第52話 本場仕込みの讃岐うどん
中間テストが終わってクラスの空気が少し緩んだ。
「終わっちゃったな…」
ジョンだけが残念そうだ。
「終わってほっとしているわ」
「どうしてジョンは残念そうなんだよ」
「だって試験って学校っぽいじゃないか」
クラス中が『これだから天才は…』という空気に包まれた。
「みんな聞いてくれ!」
声を上げたのはクラスメイトの直宏だ。讃岐領の次男で独学でデザインを学ぶ直宏は将来はグラフィックデザインの道に進むと宣言している芸術家肌のクラスメイトだが、うどん好きで有名だ。
「四国研究会で今日はうどんの試食会をやるんだ。みんな来てくれよな!」
「まあ、本場仕込みの讃岐うどんをいただけるのかしら!?」
桜子が大興奮だ。
「桜子さんに喜んでもらえるクオリティのうどんを打つよ!」
「私も研究会のメンバーだからスタッフとして手伝うの」
クラスメイトの登美子も研究会のメンバーらしい。登美子は土佐領の長女だが兄がいるので領地を継ぐ必要はない。将来は作家を目指す文学少女だ。直宏と登美子は創作好きのご近所同士、子供の頃から仲の良い幼馴染だ。
「登美子がリープルを用意してくれたから期待してくれ」
「まあ!リープル!」
「桜子さんはリープルもご存知なの?」
「もちろんよ!超ロングセラー乳酸菌飲料よね?私もコバたんも大好きなの」
乳酸菌飲料は基本的に白っぽいのでコバたんの好物だ。
待ちきれない桜子を中心にクラスのみんなで調理室に移動すると四国研究会のメンバーである先輩方が調理中で先輩方が舌鼓を打っていた。
「まあ!手打ちを見学出来るだなんて嬉しいわ!」
桜子がますます興奮する。
「さあ、どんどん茹でていくぞ!」
直之と登美子もスタッフに入って、どんどん茹で上がる。
「今日は“かけ”と“冷やしぶっかけ”を用意した。少なめに盛るから両方試していってくれ」
“かけ”は薄めのだし汁をかけて刻みねぎと天かすをトッピングしてあり、“冷やしぶっかけ”にはレモンと大根おろしを乗せてある。
順番に配られ、調理室に美味いという声が響く。
「桜子さんは普通盛り?小盛り?」
「普通盛りをいただいてもよろしいの!?」
「じゃあ普通盛りね!」
調理場の先輩方も桜子の反応に大喜びだ。
「桜子さんが小さな頃、
「覚えているわ。まだ7歳の子供だったから1日に23杯しか食べられなくて残念だったの。次に来た時は今回食べられなかったお店のおうどんも食べたいけど、今回いただいたお店も美味しくてまた食べたいから困ると思ったの」
7歳で1日に23杯はすげえ…という空気になった。
「そのコメントが地元の新聞に掲載されて領民は大喜びだったよ。
「胃腸が弱くて恥ずかしいわ…次に訪問したら、あの時の3倍はいただくつもりなの」
「桜子さんは胃腸が丈夫な方だと思うよ。でも無理しないで。一度にたくさん召し上がるよりも何度も来てくださると嬉しいよ」
直宏の兄の源内が食べ過ぎてくれるなと桜子を嗜めた。
桜子は普通盛りのうどん2人前を美味しそうに完食した。
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