第2話 通学と美結

「さて、そろそろ俺も大学行くか。」


柚葉が家を出てから10分後、用意を終わらせて俺もカバンを掴んで家を出る。家から最寄りの駅までは徒歩で5分ほど、そこから大学までは電車で10分の道のりだ。なにせ通いやすさだけで選んだ大学だからな。通学だけで数時間もかかるような学校へ通うのは俺の性格上とうてい無理な話だ。特に学びたいことも学校生活でのこだわりも無い俺にとっては、家から近いというのが一番重要な条件なのだ。今日も俺は電車に乗り込むと1番端の席に座り、イヤホンを耳に突っ込む。さて、どの曲を聴くかなとプレイリストをあさっていると、スポッという音と共に俺の耳に突っ込まれていたイヤホンが引き抜かれた。


「おはよーう、久しぶりっ!」


「うわっ、イヤホン急に抜くのはやめてくれっていつも言ってるだろ!びっくりするじゃないか!しかも久しぶりって昨日も一緒に学校行っただろ。」


「えーそうだっけー?別にいいじゃん?」


朝っぱらから驚かせてくれたこいつは幼なじみの美結だ。美結とは小学校からの付き合いで、高校こそ別の学校へ進学したが、大学でまた同じ学校へ通うことになった。柚葉に負けず劣らず整った顔立ちで、背はさほど高くないものの、出るとこは出る、引っ込むとこは引っ込むといった具合にスタイルもよろしい。かなり明るい性格で、昔からこうしてよく絡んでくる。


「ねえねえ、昨日のわたしと今日のわたし、どこがどう違うでしょーか?」


「髪の色だろ?茶髪になってる。今さら大学デビューか?」


「だいせいかーい!でも大学デビューとかそんなんじゃないもん!この前えーくんが、雑誌に載ってる茶髪の女優さん見て可愛いな〜って言ってたじゃん?それで・・・あーえっとそんなことはどうでもよくって、どう?似合ってるかな?」


美結はポニーテールにした髪先を指でくるくると回しながら聞いてくる。(ちなみに美結は俺の事をえーくんと呼んでいる。下の名前が永人だからか、昔からえーくんだ。)


恥ずかしさと期待が溢れ出た顔がまた可愛い。幼なじみでもなかったらこんなに可愛い子が俺とこんなに仲良くしてくれる事なんて無かっただろう。俺は素直に感想を告げる。


「うん、思ったより似合う。可愛いと思うよ。」


「ほっほんとっ?よかった。えへへ。」


少し顔を赤らめて嬉しそうに微笑む。可愛い。それにしても、美結は今まで髪なんて染めたことが無かったはずなんだが、何か心の変化でもあったのだろうか。ちょっと茶化してやろう。


「でも急に髪染めるなんて好きな人でもできたのか?」


「なっ、な、なんでそうなるのっ!えーくんのばか。」


俺が茶化すと顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。ちょっとからかっただけなのに、予想よりもツンツンした態度で返された。そんなに怒るようなことでもないだろうに。


「なんで怒るんだよ。俺なにか怒るようなこと言ったか?」


「しらないしらないっ!もうこの話おしまいっ!ほら、もう駅着くよ!」


なんだか納得のいかないままはぐらかされてしまった。でもこの動揺っぷり、本当に気になる人でもできたんじゃないか、かわいいやつめ。

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