番外編

番外編1 柚葉の得意料理

ゆずの得意料理は肉じゃが。お母さんから1番最初に教えてもらった料理がこの肉じゃがだ。お母さんの仕事が忙しくなり、帰りが遅くなり始めたころ、自分から志願して教えてもらったのだ。なんで肉じゃがなのかって?そりゃあおにーちゃんが大のジャガイモ好きだからに決まっている。コンビニで買って来たものばかりの晩ごはんが続き、おにーちゃんがあからさまに残念そうな顔をして、


「あー、コンビニ飽きた。肉じゃが食べたい。」


と言っているのを見て、ゆずがおにーちゃんに作ってあげたいと思った。それからというもの、お母さんの休みの日は必ず肉じゃが作りに励んだ。しかし最初からうまく作れるほどの才能はなかった。何度も何度も失敗を繰り返した。


「柚葉、これ甘すぎる。」


「うーん、これは砂糖かみりんを入れすぎたんじゃない?」


おにーちゃんとお母さんから何度も指摘され、その度に悔しくてもどかしくて泣きそうになるのをこらえてこらえて。自分の部屋で泣いてしまったことも何度かあったかもしれない。でもそうやって2人が正直に感想を言ってくれたことで、最後にはちゃんと美味しい肉じゃがが作れるようになった。


「うわっ、これうまい。今日のほんとにうまいな。柚葉やるなあ。」


おにーちゃんに初めてそう言って褒めてもらえた時には嬉しくて嬉しくて、うれし泣きというのを経験してしまった。美味しそうに肉じゃがを頬張るおにーちゃんの横顔を見ていると、なにか込み上げてくるものを止めることができなかった。肉じゃがを完全にマスターしてからは次々と他の料理にも挑戦するようになった。1つの料理を極めたおかげか、あまり苦労することもなくどんどんレパートリーを増やしていき、ついにはコンビニに頼らずとも晩ごはんが出せるようになり、お母さんからも料理を完全に任されるようになった。なにより嬉しかったのは、おにーちゃんが毎日ゆずの料理を美味しそうに食べてくれたことだ。おにーちゃんの喜ぶ顔を見ていると、明日からはもっと美味しく作ってやろうという意欲が湧いた。


ゆずの肉じゃが作りのコツは、まずお肉は少しでもいいから質の良い牛肉を使うこと。次にジャガイモのホクホク感を出すため、大きめに切って崩さないように煮込むこと。それから白ご飯に合うように、少し濃いめの甘辛い味を意識すること。そしてなにより大切なことは、うまいと言って美味しそうに食べてくれるおにーちゃんの笑顔を想像しながら、心を込めてつくること。これがゆずの長年の経験によって辿り着いた、肉じゃが作りの最適解なのだ。


あっ、そろそろおにーちゃんが帰ってくる時間だ。仕上げにかからないと。おにーちゃん、今日も美味しく食べてくれるといいな。

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