第51話 新米の季節
「よろしかったら召し上がって」
越後領の末っ子のいさ子が自慢のコシヒカリの新米を配っていた。
「嬉しいわ!いさ子さんの領地のコシヒカリは大好物なの!コバたんには塩むすびにしましょうね」
「クポー!」
コバたんはいさ子に抱っこされて愛想を振りまいている。
「ふわふわで可愛いわ」
いさ子もデレデレでWin-Winだ。
「お米って秋に実るのか」
ジョンが珍しそうにお米の入った袋を見つめる。
「やっぱりアメリカはパンを召し上がることが多いの?」
「朝はコーンフレークで昼はPBJのサンドイッチで決まりだから他のものを食べるのは夜くらいしか無いけどパンかパスタが多いな。米やアジアのヌードルはたまに外食で食べるくらいだなあ」
「うちの領地は朝も昼も夜もお米ばかりなの」
「美味しいお米の産地ですものね」
「ありがとう桜子さん、ぜひ美味しく召し上がってね」
いさ子は頻繁に領地の美味しいものをお裾分けしてくれるクラスの人気者だ。控えめに勧めてくれて嫌味なところがなく、いつもニコニコしており、今も新米を渡しながらクラスメイトに囲まれている。
「俺ももらってしまって良かったのか?」
「ジョンだってクラスメイトじゃないか」
「美味しく料理するなら手伝うわ」
桜子の意気込みが熱い。
「新米なら炊きたてが美味いだろう」
「ジョンには味付きのご飯の方が喜んでもらえるんじゃない?」
「じゃあ土曜日にうちで料理しよう」
「そうね」
桜子とヒロによってジョンの土曜日の予定が決まった。
「お邪魔します」
「ガッチャ!」
「ワフ!」
「こんにちは、テックン、梅子ちゃん」
「待ってたぞ」
土曜日になり、桜子とコバたんがヒロの家にやってきた。一緒に料理をしてお昼に食べる予定だ。
梅子を沖田さんに預けたら、3人とも手を洗ってエプロンを着けて準備は出来た。
「今日は何を作るんだ?」
「俺と桜子で話し合って、定食スタイルよりも丼の方が初心者向けだってことになった」
「小ぶりなステーキ丼と親子丼を作りましょう」
親子丼もジョンなら問題無いと思うが保険でステーキ丼もラインナップに入れた。
「まずはお米を土鍋で炊く準備をしましょう。アメリカに帰ったら炊飯器が無いでしょうから」
「土鍋はこれだ。大きめのを用意した」
「じゃあお米を研いでみましょう。お米は1合が180ml、この計量カップにぴったり入れるとちょうどよ」
「今日は4合炊こう。桜子が2合、ジョンも2合、合わせて4合だ」
桜子が見本を見せて一緒に炊くことにしたようだ。
「お水を加えたらすぐに底から2〜3回混ぜてお水を捨ててね。糠の匂いのついたお水をお米が給水してしまうのを防ぐらしいわ」
「桜子の家の料理人のやり方か?」
「そうよ」
「それは間違いなく美味しく出来そうだな」
「お水をしっかり切ったらお米を研ぎます。力を入れすぎるとお米が割れてしまうから優しく研いでね。研いだら水を入れて白く濁った研ぎ汁を捨てます。 2〜3回繰り返してお米が透けて見えるくらいの透明度になったら研ぎは完了」
「ここまでは大丈夫そうだな」
「ああ、覚えたぞ」
「次はお米を浸水させます。お水の量はお米が2合で450くらいが目安なんだけど新米はお水を少なめにしないとベシャベシャのお粥みたいになるから今日は400mlでいきます」
「どのくらい浸けるんだ?」
「浸水するとお米の色が変わります。今は透明感があるでしょう?この状態を覚えておいてね。浸水が終わったら透明感が無くなって白くなるから。今は暑いから30分くらいで大丈夫、冬なら1時間は浸してね」
「浸けている間に具を作ろうぜ。炊き上がりに合わせて仕上げたいから準備だけな」
まずは親子丼の準備で鶏肉を一口大に、玉ねぎは薄切りにしたら、親子丼に乗せる三つ葉とステーキ丼に使うニンニクの薄切りも出来た。
それぞれの丼に使う調味料も計って用意した。
「ちょうど30分くらい経ったんじゃない?」
「米を見てみよう」
浸水させたお米を見ると白くなっており浸水完了のようだ。
「本当に色が変わるんだな」
「これでお鍋を火にかけられるわ。コンロにセットして中火にかけて、沸騰が確認できたら、中火のまま2分。2分経ったら火を弱めて3分、さらに弱火に落として5〜7分炊きます」
「けっこう細かく見ないとダメなんだな」
「そうね、パスタを茹でる時も吹きこぼれないようにつきっきりでしょう?」
「そうだな、掛かる手間は似たようなものだな」
「そこまで炊いたら少し蓋をずらして中を見て、水がなくなっていれば炊き上がりよ。急いで蓋を戻して10分蒸らしてね」
「覚えた。たぶん出来ると思う」
「じゃあ任せてもいいか?俺たちは米の炊き上がりに合わせて丼の準備をする」
ヒロがバター醤油の和風ステーキ丼、桜子が親子丼の準備に入った。
「…よし、いいぞ。あとは10分蒸らして出来上がりだ」
「俺たちも仕上げに入る」
「蒸らし終わったら、そのお茶碗に軽く盛り付けてくれるかしら」
「任せてくれ」
ヒロは牛サーロインを焼いていたフライパンにニンニクを戻し入れて蒸し焼きにしている。3分待っておろした玉ねぎ、しょうゆを加えて全体に絡めてひと煮立ちしたら火から下ろした。肉を1.5cm幅にカットしてご飯を盛り付けたお茶碗にのせてソースをかけた。
桜子は親子丼を仕上げだ。フライパンに水と顆粒出汁、砂糖、醤油、みりんを入れて煮立てたら鶏肉と玉ねぎを加えて中火で煮る。溶き卵を回し入れて半熟状に仕上げたらご飯にかけて三つ葉を散らす。
「出来たわ!コバたんに塩むすびを作るから試食は待ってね」
「クポ!」
「俺はテックンにバターサンドを用意しよう」
「ガッチャ!」
桜子が手早く塩むすびを握って試食だ。
「いただきましょう!」
「美味い!桜子の親子丼の半熟具合は俺の好みだ。ジョンが炊いた米と合う!」
「本当に美味しく炊けているわ。サーロインも美味しいわ」
「クポー!」
「コバたんも気に入ったみたい。美味しく炊けて良かったわ」
ステーキ丼と親子丼を夢中で食べるジョンを見て桜子とヒロが微笑みあった。今日は大成功だ。
「…美味かった」
「気に入っもらえて良かったわ」
「弟が多いから毎日たくさん食うんだろう?丼はいろいろ種類があるから野菜も一緒にとれるようなものをローテーションに入れたら食事の支度が楽になるんじゃないか?」
「どんなものがあるんだ?」
「一般的なのはカツ丼、牛丼、豚丼、中華丼、天丼、海鮮丼、天丼なんかかな」
「お刺身をいただく文化がないと海鮮丼は危険よ、火を通した方がいいわ。変わり種なら麻婆丼とかローストビーフ丼とか、焼き鳥丼もいいわね」
「また一緒に作ってみよう、気に入ったらアメリカに戻って家族に作ってみてくれ」
ジョンは色々な丼のレシピをマスターした。アメリカに帰国後、4人の弟の食欲を今までより楽に満たせるようになり、両親に喜ばれた。
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