第5話 試験開始!
試験内容は女中に聞いたとおりのものだった。
試験会場には低級妖怪が大量に放たれていて、その退治の様子を見て合否を決めるらしい。
ざっくり言えば、より多くの妖怪を退治すればそれだけ合格に近づく。
問題は試験は全員同じ会場で行われるので、低級妖怪の数にも限りがあり、早い者勝ちになるということ。
試験をはなからあきらめている私みたいな人にとっては、言い訳をしやすいシステムでありがたい。
運悪く妖怪にあまり会えなかったとか、そんな感じで母には言うとしよう。
それまではテキトーに時間をつぶしていればいい。
そう思っていたのだけど、
「ルリさま、行きましょう!」
試験説明が終わるや否や、隣にいた
そのまま、神社の境内に設置された白い鳥居をくぐり抜ける。
白い鳥居の先は歪んだ空間に繋がっていて、そこが試験会場らしい。
白い鳥居を抜けた先は鬱蒼とした森だった。
空高く太陽が昇る時刻にしては、どうも全体的に明るさにとぼしい。薄暗いというほどではないけど、どんより曇った昼間に近い。
試験者たちが次々に散らばっていく中、
「妖怪退治は早い者勝ちだから、まとまらない方がいいと思うけど」
「ええ、ですのでわたくし、全力でルリさまをお手伝いいたしますね!」
そう言って、胸元で両手をぐっと握りしめた。今にでも「よし、がんばるぞ!」という声が聞こえてきそうだ。
可愛らしいな。今からでも私の転生先そっちにならないですかね。
「いやいや、それじゃあキリカが合格できないでしょ」
私がひらひらと手を振ると、
「ルリさま、い、今、わたくしのことをキリカと!?」
「えっと……ダメだった?」
「いえ! ぜひ! ぜひ、わたくしのことは今後もキリカとお呼びください!」
ずいと足を踏み出す
そろりと後ずさる私。
瑠璃はこの子のことをなんで呼んでいたんだ? 苗字か、それとも、お嬢さまらしく様づけ?
いずれにせよ
「わたくし、何としてもルリさまのお役に立ちますね!」
「え、ええ。キリカが落ちない程度にね?」
今まで以上に気合が入った緑髪の少女を前に、私にできたのはうなずくことだけだった。
◆
「ルリさま、試験対象のモンスターって、おそらくあれですよね」
白い大福から一本足が生えて、
その見た目にはとても見覚えがあった。
「おお、
予想通り、初級試験での討伐対象は『くくり姫』における最弱妖怪と名高い
そう、『くくり姫』は乙女ゲームではあるものの、実は完全なノベルゲームではない。戦闘システムが組み込まれたコマンドRPGでもあるのだ。
ゲーム内のモンスターを現実で目にするという貴重な体験を前に、私は目を輝かせながら希里華に振り向いた。
「これがホンモノの妖怪! すごいわね、キリカ! ……キリカ?」
希里華は震えていた。
もしかして、怖いのだろうか。
寸法を間違えて発注したゆるキャラぬいぐるみのようなこいつに、怖い要素なんて微塵もないと思うけど。
「キリカ、キリカ、落ち着いて」
「は、はい、わたくし、落ち着いていますわ」
ほんとに?
どう見ても、震えてるけど。
「とりあえず、落ち着いて対処すれば大丈夫よ。あんな三下妖怪ザコ中のザコ、せいぜい足が生えて飛び跳ねるようになった大福でしかないわ。大福ごときが人間様にたてつくなんて、七兆光年早いってこと骨の髄まで教えてやんなさい」
「……ルリさま」
「なに?」
「なんだかいつもと雰囲気が違ってらっしゃいませんか」
「え、あー、試験だからね。気が昂っているのよ」
るっさいなあ。
私は心葉瑠璃じゃなくて、夏目花凛じゃい!
なんて言いたい気持ちは抑えこんで「いいから倒してきなさい」と希里華の背中をぐいぐい押した。
最弱妖怪と緑髪の少女が対峙する。
技は『突撃』と『
『突撃』は文字通り体当たりだし、『
恐れることはなにもない。
「い、行きます!」
希里華はようやく覚悟を決めたようだ。
その間、
しっかり辺りを『
「術式
希里華の宣言が高らかに響き渡る。
緑色の風の奔流が小さな竜巻のように荒れ狂う。この緑色は比喩でもなんでもない。本当に緑色だ。
『くくり姫』をプレイしていた私には、これはゲームのエフェクトそのままだということがわかる。
緑の竜巻は
その様子を見届けた希里華は
「や、やりました! やりましたわ、ルリさま! わたくし、妖怪を退治しました!」
おおげさすぎる。
しかし、ここまで喜ぶ希里華に水をさしたくはなかった。
「さすが、キリカね。私が見込んだとおり、あなたには妖怪退治の才能があるわ」
「る、ルリさま!」
だから、私の代わりにじゃんじゃん妖怪を退治してもらいたい。
そして、妖術の「よ」の字もわからない私には、ここでのんびり過ごさせてほしいものだ。
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