俺のトイレは長い
杉本らあめん
第1章
第1話 朝のトイレと柚葉
「ふぅ・・・」
レバーを引くと豪快な水流が音を立てて渦をまく。
「は〜スッキリした、今日は45分くらいかかったな。」
俺は戸井永人、ごくごく平凡な大学生だ。そんな俺にも自慢できることが1つある。それはトイレが長いことだ。トイレ1回に30分以上はかかるし、下手すれば1時間入っていることもざらにある。しかも1日に2、3回はトイレに行っている。トイレはもはや俺の第2の住処と言っても過言ではない。これが自慢になることなのかって?そんなことを聞いてはいけない。トイレが長いことは俺のアイデンティティなのだから。
「おにーちゃんトイレ長いっ!朝から占領しないでっていつも言ってるよね!」
ようやくトイレを出て自分の部屋へカバンを取りに行こうとした瞬間、妹の柚葉が言い寄ってきた。
まぁいつもの事だし特に気にしていない。この家にトイレが1つしかないのがいけないのだ。俺は悪くない。たぶん。そんなことを考えながら、
「へいへい、悪かったよ。」
と適当に返事をする。
「悪かった悪かったっていつも口だけだよね、ほんと、ゆずだってトイレ行きたいのに我慢してるんだからねっ!」
そういって柚葉はプクッとほっぺを膨らせる。これは柚葉の怒った時の癖で俺は気に入っている。兄の俺が言うのもなんだが柚葉はこうみえて案外可愛い方だ。いや、かなり可愛い方だと思う。サラサラふわふわの黒髪ショートに整った目鼻立ち、華奢で白い手足に控えめな胸のふくらみ。そして仕草もいちいち可愛い。本当に俺の妹なのかと疑うレベルだ。母さん、俺もイケメンに産んでくれよ。なんで兄妹でこんなに格差がすごいんだよ。そう思ったことが何度あっただろうか。
「ねえ、おにーちゃーん、おーい、ぜんぜん聞いてないでしょ!もう!」
「え、あぁ悪い悪い、ちょっと考え事してて。」
「おにーちゃんいっつもそうじゃん!ほんと何考えてんだか。」
柚葉が俺の妹じゃなかったら間違いなく好きになってるだろうなぁって考えているだなんて言えるわけがない。まあ妹じゃなければ俺がこんなに可愛い子と普通に話すこと自体ありえないんだけど。それにしても毎日こんな感じで怒られていてもぜんぜん嫌な気にならないし、むしろプクッと膨れた顔も可愛いからな。ツンツンしてやりたい。いっそツンツンしてやろう。そう思って柚葉の頬に手を伸ばしたが遅かった。中途半端に手を伸ばしたままの俺を置き去りにして靴を履き、
「おにーちゃん、先に出るから鍵よろしくね〜!」
と言って外へ出る。
「あ、ああ。でもお前トイレは大丈夫だったのか?」
玄関の扉越しに俺がそう聞くと、
「おにーちゃんが長いから時間無くなっちゃったんじゃない!もうバカ!」
と怒った声が返ってきたが、それもまた可愛いと思ってしまった。
柚葉とこの毎朝のやりとりができるだけで、俺のトイレが長くて良かったと思ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます