第15話 入隊

 翌日


 服装はそのまま、ヴァンは軍の大佐室へと通された。そこには無論、憎きレイリがいる。高そうな椅子にふんぞり返り、足を組んでヴァンを出迎える。ロボは部屋で待たせてあった。


 部屋の左右には高そうな書棚があり、ところせましと書類が並んでいる。産まれてからずっと田舎暮らしで、この二年間も小屋にいたヴァンにとっては、建物も設備も、全てが物珍しいのは事実だ。


「久しぶりだな、少年」

 にっこりと、気色の悪い笑みを向けられる。相変わらずの金髪と、感じ悪く細められる瞳。

「お久しぶりです。大佐」

 唾を吐いて汚物にぶち込んでやりたくなるが……ぐっと抑える。貼り付けたような笑みを返した。


「てっきり、逃げるかと思ったんだがな」


「仮にそうしても……あなた方は私を見つけたでしょう」


「ああ……そうだな」


 顔の前で手を組んで、両肘をデスクの上へと乗っける。無論、ヴァンは立った状態だ。背後には二人、兵士が控えている。


「あの日だって、ちゃんと私を尾行する兵士がいたはずです」


 レイリの目が細められる。


「ご名答。しばらく見ない間に、賢くなったんだな」


「ありがとうございます」


 お前に褒められたくなどない……穏やかではない心中を必死に抑え、表情を崩さないように努める。

 一拍間を置いて、レイリは本題を切り出した。


「で、心は決まったのか?」


「ここまで来て、今更心が決まるもどうもないでしょう。もちろん、貴方様の部隊に入らせて頂きたく思います」

「そうか……賢い選択だ。自ら同胞を殺す道を選ぶとは……ダンピールの宿命というやつかね」


 哀れむような目線を向けられて、ヴァンの胸の内は熱く燃えたぎる。誰のせいだと思っているのかと、掴みかかりたくなる。

「さて……この後は将官どもに挨拶をしてもらう。もっとも、俺が紹介するだけだがな。そこらへんの作法は知らなさそうだが……まあいい。ちょっとくらいは分かるだろう」


「はい、ある程度ですが……心得ています」

 軽く頷いた後で、レイリはヴァンの背後にいる兵士に目で合図する。

「とりあえず下がって貰って構わない。俺もすぐに行く」


「はい、わかりました。失礼します」

 ヴァンが深く頭を下げるのと、背後で扉が開けられるのは同時だった。

 そのまま踵を返し、ヴァンは室外へと出て行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る