第36話 中村係長サイド~夜這い

 クソッ!

 わざわざこんな小汚ない保養所に来たのは、高柳凛が珍しく泊まり組に入っていたからだって言うのに、さっきから新入社員の有栖川に邪魔されて、話もろくにできなかった。

 そりゃ、あんなに若くて可愛い部下になつかれて、ボヨンボヨンのおっぱい押し付けられたら、悪い気はしない。しないどころか、積極的に食い散らかしたくなるってものだ。


 高柳凛さえ目の前にいなければの話。


 あの女……完璧過ぎる高柳凛の前では、どんなに若かろうが、どんなに魅力的なおっぱいをぶら下げてようが、これっぽっちも欲しいとは思えない。

 そりゃ、あの弾力に下半身に熱が込み上げない訳じゃない。目の前にさらされる胸の谷間に視線がいかない訳じゃない。

 そんなの男だから当たり前の生理現象だ。


 でも、俺が欲しくてたまらないのは高柳凛だ。


 あの彫刻のように整った顔をよがらせたい、泣かせたい、グチョグチョでドロドロに落としたい。

 笹本がそんな凛を知っているのかと思うと、腸が煮えくり返る。


 いや、あの淡白そうな男が、女みたいに可愛い顔をした男が、凛にそこまで淫らなことをするとは思えない。下手したら、清い関係(ある意味正しい! )って可能性が高い!

 高柳凛ほどの女が、可愛いだけの淡白な男に満足できる筈がない。


 そうだ!

 絶対に欲求不満だ!!

 熟練した俺の手を求めているに違いない!!!


 ★★★


 女子はほとんど部屋に戻り、飲んべえで朝まで宴会コースの男性社員数名が食堂に残るだけになっていた。

 さっきまで高柳凛が座っていたテーブルも、食べ物飲み物は撤退されており、誰も座っていない。


 俺は酔いの回る頭で、辺りを見回す。

 さっきまで金魚の糞よろしくついて回っていた宮内もいない。


 よし!

 夜這いに行こう!!


 酔っぱらいに三階分階段を上がるのはしんどい。

 決して年のせいじゃない。

 足早に階段を上り、凛の部屋の前につく。


 ドアノブに手をかけると、鍵のかかっていない取っ手は簡単に回り、ギーッと嫌な音がなって扉が開いた。

 わずかな隙間に身体を押し込み、扉を閉めて後ろ手に鍵をかける。


 鍵が開いていたということは、オーケーカモン! ってことだよな!!


 一足並んでいるスリッパを見て、ズクリと下半身が反応する。


 スリッパを脱ぎ散らかし、襖をそーと開ける。中は真っ暗でほとんど見えないが、かろうじて部屋の真ん中に敷かれた布団に丸みを発見した。

 襖を閉めて、這うようにして布団ににじり寄った。常備灯もついていない部屋は一寸先も見えない。

 布団の側に寄ると、こんもり盛り上がった布団に潜るように人が寝ているのがわかった。


「……高柳」


 ゴクリと喉を鳴らし、布団の裾をめくってその中に潜り込んだ。


 甘い香りと柔らかい感触。


 後ろから抱きすくめるようにすると、その手を握るようにつかまれた。


「……係長」


 か細い声に夢中になって、覆い被さり唇を奪った。

 この手の中に、狂おしいくらい求めた女がいる!

 しかも、拒絶されることなく、積極的に舌をからめてくる。


 それからは理性がすっとんだ。


 無我夢中でその柔らかい身体を貪り、食らい尽くした。ここが壁の薄い小汚ない保養所だということも忘れて……。


 ★★★


 新婚半年から妻とはベッドどころか部屋も別で、女を抱き締めて眠ったのは何年ぶりだろう。

 しっとりとした柔らかい肌触りを抱き締め、俺は爽快な目覚めを迎えた。


 あんなに飲んだのに、激しい運動でアルコールが全てとんだせいか、やたらめったら気分が良い。多少腰が重い気もするが、三十も半ば過ぎて、あれだけの回数をこなしたんだから、上出来じゃなかろうか。凛だって、淡白な年下男など金輪際目も向けないくらいには満足した筈だ。


「おはよう……ございます」


 掠れた声が、昨日の情事の激しさを物語っている。

 その何とも色っぽい声に、後ろから裸の身体を抱き締めた。


「おはよう。高……や……なぎ?」


 明るくなった部屋で、目の前の茶色いフワフワした髪の毛が踊る。


 うん?


 何度か瞬きするが、色覚がおかしくなった訳ではないようだ。


 ??!


「……アンッ、係長。朝から~ッ」


 抱き締めていた手に思わず力が入り、その大きな胸を揉みしだくように動かしてしまった。


 高柳凛の胸は、こんなに爆乳じゃない!?


 女は振り返ってムチュッとキスしてきた。

 思わず差し入ってきた舌をからめて吸い上げてしまう。


「……フゥゥン。係長、ステキでした」

「あ……りす……がわ君? 」


 化粧が落ち、多少顔立ちが違っているが、この爆乳は有栖川希美だった。


 昨日……。


 呆然とする俺にマウントをとり馬乗りになった希美は、うっそりと微笑んだ。


「もう、信吾さんたら朝から元気なんだから」


 生理現象だ!!


 そんな俺の叫びは爆乳の中にかきけ消された。






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