第6話 不発!

「ねえ、確認なんだけど、キリカはどんな妖術が使えたっけ」

「わたくしの得意な型は風車かざぐるま、使える術式は【風刃螺旋ふうじんらせん】【風切羽かざきりば】【戦風そよかぜ】の三つですわね」


 【風刃螺旋ふうじんらせん】は敵を竜巻の中に閉じ込め、行動阻害と継続攻撃を行う。

 【風切羽かざきりば】は範囲攻撃。

 【戦風そよかぜ】は風車かざぐるまの型で最初に覚える最もシンプルな攻撃術式だ。


「なるほど……じゃあ、これから眼々めめ相手に【風刃螺旋ふうじんらせん】は禁止ね。【戦風そよかぜ】だけ使って」

「えっ、でも」

「あれはオーバーキル、えっと……戦力が過剰なのよ。霊力の消費も激しいし、あんなザコ相手にいちいち使ってたらすぐにバテるわ」


 眼々めめ程度、【戦風そよかぜ】で充分。

 むしろ『くくり姫』をプレイしていた私からすると、あれに妖術を使うこと自体がもったいない感覚だけど、こればかりは妖術の試験なのだから使わないわけにもいかない。


「で、でもそれで倒せるでしょうか」

「平気よ平気。風車かざぐるまにはクリティカル補正あるし、弱点も目玉ってわかりきってるから、そこ狙えばほぼほぼクリティカル確定でしょ。仮に起きなくても、二発入れれば倒せるし、それでも霊力の消費は【風刃螺旋ふうじんらせん】には及ばないから、だんぜんお得」


 私が早口でまくしたてると、希里華はきょとんとしていた。

 森の静けさがやけに耳に刺さる。


 ……しまった。まさか、こんなところでオタクっぽさが露呈してしまうとは。


「ルリさま、すごいです! まるで指南役の方みたいでした!」

「そ、そう?」


 まあ、これでも『くくり姫』はやり込んでますし?


 私が得意げにしていると、希里華は一転して不安そうな表情を浮かべた。


「でも、わたくしばかりが戦っていて、ルリさまの討伐数は大丈夫なのですか?」

「あ、あー、それね。まあ、なんとかするわよ」


 嘘ではない。

 試験の結果が出るまでには、しっかり言い訳の理由を考えるつもりだ。


「ならいいのですが」

「……ちなみに、キリカは妖術を使うときってどんな感じにやってるの? ほら、こういうのって人それぞれクセとかあると思うし、あくまでキリカの場合はどうなのかなーって」

「そうですね。術のイメージを思い浮かべて、それから」

「……それから?」


 希里華は両手を前に差し出す仕草をすると、口を一文字に引き締めた。


「ぐぐぐーって、霊力をこめるんです」

「……なるほどね」


 ダメだこりゃ。

 この子は人にものを教えるのにたぶん向いていない。


 とはいえ、ものは試し。

 私も希里華にならって両手を前に差し出してみた。


 心葉こころは瑠璃るりの術式の型が何かはゲーム知識で想像がつく。

 妖怪に意識を乗っ取られるバッドエンドでは、心葉瑠璃(妖体)がラスボスになるのだけど、そいつの使ってくる妖術が闇か水なのだ。

 つまり、妖怪による闇堕ち要素が闇だとして、もともと瑠璃の使える妖術はおそらく水系統。

 さらに使ってきた術を思い出す限り、当てはまる型はおそらくこれだ。


 私はその型の中でも、最も簡単な妖術を発動した。


「術式復水おちみず! 【単雫ひとしずく】!」


 気合の入った私の声は森に吸い込まれて消えた。

 そして、なにも起きない。


「……ま、考えてみれば、こんなところで霊力をムダ遣いするわけにもいかないわよね」


 怪訝な表情を浮かべる希里華から目をそらし、額をぬぐった。

 たいして暑くないのに汗が止まらない。


「……ねえ、私の得意な型って復水おちみずよね」

「はい、それはもうルリさまの復水おちみずは見事です」


 推測は間違っていなかった。

 間違っていたのは妖術の発動方法そのもの。

 手取り足取り教えてくれる先生なしでは、やはりムリみたいだ。


 私たちは妖怪退治を再開したのだった。

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