Grime
月桂樹
プロローグ
どこで間違えたのだろうか。
攻撃が放物線を描き、ビルに当たる。破壊されたビルの破片が地上に向けて降ってくる。ガラスが雨のように降り、人がおもちゃのように吹き飛ばされる。まるでハリウッドのパニック映画のようだ。
塵で汚れた頬を汗が伝う。仲間はまだ戦っている。私一人何も出来ず、固まっているわけにはいかない。
「伏せろぉ!!!」
爆風をものともせず叫ぶその上半身が、凄まじい勢いで飛んできた光の玉に吹き飛ばされた。直後、私の近くでも爆発が起こる。
必死にしゃがみこんで頭をひたすら守る。とうにエネルギーは枯渇しているため、我が身を守るための防壁すら張れない。
相手は一人なのだ。魔法も何も使わず、ただその莫大なエネルギーを打ち出してきているだけ。それだけなのにどうしてこうも届かないのか。
こちら側が弱い訳では無い。政府も巻き込んだ、事務所の者達だって圧倒的な力の持ち主だ。それなのに、どうして。
「桜子! 無事か!?」
青い瞳が、風でめちゃくちゃになった金髪が眩しい。
「私はなんとか……でも、このままじゃ……」
彼は深く息を吐いて、それから傷だらけの手で考えるように顎に手を添える。
皆、酷く消耗している。やはり無謀な作戦だったのかもしれない。それでもやらなければ、確実に終末が訪れたのだ。何とか立て直さないと。
埃の先、太陽を背に天高く飛ぶシルエットを睨みつける。
笑っている。笑っているのだ。ずっと、アレは。
子供が積み木を崩すように、飛ぶ小鳥を落とすように、他愛もなく悪意すらなく人間を全て殺そうとしている。
せめて弱点がわかればと、手を伸ばす。私の右手からはコアが皮膚を突き破っており、これ以上力を使うとどうなるかはわからない。
それでも、光を、アレの力を取り込めば勝機が見えるかもしれないのだ。皆が体を張っているのに、私だけ怯えて何も出来ないなんて話にならない。
私のやろうとしていることが分かったのか、隣に座り込んでいた彼が私の手を支える。
「危険を感じたらすぐやめてくれ」
瞬間、力が濁流のように押し寄せてくる。意識が持ってかれそうになる。いや、持っていかれているのかも。わからない。
返事は出来なかった。しようとはしたのだけれど、自分の体が上を向いているのか下を向いてるのかすら分からなくなってしまっていた。
ただ、腕を支えてくれている手の温もりだけが私を繋ぎ止めていた。
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