第3話 香奈子とリアーナ社長



「しゃ、社長……!」


 只野事務所社長のリアーナに向かってすっとんきょうな声をあげてしまった。


 社長のリアーナは、知ってるやつなら大体一発で認識できてしまうほどの長く赤いストレートの髪をなびかせながら近づいてくる。

 香奈子の肩を揺すっていた俺の顔をじっと覗き込んだ。


「柊木…誰がうちに女を連れ込んでいいって言ったかな?しかもみるからに少女!ロリコンだとは思わなかったよ」


 ま、間近でみるとホント綺麗だよな、目は切れ長で睫毛も長く、彫は深いし顔のパーツ全てが整ってる。

 

 これが女だったなら俺は惚れてしまいそして勢い余って告白し振られていただろう。(振られるのか。)

 そう、只野リアーナ(年齢不詳)は父親である只野事務所前社長からこの事務所を継ぎ1週間前からここの現社長なのだ。

 そしてその社長様は今、俺をロリコンだと勘違いをして悲しそうに眉を下げて嘆いていた。


「違いますよ!こいつは事務所の踊り場の階段で眠りこけていた不法侵入者です!」

「うちは弱小だけどセキュリティはしっかりして…あらやだ、この子………昔の香奈子ちゃんにそっくりな恰好してるじゃない!」


 言い忘れていたが、社長は若干そっち系も入っていると俺は思う。

 キラキラ目を輝かせているリアーナは香奈子の古臭い髪型や白いフリルワンピースをみて感動していた。


「このフリルのホワイトワンピースなんて“ヴェールの海岸”初披露衣装にそっくり!髪型も香奈子ちゃんだし………今時こんな子いるのね…僕、感動しちゃった」

「社長、何歳なんですか?」

「うるさいな」


 ほろりと涙を流す素振りをみせるリアーナに一喝されてしまう。

 しばらくぎゃあぎゃあとリアーナの年齢について騒いでいると、さすがにうるさかったのか目をゆっくり開ける香奈子。


「…また私寝ちゃって……、……柊木さん?」


 声に反応する俺とリアーナ。香奈子のほうにほぼ同時に視線を向けるとリアーナはまた歓喜の声を上げぎゅっと香奈子を引き寄せ抱きしめた。


「か、香奈子ちゃんそっくり!なにこれもう奇跡的レベルじゃないか!このくりんとした大きな瞳、すっと通った鼻!唇もぷるんとしてて…ああ、ダメ…30年前を思い出してしちゃう」


 俺にはさっぱりわからないが感動に震えているリアーナに抱きしめられた香奈子は真っ赤になりながらおろおろしていた。


「社長、そいつの名前も清水香奈子ですよ」

「ホントに!?まぁこれだけ似てればご両親もつけたくなるだろうけど……、初めまして。僕はこの事務所の社長、只野リアーナ。」


 美男子…いやおそらく年齢的にはこの言葉は似つかわしくないだろうとても顔のお整いになったリアーナ社長様は屈託のない笑顔を見せながら香奈子に自己紹介をする。

 香奈子も赤い顔を手で仰ぎながら控えめな声でこたえる。


「清水香奈子…です。よろしくおねがいします。」

「香奈子ちゃんって呼ばせてもらうね。それで保護者の方はいるのかな?」

「………いえ…いません。」


 考える素振りをしながら少し間を開けて答えるとリアーナと俺は顔を向かい合わせてどうしたものかと考える。

 ふいに時計が視界に入った俺はその現在の時刻に驚きのあまり目を見開き大声をあげてしまう。


「社長!!もうすぐオーディションの時間ですよ!」

「だから呼びに来たんだろう?そういうところも嫌いじゃないけどね」

「誤解を招く言い方をするな!」


 照れるなよ、といいながら立ち上がるリアーナに眉を寄せながら抗議する俺を他所に事務所の扉を開く。


「とにかく、香奈子ちゃんはひとまずウチで保護しておいて、先にオーディションを済ませるよ。未来のアイドルのタマゴちゃんたちが待っているからね」


 香奈子は、オーディションという言葉に反応をみせつつ手をぎゅっと握る。




「オーディション…———」

 


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