番外編3 柚葉のほっぺが膨らむわけ
柚葉が怒る時に頬を膨らせるようになったのはいつだっただろうか。俺が小学生の頃か、それとももっと前だったか…なにぶん昔のことなので詳細には思い出せない。だが1つ覚えていることがある。それは柚葉が頬を膨らせるようになったきっかけについてだ。自分でもなぜこんな些細なことを覚えているのだろうかと不思議に思うくらいには特に取り留めのない話だ。
学校から帰って、当時大人気だったジャケットモンスターというアニメを柚葉と一緒に見ていた時のこと。ちなみにジャケットモンスターとは、主人公がジャケットを使ってたくさんのモンスターを捕まえて旅をし、捕まえたモンスターの大きさや可愛さなどを競うコンテストに出場するという趣旨の幼年向けアニメだ。あ、高校生くらいの時でも見てたよっていうそこのアナタ、はたまた大人になっても見てるぜっていうそこの紳士淑女の皆様、幼年とか言ってごめんね?怒らないでね?
それはさておき、そのアニメの中でとてもチャーミングなモンスターが登場した。その名もプックン。特徴としては、嬉しい時や驚いたときなど感情が大きく動いた時にほっぺがぷくっと膨れるとても愛らしいモンスターだ。
「うわ、可愛い。」
「はぁ~、かわいい~!」
このモンスターが出てきた瞬間俺たちはつい感嘆の言葉を漏らしてしまった。それくらい本当に可愛かったのだ。今皆さんにお見せできないのが残念でならない。とにかく俺は可愛さのあまり思わずポロっとこんな言葉がこぼれた。
「こんなモンスター俺の家にも欲しい。」
「決めたっ!ゆず大きくなったらプックンになるっ!」
予想外の反応だった。てっきりゆずも欲しいなんて感想が返ってくると思っていたので返答に戸惑ってしまった。その隣で柚葉は俺の方に向かって頬を頑張って膨らせようとしている。
「ねーおにーちゃん、プックンできてるー?」
「んー、いやもうちょっと膨らせないと。」
俺がそう言うと柚葉は真に受けて頬を膨らせる練習をし始めた。
「ねーおにーちゃん、さっきより膨らんだー?」
「あー、まあさっきよりはな。」
「むー、もっと大きくないとダメ?」
ここで俺は、できてるよーとか、プックンみたいだすごいななどと言ってあげていれば良かったと今になると思うのだが、その当時は俺も子供だったので思ったことを正直に口に出してしまっていた。
「まあ膨らむようにはなってるけど、プックンはもっとすごいな。本当にぷくっとして可愛いからな。」
そう言うと柚葉はすこし拗ねてしまった。
「ゆず頑張ったもん。プックンしてるもん。」
そう言いながら頬は膨らせたままだった。そしてその後も俺の見ていないところでプックンの練習を続けたらしい。しばらくして母さんが、
「最近あの子ずっとほっぺを膨らせているんだけど、どうしたのかしら。」
なんて言っているのを聞いた。柚葉が怒る時に頬を膨らせるようになったのはそこからだ。正確に言うと、怒っている時だけではなく、嬉しい時なんかも膨らせていたような気はするが。練習のし過ぎで癖になってしまったのか、それともわざとやっているのかは分からないが、とても可愛いから俺としてはオッケーだ。そして今も俺の目の前に頬をぷくっと膨らせた柚葉が立っている。
「おにーちゃん、トイレ長いっ!またゆず行く時間ないじゃん!」
ああ、今日も可愛いな。もう我が家にプックンはいらない。柚葉がいれば、それでいい。
俺のトイレは長い 杉本らあめん @sugimotoramen
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