第28話 天音サイド~帰り道
ハァ~ッ。
何でかな。
毎週末お泊まりデートをして、週に何回か夕飯デートもして、それなりにスキンシップ(女子対女子レベル)もしてる。
多分友達の少ない(だろう)凛にしたら、無茶苦茶親しい間柄だと思う。家族を除けば、それこそ他人で僕以上の立ち位置に立った人間はいないんじゃないかな。
だって、凛の部屋にはペアのもなが一つもなかったから。
彼氏がいないていっても、友達が遊びにきた時用に、茶碗やコップくらいは二つづつあったっていいよな?
でも、全てが一つ。
家に遊びにくるような友達も、泊まりにくるような彼氏もいなかったってこと。
で、今。
僕用のお箸や茶碗、マグカップが凛の食器棚に収まっている。
これ以上の証明はないよね。僕が凛の一等近くにいるってことの。
なのにさ、僕の立ち位置は本当に彼氏なんだろうか?
泊まってるし(隣で寝ているだけだけど)、キスだってしてるし(外国人の挨拶レベル)、イチャイチャしてる(僕が一方的にスキンシップとってるだけだけど)!
「凛さん、好き」
何度も何度も囁いても(もしかしたら言い過ぎて最早挨拶? )、凛の表情はぶれない! 安定の無表情で、赤くなったりなんかしてくれない。
たまにいき過ぎるスキンシップの時とか、僅かに眉を寄せるから、僕は慌てて距離をとる。
嫌われたくはないからね。
今までは、勝手に女の子が寄ってきていたし、向こうからのスキンシップ過多で、下手したら襲われる勢いくらいだったから、自分からせまるやり方がわからない。
凛は全く流されないし、甘い雰囲気にもならない。
なんか、つんでない?
何ヵ月も最上級の友達やってる気がする。いやさ、あんな国宝級にキレイな人の一番になれるのだから、そりゃそれだけでも……。
嘘吐きました。
99%嘘だな。
僕は自分がこんなにヘタレだったなんて知らなかった。
★★★
「凛さん、酔っぱらいました? 」
「うん? まぁまぁ……ね」
「タクります? 」
「いいよ、電車で」
榎本と別れて二人で電車に乗った。そこそこ混んだ電車では、少し身体が密着する。身体を支える為に腰に手を回すと、珍しく凛から僕に寄りかかってきた。
その柔らかい身体を全面で感じ、凛の顎が僕の肩に乗せられた。酒臭いオヤジ臭い車内で、控え目な香水の香りが彼女の体温と混ざり合い、なんとも言えない芳香が僕の鼻を擽る。
ヤバい!
この数ヶ月、どれだけ修行の毎日が続いていることか。
凛の家に泊まる前日は、いつもこれでもか! ってくらい自分を慰めて、カラッカラになった状態で挑んでいた。じゃないと、男の本能に負けそうになるから。
そんな僕の努力も、凛の魅力の前では暴発しそうになるんだ。
もちろん、凛が僕の彼女である訳だから、他に手を出すこともしていない。第一、凛以外に一ミリたりとも反応する気がしない。
草食だと思っていた自分が、凛の前でだけは十代男子か?! ってくらい欲情し、それを今まで培ったアルカイックスマイルで覆い隠す。
今日はイレギュラーで凛を家に送るから、昨日は普通にビデオ見ながら寝落ちした。
つまり、僕の天音君は超通常営業中。
そんな状態で、この柔らかさ、この匂い……修行です。
「凛さん? 」
ムラムラする気持ちをなんとか静めようと、無意味に中吊り広告を一字一句目で追っていたら、耳元に規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
器用だ!
立ったまま寝ている。
僕の肩にもたれているものの、きちんと自分の足で立ったまま、凛は僅かに口を開けて無防備な寝顔をさらしていた。
か……可愛い!!
いつもは無表情でどこから見ても完璧に美しい凛が、他人とは激しく距離を置き一ミリの隙もない凛が、僕の前でこんなに安心したように寝ている。
なんなの、これ?!
凛との距離感に震えがくるくらい喜んでいる自分と、男として意識されていないのではないかという不安。
凛の腰に回していた腕に力をこめて、支えるように抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます