急変

『霊媒師の、使命ですから――』


 俺の脳内で瑠唯さんの言葉が響く。

 母さんがもし霊媒師であったなら、同じ心持ちで除霊へ臨んでいたのだろうか。

 ともかく全ては後日幻尊さんと話せばわかるだろう。

 今日のところ、俺の出る幕はない。


 「じゃあ俺はおとなしく帰るかな――ん?」


 瑠唯さんをもう一度見やる。

 彼女は立ち止まりズボンのポケットから、またスマホを取り出した。


「あ……ハイ、えぇ――」


 電話か。誰かと話しているんだろう。


「成る程わかりました。では」


 短い時間で会話が終わった。

 しかしそれでは終わらず、キョトンとした顔をしてスマホを持って俺に近づいてきたのだ。


「どうしたの」

「神内さん。その、光華が神内さんにお話しがあると」

「うぇ、俺に?」


 瑠唯さんがコクリと頷いた。俺はスマホを受けとる。


「もしもし光華か、一体何の用事――」

『ちょっと麗二、あんた瑠唯と会ったみたいね! まぁそれはともかくあんたのブレスレットの件で大事な話があんのよ』


 話すやいなや早口で興奮気味にまくしたてる光華。

 内容はどうやら、事態の急変を告げるものらしい。


「なんだって? てか、声うるさっ。少し落ち着け」

『父さんが予定より早く現地に着いたから、瑠唯に大原町の駅に待ってるよう伝えたの。駅で拾ってくってね! そんで瑠唯が麗二と会ったて報告して父さんに麗二のこと話したら、除霊の前に話を聞いてやるって。だからあんたは瑠唯と一緒にそこで待ってなさい!』

「んな、なんだって!?」

『そういうことね。あと、もっかい瑠唯に代わりなさい』


 俺は言われるままに瑠唯さんへスマホを返す。

 おいおい、随分予定が早まったものだ。


 数分後。光華のバカデカい声を聞きながらの電話を混乱気味に聞き終えた瑠唯さんが、俺の顔を心配そうに見上げた。


「失礼しました。その、神内さんのお母様のこと、大体は光華から聞きました……。私もまだ完全には理解できないのですが、何だか大変な事情を抱えているようですね」

「うん。俺も今日になって話がいきなり進展しすぎて、未だに何が何だか整理がついてないんだよ」


 苦笑しつつ、本音を漏らした。


「それも数十分後にはわかるのかな」


 何はともあれサプライズだ。

 光華の親父さん、幻尊さんに会える機会が早まった。

 感覚の件もそうだが、母さんのことも知っているかもしれないんだ。

 俺たちが駅の待合室で椅子に座りながら待つこと十五分。


「あっ、光華からだ」


 瑠唯さんのスマホが光華からのメールを着信した。


「神内さん、光華たちが着いたそうです」

「うん。いよいよか」


 俺たちが駅の入り口を出ると、駐車スペースに泊まっている年季の入った白いワゴン車の窓から、光華が手を振っていた。


「全てがわかるかもしれない……!」


 緊張してきた。

 空はもう、青黒く染まりつつあった。

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