When the Saints Go Marching In 前篇
門を越える。俺たちは月明りで照らされた、駐車場だったはずの場所に出た。
目に入ったのは幾月の時を得て、現在も悠然と構えるゆ~わ~るど。
それと、こっちに向かってくる幽霊が四体――いや、後ろにも結構な数の連中がいる。
「うぉぉぉぉッ!? ホントに向かってきてるゥッ!?」
狂暴化した幽霊たちが、俺たちを死へと引きずり込むべく凶器である爪を構え一直線にやってくる。
速い。距離こそあるものの、ぶつかるのも時間の問題だ。
「瑠唯ちゃん頼むぞ!」
幻尊さんが火を吐くように叫ぶ。
「はいおじさま! はぁぁぁぁぁぁぁッ」
瑠唯さんが雄叫びをあげた。
瞬間。彼女が照準を合わせた甲奘を纏う光が、銃口にあたる部分に収束していく。
「あの光は霊通力ってやつなのか」
集まった光がソフトボールサイズの球体になったぞ。
「初弾いきますッ!」
そして空を切るかの音と共に光弾が放たれた。
俺の目でも視認できる速さでやがて四体にそれぞれ分散していったのだ。
見事全弾が命中。幽霊は倒れ、徐々に黄色い粒子へと変わっていく。
「父さんッ、左右からも!」
光華が敵方向へ目配りをした。
左右を見ると、どちらからも二体ほど近づいてきている。
前の奴だってまだいるのに。挟み撃ちにする気か。
「把握済みだ。瑠唯ちゃんは続けて前の奴を、俺達は近づいてきてから返り討ちにしてやるぞ!」
幻尊さんが木刀を中段に構え、轟くような声で光華に答えた。
瑠唯さんの光弾は連発できないようで、何秒かしてから除霊具を覆う光が先端部に集まる。
「よしッ、当たれぇ!」
彼女は甲奘から再度光弾を放った。連続ヒット。三つに分かれた散弾が全て幽霊に命中。
「また来ましたよ皆さんッ!?」
叫んで敵襲を知らせるしかできない俺。終わりじゃない、左右の幽霊もこちらに追いついてきた。
長く鋭い爪が、幻尊さんと光華に襲いかかる!
「おおおおおぁぁあ!」
二人は、
「楽勝よッ」
見事に己の除霊具で防御。
爪をはじき、二人は間髪を容れずに一閃。煙のような感覚のないモノを切るようだった。またも光の結晶となり消えていく。
だがつかの間。後ろにいた左右の残り一体ずつが、遅れて突っ込んできたぞ。
「残会ね、遅いわよ!」
光華に、
「出直してこい!」
幻尊さん。俺の心配などいらず、幽霊の斬撃をそれぞれの除霊具で難なく受け流す。すかさず一撃を放ちの除霊成功。
ただの木刀のようにも見える除霊具だが、実体ではない幽霊の鋭い爪による攻撃を生身まで透り抜けずに受け止めているのは、あの青白い光と除霊具へ貼ってあるお札のおかげなのだろうか。
「おじさま、光華! 頼みますッ」
瑠唯さんの射撃をくぐり抜けた前方の幽霊二体が、眼前まで迫ってきていた。
「ウァッ!? 二人共ッ」
思わず目を瞑っちまった! 危ないッ。
「オァッ! ちくしょうが!」
「くッ!? あたしが負けるかぁあッ」
心配は杞憂であった。すぐさま前に出て、突き攻撃を見事に捌く二人。
しかし奴らはまたすぐに振りかぶり、爪で切り裂いてくる。
――だが、
「す、すげぇ!?」
二人がその攻撃を前に押し返す。
瑠唯さんがのけぞった幽霊二体の隙をついた。
「観念なさい!」
一体を甲奘で、もう一体を短刀型除霊具、釈浄刃を凄まじく俊敏に取り出して突き刺したのだ。
「やったぞ瑠唯さん!」
ダブルキルだ……すでに心臓へのショックが重い。寿命が縮まるかと。
「よぉし、流石は瑠唯ちゃん! 距離はもう半分だな! この調子で行くぞぁッ!」
幻尊さんがゆ~わ~るどに向かって吠える。
凄い、俺がビビって素っ頓狂な叫び声をあげる必要すらなかった。
甲奘で撃ってから次の攻撃までのタイムラグを計算しながら、近づいてくる幽霊を的確に釈浄刃で切り倒す瑠唯さん。射撃が上手すぎるし、幽霊の長い爪と比べるのがバカらしいまでの小さな釈浄刃を持ってしても、臆することなく奴らの間合いへ切り込んでいく。
木刀型除霊具、壽蓮樹を歴戦の剣豪の如く使いこなし幽霊を圧倒する幻尊さん。やられる前に切る、切る、切る。たったそれだけのシンプルな戦法を極限まで磨いた戦闘法で、幽霊に反撃の間を与えずにいる絶対的守護神ぶりである。
光華なんて昨日まで普通のクラスメイトだと思っていたのにあの薙刀型除霊具、封光を達人のようにたやすく扱っている。リーチを生かし、多勢に無勢を時に突き、時に薙ぎ払う等して、俺たちのテリトリーへ幽霊が入るのを許さない。
霊媒師三人は複数の幽霊を難なく相手にして無駄のない動作で次々と危機を回避していく。
奴らの俊敏な攻撃を避けるあの身のこなし、それに互いをカバーした後の行動の速さ。素人目に見ても卓越した技術だ。これが、プロの霊媒師の「仕事」なのか
「前に結構な数がいやがるな。瑠唯ちゃん、俺と変われ!」
「はいです!」
幻尊さんの指示で瑠唯さんが入れ替わり、陣形が変わる。
門からゆ~わ~るどまで結構距離があると思ったが、もう真ん中の位置を越していた。
「だらぁッ!」
先手必勝の攻撃。幻尊さんが勇猛果敢に切りかかる。
瑠唯さんも光華も近づいてきた奴らと戦いながら走ってる。
「俺もッ遅れないようについていかないとッ」
安心しきって油断してはいけない。こんな時こそへまをしないように、今は集中して走る。
「ふぬぁッ! ぬるい、ぬるいぜぇ」
「なめんじゃないわよッ」
楠屋親子が抜群のコンビネーションで幽霊たちを切り捨てていく。
「施設まであと少しです!」
瑠唯さんが二つの除霊具を巧みに使いこなし、遠距離と近距離を制する。
生者の命を引き千切らんとする幽霊を、走りながらも手間取ることなく次々と撃破する三人。アクション映画の主人公かと思うほどの無双振りだ。
あらかた前の幽霊は倒したようで、今は左右の方から向かってくる連中を中心に相手をしていた。
「あと、もうちょいだッ」
自分に言い聞かせるように呟いた。
近づくにつれ廃墟のデカさをより感じる。二回建てで、横幅が長いゆ~わ~るど。ヒビだらけの施設を囲うようにして草木が伸びている。
「ついに来たんだ――おぉッ!?」
さっきよりブレスレットの感覚も強くなっている。冷静に、冷静さを保て俺!
「瑠唯ちゃんに光華、お前ら作戦通り先に入って廃墟の入り口で陣取ってる奴らをやっちまえ。そっから瑠唯ちゃんは壁霊封陣だ! 俺は駐車場の幽霊をある程度食い止めてから行くぜ」
幻尊さんの指示が飛んだ。
幽霊連中は前方には今のところ見えないが、中にいるとも見越して幻尊さんは言ったのであろう。
「わかりました!」
瑠唯さんに、
「OK。麗二、あんたのリュックの中にあるモノが必要になってくるわよ。付いてきなさい!」
光華が揃って同意し、スピードをあげて突っ切っていく。
「ああ!」
幽霊たちをまたも苦もなく撃破した三人が陣形変更。幻尊さんが俺らより少し後ろの位置となった。
俺も女性陣に付いて行こうと、なんとか追いつけるようにと必死に走る。
「あと少しだ――とぅッ!? いぃ、いるぞ!」
指差して二人に伝えた。
入り口、ガラスが破られたドアの脇スペースから幽霊が二体だ。
「承知しましたッ!」
瑠唯さんが陣地確保の為に光弾を放つ。
二つに拡散し一体には当たったが片方は避け、磁力で引き寄せられるようにして俺たちへと猛スピードで迫ってきた。
「任せてッ!」
光華が封光を勢い任せにを振り回す。寸前で避けようとした霊を捉えて四散させた。
「瑠唯! 灯霊弾を頼むわッ!」
「はいッ!」
光華の指示に瑠唯さんが応じたと同時、甲奘を覆う青白い光がオレンジ色に変化。その光が銃身の先に集まり――撃った!
瞬く間の出来事。光華が灯霊弾と言ったそれは入り口の奥、壁に突き刺さる。
「これは――照明弾かッ!?」
眩い。まるで場に灯りができたかのように、周囲が明るく照らされたのだ。
「よーし、このまま突っ込むわよッ!」
光華が威勢よく先陣を切って突入。
光華、瑠唯さん、遅れて俺の順でゆ~わ~るどの中へ入る。
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