第2話 中学時代のタイムカプセル
健二の実家は、長崎の五島列島にある富江という小さな町だ。そして健二は、帰省した後は元自分の部屋に引きこもってしまった。新型コロナのせいでもあるが。ここ九州でも窓の外は光に満ち溢れた世界が広がり、関東では少数派の懐かしいクマゼミの声が勢いよく聞こえてくるにも関わらず。
すべてを新型コロナのせいにしていたが、実際のところ、あまり人と会いたくないのだ。幸い、昨年結婚した4つ年上の口やかましい兄も今年は帰って来ない。会うと絶対に、兄貴風の説教が吹き荒れるに違いない。
(お前は、早く定職を見つけて結婚して、親を安心させなければ。なぜお前は昔からこうなるのだ…)
もう、会わなくともセリフとその時の表情さえも正確に予想できる。
中学までいた実家を出てもう10年になる。帰った時はお客様扱いで居心地は悪くないが、さすがにやることがなんにもないとたまらない。健二は、普通なら絶対にやらないような、部屋の押し入れの整理を始めた。
出るわ出るわ、押し入れの中からいらない物ばかりがたんまりと。集めた漫画の単行本はざっと二百冊。かび臭い週刊誌もたっぷり出てきて、パラパラめくって読んでいると、あっという間に夕方近くだ。
もう続きは明日だと押し入れのふすまを閉めようとしても、ひっかかって閉まらない。思い切りふすまを引っ張ると、雪崩が起こって畳に上に大量の漫画本がぶちまけられた。健二はため息をついて漫画本をまとめていると、中学校の卒業アルバムが転がっていた。飛び出しそうになった紙を開いてみると、タイムカプセルのメモだった。
(只狩山の山頂のタイムカプセル(下の地図)は、10年後の8月13日の午後3時、皆で集まって掘り出す。)
「なんだ、今日じゃないか!」
健二は思わず叫んだ。
そういえば、そんな約束をした覚えがある。卒業後は誰にも案内を出していない。中学3年生の頃、健二はガラにもなく学級委員長だった。副委員長は女子の由美子。おとなしくて真面目な彼女は、学級委員の仕事をほぼすべてやってくれたのだ。健二がやったのは、学級会の司会など、目立つけどめんどくさくない仕事だけ。
(由美子は、成人式でみんなが集まる時にタイムカプセルを開けたいと言っていたっけ。それを俺が強引に、早すぎるから10年後と決めてしまったんだ…そして今の今まで忘れていた)
健二は、大急ぎでシャベルを片手に家を飛び出すと、学校の近くの只狩山の山頂を目指した。
(きっとみんな忘れているさ。でも、強引に10年後に設定した俺が行かないわけにはいかないもんな)
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