儚くも優しき微笑みを称えた整った顔つき、更にスタイルもよく、染み一つない肌は全女性の憧れとまで言われるほど、そうまさに世界一の美人といっても過言じゃない。それに、家事全般が得意という女子力の塊、更に性格も良く、大和撫子を体現している完璧な女性なんだよ!恋人、奥さんにしたい女性芸能人では常にトップを走ってるんだぜ!あいつにも見習ってほしいよな。」

「あいつって深月のことかしら?伊東?」

「そうそう、深月に決まってんじゃん。あいつが歌姫に並べるのって胸のでかさだけじゃな・い・か…」

ギギギと音が聞こえるくらいのぎこちない動きで振り返った浩平の視線に先には、笑顔の女性が立っていた。

「み・深月、いつからそこに?き・今日もかわいいね。笑顔がキュートだね。」

「伊東、サイテー。そんなんだから、社内男性ランキングで万年最下位なのよ。少しは、将兵を見習ったら。ってごめん。可能性はゼロだったわ。それよりも将兵、明日香みたいな子がタイプなの?でも、彼女には恋人がいるって話じゃない。」

浩平と言い合っていた女性ー彼女は大学のときに起こった事件をきっかけに友人になったー深月葵みつきあおいが俺に少し焦りながら聞いてきた。

「いや、ただ浩平に言われてみてただけだけど、頑張ってるなぁって思ってただけだよ。少し、顔色も悪いように見えるし。」

「ちょっ、社内ランキングってなんだよ。最下位って、そんなの俺聞いてないぞ。」

「伊東、うるさい。将兵の声が聞こえない。最後のほうは聞こえなかったけど。」

「何でもないよ。それよりも、二人とも落ち着け。休憩時間なんだから、おとなしくして午後に備えて休もうよ。」

「そうね。バカはほっといて、それより将兵。聞いた?ネルティエルターナの皇女様の話。わたし、感動しちゃったー。皇女様の頑張る理由聞いて。地球と国交を結ぶ理由が愛する人を探す為なんて、ロマンティックじゃない?」

「そんな話だったっけ?愛する人じゃなくて、恩人だったと思うけど。」

「わかってないわ、将兵。ネルティエルターナからの中継会見みたでしょ、あれは間違いなく好きな人を探してる、恋する乙女の目だったわ。絶対叶って欲しいわ。そしたら私も勇気が持てるし。」

「深月、お前じゃ無理だ。まずはそのがさつで暴力的な性格を直してからじゃないとな。」

再び始まった浩平と葵のやり取りを、懐かしい名前をきいたせいか、気づけば頬を緩めていた。それに気づいたのか、いつの間にか二人は口論を止め、不思議そうに俺をみていた。

「いや、平和だなぁと、こんな何気ない日常が遅れるようになったんだなぁと思ったんだ。こんなふうな日常が15年前の 異星人襲来から壊されて、2年おきくらいに10年近くも事件が起こって、死に体だった人々がようやくこの5年で立ち直ってこれた。それがなぜか嬉しくてねぇ。ごめん。なにいってるんだろうね。俺は。」

「珠に俺も思うよ。でも、希望はあったと思う。だから、辛い時代でも生き抜いてこれたし、頑張って復興できたと思う。」

「そうね。希望という名のヒーローがいたからね。彼らのお陰で私たちはこうしてここにいることが出来てるんだと思うわ。」

「だけど、多くの命を救うことはできなかった。後手にしかまわれず、もっと力があれば救える命も多かったと思う。」

当時を想い、やりきれない気持ちが湧いてきて、思わず口をついてでた言葉に、空気が凍った。











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