第4話 アイドルオーディション
下の階から聞きなれないメロディがたくさん流れてくる。
私はリアーナさんに言われ、事務所のソファに座って2時間ほどこうしている。
私がいた昭和の大人気番組“ザ・ソングパレード”は生放送で待機時間が長かったときもあるから平気だけれど…。
「歌いたいなぁ…。ヴェールの海岸もいっぱい練習したのに」
うらやましさと大好きな歌を歌いたい気持ちでいっぱいになった私は、こっそり2階の事務所を抜け出して、聞きなれない曲が流れるほうへと足を向ける。
コツコツとヒールの音がビルに響きつつも、それがより一層好奇心を掻き立てていた。
第一会議室と書かれているドアの前で止まる。
曲はより一層大きくなるも歌い終わったのか曲は余韻も残さず止まり、そっと扉をほんの少しだけ開けてみる。
(少しだけ…ほんのちょっぴり見るだけ…)
****
「エントリーナンバー5番、
「始めてください。」
選曲は、いま大人気の5人アイドルユニットの新曲。話題性もあるし完璧。
今回こそ、絶対受かってやるわ。マリーミュージックプロダクションもアオキスタジオも見る目がないんだから、あたしはねトップアイドルになる素質を持ってるのよ。
でも、こんな弱小事務所でも所属にならないことには始まらない。
我慢よ、エリカ。
イントロが流れ、あたしはマイクを握り歌い始める。ダンスや視線も曲にあったオリジナリティのあるものを披露した。
社長とは思えないほどの赤髪のイケメンと、冴えないちんちくりんな無精ひげのおかっぱ男がひそひそ話している。
「上手いですね、ダンスもオリジナルなものですしステージを意識しています。なにより顔立ちもいい。」
「そうだね…、歌は少し物足りないところもあるけど総合的には見込みがありそうだ。」
あたりまえよ。あたしはこれから有名になって
…誰よりも努力してきたし…………どんなことでもした。
さぁ、あたしを合格させなさい!!
「…ありがとうございました。」
歌い終わり軽くお辞儀をして美容院に週3通い、手に入れた背中まで伸びるブラウンのつややかな髪を払い椅子に座る。その瞬間、会議室の扉が開く。
キャッ!というぶりっ子女のような驚き声と共にダッサい恰好をした女子が倒れこんできた。
(だれ…?)
ざわざわとほかのオーディション参加者も動揺してヒソヒソ話している。面接側の二人も驚いたようにみている。
「す、すみません…!曲が聞こえたのでつい…」
(顔はまぁまぁね、だけど髪型もおばさんみたいだし、服も何十年前って感じ。ダッサいわぁ…マジ無理)
品定めをしながらそんなことを思いつつさっさとつまみ出されるのを待っていれば赤髪のイケメン社長が面白いことを思いついたような顔をして提案する。
「香奈子ちゃんも歌ってみてくれない?」
「「「「「「「「え。」」」」」」」」
この部屋の中にいる赤髪のイケメン社長以外の人間が口をそろえて驚きのあまり声を上げた。
香奈子と呼ばれた女子は、立ち上がりスカートを上品に払いながら困惑の混じったそれでいて嬉しそうな表情をしている。
「いいんで…しょうか?」
(よくないにきまってるじゃん、何考えてんのこのイケメン!!)
内心、怒り心頭になりながらも抑えながらも、このダッサい女子がどんなド下手くそな歌を歌うかも興味が沸いた。
「いいんじゃないですか?あたしも香奈子さんの歌ききたいな」
(どちらにせよこのイケメン社長と同調しておいたほうが心象はよさげだしね)
「決まりね。はい、マイク。曲はどうする?」
「あ…。これコードがついてない…。あ!ヴェールの海岸でおねがいします」
マイク部ではないほうの先を見ながら不思議そうにみている香奈子という女子。
ヴェールの海岸?なにそれ。聞いたことない。
「音源ある?柊木」
「なんとか、用意できそうです」
「それじゃあ、香奈子ちゃん真ん中に立って?流すよ」
「はい…っ!」
嬉しそうに面接の二人の前に立つ、聞き覚えのないイントロが流れはじめると香奈子という女子はぺこりと深く頭をさげて。
「清水香奈子です。よろしくおねがいします。」
次の瞬間、第一声。透き通った歌声が会議室に響き渡る———。
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