第3話
人群薙と呑んだ日から二週間が経った日の朝。署に出勤する隼人。
オフィスにて、デスクに着席して携帯の画面を見ている同僚の男性警官(第二話の冒頭に出てきた人)に挨拶をする隼人。
隼人:「……お早う、何見てんだ?」
同僚警官:「……おう、『言霊の書』を見てるんだ」
隼人:「ん、コトダマノショ?」
同僚:「え、知らん?今話題の、電子掲示板だよ。鎹 真樹(かすがい さなき)っていう男の人が創設者でさ、俺等より年下なんだってよ」
隼人:「へぇ、凄いね」
同僚:「面白いんだよなぁ、この人」
隼人:「ん、面白い?どう面白いの?」
同僚:「この書き込み。これ、鎹本人が自分のサイトに書いたやつなんだけどさ、んまぁ、ちょっと読み上げてみるよ。えー…、『小生は当サイトの創設者だが、流石に心無さ過ぎるアスペルガー共の投稿の数々に腹が立ってしまった。ので、言わせて頂く。SNS等で顔や本名等の身分が分からないのを良い事に好き勝手言いたい放題をかましている狡猾卑怯な糞弱っちい阿呆人間共が蔓延っているので、言わせて頂く。そもそもクラウンという存在は、人間の手によって生み出された存在だ。それなのに、その真の犠牲者、一番の被害者であるクラウンつまり生物達を軽蔑、偏見、差別、批判する人間達は、真の悪、アヤカシである。この愚民共の言動は、心理的な免疫システムによる自己防衛反応との見解があるのだが、だからと言って辛苦苦痛に打ちひしがれているもの達を否定し更に傷付けんとするのは絶対に間違っている。……だろ?おかしいだろう?何か間違っている事を小生は言っているだらふか?脳ミソがイカれ狂っていやがるよ、こんなの。愚かしさの骨頂だよ。"人間ならでは"の、嫌ったらしさだ。もはやこんな連中などな、理性の無い、ただ動いているだけの生きる価値のない肉の塊だよ。結局何れにせよ、これは人間の脆弱さ、愚かしさの表れである。だからそんな自分の事しか考えられない、考えていない身勝手な悪しき人間共こそが正に、クラウン達によって報いを受けるべきなのである。とっとと殺されてしまえよな、頭の悪過ぎる莫迦間抜け人間共はよ。どうせ生きている所で世の中の何の役に立つ訳でも無いのだし、寧ろ邪魔で迷惑な存在なんだからさぁ。クラウンの件だけでなくて、そもそも人間という存在には、食品ロスやエコロジー等の、SDGs及び"命や母親への尊貴恩恵"に対してアンチなツルツル脳ミソばかりなのだから、欲界の愚かな衆生には、……死、あるのみ』。…以上」
隼人:「……創設者がこんなコンプライアンス抵触しかねない言葉遣いのもの書くって、何だか珍しいというか不思議だな」
同僚:「そこが、逆に良いんだってさ」
隼人:「へぇ。てか人群薙と似た様な事言ってるな、この鎹って人物。で、その創設者の逆鱗に触れた書き込みってのは?」
同僚:「ああ、まぁ一先ず目に留まっているのをいくつか挙げてみると、『神奈川のクラスターはじめ関東から広がったパンデミック。それにより生活が困窮している我々。地方自治体及び政府は責任を取るべき』、『てか早く給付金くれや。何しとんねん、政府。価格高騰もほんま鬱陶しいし。てかミカジメ(税金)も減額して欲しいし。いやそんなのムリか、だって寧ろ税金で上級国民達は私腹を肥やしてってるんやから……ww』、『緊急事態宣言が出されているにも関わらず、この外出自粛期間中に街を出歩いている莫迦輩、営業しているお店を攻撃する為に、自粛警察である私は今日もパトロールするのであります(^^ゞ』、『地方、田舎をバカにしている首都圏都市部の都会っ子共が、パンデミックの元凶の地に住む者として今や差別されているザマwww』、…と言った所かな。他にも数々の文章が連なってるぜ」
携帯の画面をスクロールしていく同僚。
──ヴゥーーン ヴゥーーン ヴゥーーン ヴゥーーン(警報音)
"横浜本部から応援要請、横浜本部から応援要請、横浜駅周辺にて『テロ』活動が行われているとの通報。なお当事案はクラウンではなく人間による犯行との情報あり。総員は至急出撃されたし。繰り返す、横浜本部から応援要請、横浜本部から応援要請……"
同僚:「なっ!!…て、テロ……?」
隼人:「クラウンじゃなくて、人間が!?テロとなると、複数犯か……兎に角、急ごう!!」
隼人ら警官隊は、ヘリ等に乗り込み、横浜市西区へと向かった。
──現場に着いた一行。建造物等の瓦礫が散りばめられた街の至る所から煙や炎が上がっており、阿鼻叫喚が立ち込められている。
同僚:「……ひ、ひでぇ」
隼人:「くっ、なんて事を……犯人は、何処だ」
救助隊員達が負傷者達の対応をしている中、隼人と同僚は犯人の捜索に着手しようと動き出した。
ドォーーーーォォンンン!!!
「「どぉあぁあっっ!!!」」
その矢先。大きな爆発音が聞こえたのだった。
「……大丈夫か?」
「ああ。……なぁ、隼人、今音のした場所に向かえば、犯人達に遭遇出来るかもしれんぞ」
「…ああ、そうだよな。……よし、行くぞ!!」
爆発地点へと二人は走った。
「「はぁ、はぁ、はぁ……」」
瓦礫などの障害物を避けながら、二人は地点に到着した。
「……あ、あいつは…?」
怪しげな若い男の姿が、隼人の目に映った。
息を切らし乍ら、歩み寄る。
「……君、ちょっとお時間いいかな。警察の者なんだが」
手帳を見せる隼人。
「……おや、警察の方で?…フッフッ」
隼人の目前にノソッ…と歩み寄り、徐に立ち止まる男。
「君、こんな所で何をしているんだ?街がこんな状況だというのに、随分と余裕そうな顔をしているが?」
「!!!お、は、隼人!!」
「……何だ?」
数秒のディレイを掛けてフレイムインしてきた同僚。
「こ、…この、男!!こいつ、あ、…あれだよ、…鎹!鎹、真樹…!!」
「……ぇええ!?」
「……貴方、初対面の人間を『こいつ』呼ばわりとは、随分と失礼ですね」
「…あ、す、すまん……」
「……そんな事より鎹さん、此処で何をしてるんだと訊いてるんだが」
「……御覧の通りですよ」
「……え?」
「この街の現状……僕が、やったんです」
「なっ!!!」
「……これだけの規模のテロを、お前一人で、やったのか…?」
「ええ。こうやってね」
近くの建物に目を向け、指を指す鎹。
ドォォォォオオオオォォン!!!!
「!!!!!!」
するとなんと、建物は爆発を起こし、崩れ落ちてしまったのだった。
「…………」
あまりの不可解な出来事に、言葉が出ない隼人と同僚。そんな二人に、鎹が口を開く。
「……ある時にね、とある街外れの河川沿いの道を歩いてたんですよ。道と河川の間には草が延々と美しく生い茂っている、心地の良い場所。すると僕はそこで、原形を殆ど保った、人間程の大きさの蛇のクラウンに遭遇したんです。全身の色が真っ白だったので、恐らく白蛇のクラウンじゃないかな。アルビノ、でしたっけ。まぁそれは兎も角。クラウンは僕に襲い掛かってきた訳です。僕の腕に噛み付いてきたんです。…で、ですよ。……突然変異、と申せば良いのでしょうか?僕はその時から、不思議な力を手に入れたんです。そう、今お二人に披露したような。恐らくそのクラウンには不思議な力があったのでしょう、まるでゾンビに噛まれた人間がゾンビになるように、僕は覚醒してしまったんです。まぁ蛇は神聖な生物と言われますからね、分からなくもない話ですが」
「ほう、オカルトと言うか、まるで超常現象じゃないか。クラウン現象も、一筋縄じゃないのか……」
「なに感心してんだよ。てかこれもはや『まるで』じゃなくて『THE』超常現象だろ……」
隼人にツッ込む同僚。
「流石のクラウンも僕の覚醒を見て驚いていましたね。恐らく自分でも予想していなかった事だったのでしょう。僕には戦う意志が無い旨を告げると、クラウンは何処かへと去って行きました。無事に、いてくれれば良いんだけど……。…ところで、………貴方」
同僚に視線を向ける鎹。
「…え、……俺…?」
「はい、貴方です。貴方は、そちらのお連れ様と違って僕の事をご存じのようですが…。『言霊の書』は、御覧頂いて?」
「…え、あ、ああ、割りと読ませて貰ってる方だとは思うけど。まぁ、書き込みはやった事はないんだが……」
「……そうでしたか。ご利用、頂いてたんですね。有り難う御座います。……な・ら・ば・、……。今回の、このテロの理由、──お分かり、頂けますよね…?」
「…え、……!?……!!?」
「……僕のサイトを見てくれてるという事は、僕の考えを理解出来る素質があるという事だ。つまり貴方は、其処に居るべきじゃない。…でしょう?僕と共に、活動しませんか?」
「えっ…!?」
「な、何を言ってるんだ、お前…?」
同僚の顔に自分の顔を近付けて、目をじっと見詰める鎹。
「……」
無言のまま、じっと見詰め返す同僚。
「……」
「……」
「人間という存在は、…所詮ね、他者の力添えがあるとより強くなれるものなんですよ。所詮、…ね。……さぁ!!」
「……おい、鎹さん、あんた何嗾けようとしてんだ?警察をナメてるのか?え?訳の分からん屁理屈まで並べてよ?」
「…お連れ様は黙っていて下さい。貴方には関係の無い事だ」
「関係無くなんかねぇよ。こいつは俺の同僚なんだ。適当な事をぬかすな。……おい、お前もボーっとしてんじゃねぇよ、気をしっかり持て!こんな奴の言う事に耳なんか貸すな!!」
「……」
「何なんだよおっかねぇな!!……おい!!!」
「……俺は、…警官、だぜ」
「…お!?」
「……俺は、警官だぜ。世のため人のために働きたくて、子供の頃からの憧れだった警察官に、なったんだ。……鎹、悪いが俺はお前については行かない。言霊の書読むのも、金輪際辞めさせて貰う。…残念、ではあるが、……お縄を、頂戴する…!!」
「……そんな思考が、お前にはあったのか。意外だな」
「意外、って何だよ、隼人」
「……フッ、フフフッ、フフフフフフフフッ」
「…何を、そんなに笑ってるんだ、鎹?面白い事なんか、一言も言ってないぞ。もしかして、ゲラオか、お前?」
「…………愚かだ。実に、愚かだ」
「…は?」
「……フッ」
「……!!!」
徐に、同僚に右手の人差し指を向ける鎹。
「…なっ、…………」
……………………
!!!!!!!!!
鎹の指から、細く鋭い禍々しい光線が放たれた。光線は、同僚の腹部に突き刺さったのだった。
「ん……な、……村瀬、おい、…………む、…あ、……村瀬ぇぇぇーーーーーぇ!!!」
「……は、…………や、…と………」
「む……お、………おい!!!」
「…読者、の、…皆さん、に……、『あ、この人、村瀬って名前だったんだ』…って、最後に、思って貰え、て、…良、かっ…た、よ、………………」
「しっかりしろ!村瀬!村瀬ぇぇぇ!!!…おい、作者、作者ぁぁ!!想人ぉ!!!ご都合主義でも何でも良いから、早くこいつを蘇らせろよ!なぁおい!!!」
「……フッ、馬鹿か、お前、そんな事、出来、るわ、…け、ねぇだろうが…よ。……ああ、でも、短い人…生、だった、けど、…警官と…して生き、警官と、し、て、死ぬ……初志を貫徹、出来た、最高の、カッコいい、……良い、人生、だった、ぜ………………」
「……………………」
ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!
バァァァァーーーン!!!
鎹に発砲する隼人。乱射せられた弾が鎹の身体中に被弾し、血飛沫が吹き上がる。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………」
カチッ カチッ ………
弾切れした、隼人の拳銃。
「……フッ、もうお仕舞いですか?弾切れとは、情けないですね」
「なっ……?!!!」
鎹の被弾箇所が、みるみる内に回復してゆくのだった。
「……へっ、流石、クラウンの力を手に入れただけの事はあるってか、鎹さんよ」
「おやおや、そんな、余裕ぶった発言をしている場合ですかな?」
隼人に右掌を翳している鎹。
「これから僕に殺されるというのに、気丈と言いますか、愚かと言いますか…。まぁ、良いでしょう、どうせ直ぐに死ぬんだ。最後ぐらいは格好つけさせてあげないと。もう他に喋っておきたい事は無いですか?」
「……」
「おや、御座いませんか?そうですか。ならば、早速ですが、もう死にましょうか。貴方相手にだらだらと時間を取るのも嫌なのでね。……では」
「…………」
「…………」
「………」
「………」
「……ん、んん?お、おい、どうした…?」
「……フッ、フフフッ、僕とした事が。…まさか、エネルギーが切れてしまうとは……」
「…………」
「……良かった、ですね、命拾い出来て。……ふぅ、僕も未だ未だ、だな。未完成の青二才、という事か。……仕方ない、今日は、出直すとしましょうか」
「ウォルゥァアアアアア!!!」
「!!!??」
突然、凄く格好いい機械の剣を手にした人群薙が現れ、鎹に閃光攻撃(分かりやすく述べると、剣を振った際に放たれる『ビームフラッシュアタック』といった感じのやつ。バー○ャロ○の○ムジ○の両手攻撃のビームソードみたいなもの)を仕掛けてきたのだった。
「ちっ!!!!…誰だ…!??……おや、貴方は……」
「チッ、外してもうたか。おのれ、舐め腐ったマネしよって……」
「…やれやれ、不意打ちとは、実に狡猾で卑怯ですね。貴方らしくない。それより、何故貴方がそんな物騒な物を持って此処に?警察に転職でもしたんですか?何時から国家権力の道具に?」
「何やねん、その侮辱的な言い草は。ボランティアでお手伝いしとんねん。んな事より……こないな形で、再会するとはな。随分と元気そうやないかい、鎹!!」
「人群薙、来てくれたのか!!有り難う、助かった。…って、知り合いなのか、あいつとは?」
「ああ、まぁな。嘗てピカリに所属しとったんや、あいつ」
「へぇ、そうなんだ……マジ?!!」
「ああ。まぁ、今はそないな事はどうでもええねん。とは言え、嘗て仲間やったんも事実やからな……!!」
人群薙は、抜刀術のような構えをとった。
THE EXTERMINATOR(人群薙が持っている剣の名前)の音声:「──これより エネルギーチャージを開始します」
「……独立して活動していきたい言うお前を、俺は快諾した。そうして自分の仲間が自立しどんどん進歩していく未来を想像すると、俺の心は高揚した。……それが、今はこんなザマや」
「人群薙さん、お言葉ですが貴方だって、僕と同じ志な筈でしょう。寧ろ貴方の思考思想に共感して、僕はピカリに入ったんですよ。なのに、貴方の方こそ僕に対してこんな仕打ちをするなんてね、とても心外ですよ……」
「お前は、やり過ぎなんや、鎹。確かにお前と俺とは共感し合える所がある。ただ、こんなにも街を破壊すれば、人だけやなくて、人以外の生物、環境そのものまでもが汚染されそして破壊されてまう。お前程の頭のええ男が、……」
「……確かに、今人群薙さんが仰った事にも一理ありますよ。でも結局ここまでやらないとね、『人間』という生き物にはね、何一つ響きやしないんですよ。残念ながら。貴方が今仰った、『人以外の存在』には、本当に申し訳ないと思っています。ただ、残酷なくらいの『薬』を与えてやらないと、馬鹿という病気は治らないんですよ。……つまり。此度の原因は、"人間自身に一番罪がある"、という事なんですよ、人群薙さん…!!」
「…………」
THE EXTERMINATORから、閃光撃が放たれた。まだ何処かにエネルギーが残っていたのか、回避する鎹。
「んっ………危ないっ。まったく、もう…。流石に今のを喰らったら、マズイかな…。人群薙さん、すみませんけれど今日はおいとまさせて頂きますよ。エネルギーが切れてしまった僕なんかを倒しても、全く面白くないでしょうから」
「ああぁ…!!?」
とは言いつつまだまだ何処かに攻撃系以外のエネルギーでも残っているのか、サッ……と鎹は姿を消したのだった。
「………」
「人群薙、改めて有り難う。助かったよ」
「……大丈夫か?」
「ああ、しかし、村瀬が………」
「……残念やったな」
「……鎹、ピカリに居たのか」
「ああ。……申し訳ない」
「お前が謝る事じゃない。しかし鎹という男、危険な人物だな。一刻も早く、奴を止めないと」
「……」
周囲を見渡す人群薙。
「…………」
改めて、事の悲惨さ、凄惨さを、認識したのだった。
Vengeance~人間に因り産み出された"支配者"~ 想人~Thought~ @horobinosadame
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