第32話 常盤領の花火大会(ヒロside)
予想通りギャン泣きらしい。それでも頑張ってくれている領主夫妻に感謝の気持ちでいっぱいだ。
常陸領との同盟は死ぬまで大切にすると誓うヒロだった。
「お待たせ!」
先に浴衣を着て待っていたところに
── すっげー可愛い。分かってたけど可愛い。肩にとまったコバたんまで可愛く思えるぜ…。
「
「ありがとう
──
俺が桜子に可愛いって伝えるタイミングがないじゃないか、
早くも同盟の先行きが怪しい。
「ヒロが浴衣って珍しいね」
「桜子はワンピースと和服のイメージだから違和感ないな」
「うん」
「……」
── 俺のバカ。もっと言いようがあるのに
「桜子!ヒロ!」
「なあに?」
「今日の夕食は屋台の食べ歩きだからな、花火が始まる前に腹ごしらえするだろ?どこから行く?」
「嬉しいわ!食べたいものがたくさんあるの!」
── はしゃぐ桜子がかわいいな
「まずは焼きとうもろこし、イカ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼き鳥、じゃがバタ、フランクフルト、たこ焼きみたいな定番がいいの?」
「最近よくみかける唐揚げの屋台はどうだ?アイスコーヒーが入っているような透明のプラカップに入ってて甘辛いタレをからめてあって桜子が好きそうなやつだ」
「それ絶対に美味しいやつ!ヒロも好きそうね!」
「ああ」
「じゃがバタもトッピングが選べるところがあったはずだ。塩辛とかキムチとかコーンなんかが選べたな」
「それは絶対に食べたいわ!」
── 常陸領に移住すると言い出しかねないほど桜子好みのラインナップじゃないか…。くそ、領地に帰ったらうちのサンマ祭りの屋台について調べないと…
桜子は定番の屋台グルメをもりもり食べた。
焼きとうもろこし、イカ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼き鳥、じゃがバタ、フランクフルト、たこ焼き…どこに入っていくのか底なしの食欲だった。
コバたんはじゃがバタをもらって食べていた。数少ない白っぽい屋台グルメだ。ヒロの肩に乗ったテックンもじゃがバタのバター多めを食べてご満悦だ。
「とりあえず満足した?」
「ええ、付き合わせてしまってごめんなさい、
── 桜子が食べすぎなんだ。でも可愛いな、いっぱい食べる君が好きってCMあったな、分かる。いっぱい食べる桜子が可愛い。
「そろそろ花火だな、混みあうし危ないから離れ離れにならないよう気をつけろよ」
そう言い残して
──
「ヒロ?」
熱い気持ちで
「桜子」
「なあに?」
「その…桜色の浴衣が似合う」
「っあ、ありがとう…」
「子供のころから桜子はいつも桜色だろう?」
「名前が桜だからってお父さんたちが選ぶの」
「似合ってる」
「…うん」
── 言えた!浴衣マジック!
猛禽類先輩たちからの課題をクリアして
「気を付けて」
「…うん」
ヒロのエスコートがなっていないことが原因なので気を付けても何もない。しかし、どさくさに紛れて手を繋げた。コバたんも気づいていない。
「桟敷に行くか?」
「ううん、ここで一緒に観たい」
手を繋いだまま桜子がヒロを誘う。
「そうしようか」
手を繋いだまま人波に飲まれながら花火を観た。
確かに真太郎自慢の花火大会なだけあって見ごたえある素晴らしい花火大会だった。
「忘れられない花火大会になったな」
桜子と手を繋いだまま、同じ花火を一緒に観たのだ。
「私も」
桜子が嬉しそうにヒロに笑いかける。
「いいもの買ってやる」
屋台に戻り、いちご飴を買った。
小ぶりないちご5個~6個をだんご状に串に刺して飴をからめた屋台スイーツだが、写真映えすると若い女性に人気だ。
「それ持って写真を撮ろう、記念に」
いちご飴を持った桜子をスマホで撮影した。もちろん桜子にも送ったがヒロの待ち受けにもなる写真だ。可愛く撮れてよかった。いつも可愛いけど。
「ありがとう!ヒロのいちご飴、美味しいわね!」
子供のころサンマ祭りでヒロの秋刀魚が美味しいと笑っていた桜子のままの笑顔だ。胸が苦しいほど可愛いなと思っていたらコバたんに睨まれていた。
「そんなに睨むなって。コバたんにはかき氷を買ってやるよ、カルピスの白いのでいいか?」
「クポー!」
敵対していても食べ物の供物は断らない主義だ。コバたんにカルピスの白いかき氷、桜子にレモン、自分にブルーハワイを買った。
ヒロと桜子は真太郎たちと合流し屋敷に帰った。残りの滞在もいい雰囲気だった。
春狩領と常陸領の同盟が強固なものになる花火大会だった。
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