第6話 エリカと香奈子




「トキメキアイドル大運動会2020????」


 事務所のソファに座っているエリカが聞きなれない番組名に眉を寄せながら読み上げ渡された番組資料をぺらぺらとめくりその隣で香奈子も黙って読んでいた。


「うん、深夜帯のローカル番組でそこそこ視聴率もいい。ひよっこ新人ちゃんにはかなりいい仕事だと思うわよ」

「え~~。でもぉ…運動とかあんまり得意じゃないしぃ。香奈子も嫌でしょ??」


 エリカたちの向かい側に座っている、俺と説明するリアーナにわざとらしくクネクネしながら涙目で嫌がる素振りをみせるエリカは同意を求めるため隣にいた香奈子に問いかける。

 ぱっと資料から顔を上げて視線をエリカに向けると香奈子にっこり笑った。


「これって、水着で色んな種目をするのと一緒ですよね?私やったことあります、楽しいですよエリカさん」

「やったことって…あんた3日前合格したばっかりじゃない。」

「あ……、その……ビデオでみたことがあって…お父さんの」

「びでお?」


 エリカに指摘されると取り付くように口元を資料で隠し困ったように笑う香奈子。しぐさがいちいちこうツボをとらえてくるなこの子…。リアーナは渋るエリカをみてはニヤリと笑いぺらぺらと最後のページを開いてみせ。


「読み上げて柊木。」

「いきなり!?えーと……優勝したアイドルは……FelpuriフェルプリとのMV共演撮影権…!!!?あのFelpuriですか!」

「そうだよ、なんでもスポンサーが急遽変わってね。去年はお米1年分とかだったけど今回グンと優勝賞品が豪華になったの。」

「ふぇ、フェルプリと!!!!!!!!!!!!?」


 バンッと机に資料をたたきつけながら前のめりで身を乗り出し驚くエリカ。それにびっくりしたのか驚きながら小首をかしげる香奈子。


「ふぇるぷりって有名な歌手なんですか?」

「あんたしらないの!?Felpuriって言ったら国民的男性アイドルユニットよ!大人気のセンターのコウを筆頭に、あきら、ショウ、みさき、アンの5人グループでそれはもーすっごいファンがいるの!ライブのチケットはファンクラブに入らないと取れないし…とにかくめっちゃすごいのよ!」

「は、はぁ…」


 また前のめりのエリカに早口で説明されるとびくっとしながらある程度理解したのかこくこくと頷く香奈子。信じられないといったように座り直し足を組むエリカ。


「出ます!絶対でる!香奈子もいいよね?」

「は、はい!」

「そうこなくっちゃ。柊木、準備よろしくね。」

「わかりました」


 本当にこの二人大丈夫なんだろうかと一抹の不安を感じつつも出演OKのメールを俺はしたためるのであった。





****




「いたーい!ちょっとちゃんとやってよ香奈子何回目!?」

「ご、ごめんなさい。慣れていなくって」


 事務所のレッスン室でダンスのふりつけをしていたけど香奈子の足がもつれてあたしにぶつかってしまい今現在。もう8回目、いい加減お尻痛いんですけど。


「アイドル大運動会では種目の合間に軽く歌を歌えるタイムがあるんだから早く仕上げないといけない、わかる?このレベルのダンスもできないんじゃ当日に撮影に臨むなんて無理。」

「ソウネ、ミス香奈子。ちょっと休憩してなサイ。エリカもう一回いくわヨ」

「おっけー、ルドール」


 カタコトで話すのは事務所専属のダンス指導の講師アメリカのサンフランシスコからきたルドール先生。あたしのダンス技術を評価してくれるから大好き。香奈子は眉を下げながら隅のほうに座りあたしのダンスをずっとみていた。


 1時間後ルドールがパンパンと手を軽くたたいた。


「エリカ、休憩ヨ。」

「はぁい。香奈子、わかった?ダンス。あれをあと1週間で覚えて踊りながら歌えるようにしないといけないの」

「…はい、ダンスは理解できるんですが…あそこまで激しいダンスで歌うっていう習慣がなかったので」

「はぁ?だから何年前よそれ。…というかそのダッサい髪型なんとかしなさいよね。おばさんパーマ」

「変…かな?」

「ヘンよ、10人に聞いても10人がヘンっていうわよ」


 おばさんみたいな髪型を弄りながら少し不満そうにする香奈子、あとであのおかっぱマネージャーに抗議してやるわ。

 スポーツドリンクを飲みつつ後ろで束ねた髪を一度解き、結びなおす。

 その様子をじっと香奈子がみていたので睨みつけるとびくっとしながらおずおずとまた話しかけてきた。


「エリカさんの髪、綺麗ですよね。私あまりそういった、まっすぐ伸びた髪みたことがなくって…」

「…美容院に週3通ってるしね、なに?教えてほしいなら行きつけ教えてあげてもいいけど」


 オーディションで圧倒されたあたしはあの日からずっと香奈子を目の敵にしていたため、その香奈子から気に入ってる髪をほめられると悪い気分ではなくつい、美容院を教えてやるって口走ってしまった。すると香奈子は目を輝かせながら華がほころぶような笑顔を浮かべ立ちあがった。


「はい!このダンスを覚えられたらぜひ教えてください。」

「………いい度胸してるじゃない。できるようになったら教えてあげる」




 その日あたしは、ほんのちょっぴり1ミリだけ香奈子を見直した。





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