第5話 ほかの楽しみがありますし

 私の確信をよそに最近彼が来ていません。いったいなぜなんでしょうか。あのネットを張ってからも何度かは庭に来ていたので、それが理由ではないでしょう。


 どうしても気になり、夜に私はあのアパートの近くまで行ってみました。まるでストーカーだな、なんて思いますが、まあ今回の場合はあちらにも後ろめたいことはありますし、ダメじゃないですよね。

 あのアパートは相も変わらずでした。明かりが点いているのは彼が入っていったあの部屋、そして一階の一部屋だけです。やはり最初見たとき通りに二部屋以外空き部屋のようです。

 じっと遠くから見ていたのですが、なにやら誰かと誰かが喧嘩しているような声が聞こえてきました。ここまで聞こえると言うことはそうとうな大声で口論しているのでしょう。私の耳がおかしくなければ、男性同士が言い争いしているように聞こえました。


 まあだからどうしたのだ、ということです。少し残念ですが、まあこれで安心を得られたと思いましょう。

 今週末にはちょっとした楽しみもあるのです。




 金曜日、通販サイトで頼んでいたものが届きました。実家だとさすがにこんなものは頼めませんから楽しみにしていたのです。ずっと興味だけはあったのですが、ついに買ってしまいました。


 段ボールの中には派手なパッケージに包まれた足枷と手枷が入っています。初心者向けのものを頼みました。一人でも簡単に着脱ができるものです。興味のあった革と金具の本格的なものではなく、マジックテープでとめる簡単なもの。

 枷、というのもあれなので、拘束ベルトという名前くらいがいいのでしょうか。足のベルトは足首のあたりで脚が開かないように拘束するものと、足首と太ももを繋げて開脚させるものの二種類が入っています。手のものは太ももと手首をそれぞれつないで拘束するものです。

 手錠のようないかにもといった感じのものと迷いましたが、流石に一人で使うには不安が残りますし、諦めることにしました。こんな嗜好をあかせる知人友人はいませんし、仕方がありません。


 マゾヒズムというのでしょうか。一般的な、というのもおかしいですが、鞭で打たれたり言葉で責められたりといった、痛みを覚えるものにはあまり興味はありません。私が興味が――好きなのは物理的に拘束され自由を奪われることです。

 SNSで見かけた拘束プレイのイラストが最初かと思っていますが、もしかしたらもっと前からそういった興味はあったのかもしれません。たとえば、アニメや特撮などで敵役に捕まったキャラクターが手首を後ろで拘束されもがいている姿かもしれません。


 この趣味はずっと隠してきましたが、一人暮らしで一軒家なんて好条件でそれに手を出さずにいられるほどの自制心はありませんでした。

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