第21話 天音サイド~初めてのお泊まり

 衝撃的な新事実だった。


 まさか、凛が……この美しい人が裸族だったなんて!!!

 女神降臨か?!


 頭の中では裸祭りがワッショイしていたが、表面上はいつも通りの純真無垢を装った鉄壁の笑顔を崩すことはなかった。


 ラブホテルで酔い潰れて眠る寸前に、目の前で気前よくスッポンポンになったのは、裸族ゆえの習慣だったのかと納得する。

 あの時、欲求に流されて勘違いして襲わなくて良かったと心底思う。やっぱりそういうことは、お互いに同意の上じゃないとね。


 部屋着に着替えてくると言いつつ、ジーンズを履いて出てきた時は、鉄壁防御かよと思ったけど、爽やかに装ってジーンズ不可を主張したら、短パンに履き替えてくれたのを見た時は、またもや脳内はお祭り騒ぎだった。

 ダボッとしたシンプルな黒Tシャツはお尻がギリギリ隠れるくらいの丈で、見ようによってはTシャツ一枚しか着ていないように見えた。Tシャツ(短パン)から覗く足は、スラリと細く長く、けれど太腿はムチッと艶かしかった。


 最高かよ!!


 女の子の生足を見てこんなに興奮したのは初めてだった。でもやっぱり純真無垢な笑顔は崩さなかった。


 もっとお互いに馴れたら、二人で裸族ですごせるんだろうか?

 僕的には裸でいたいという欲求はないけれど、彼女が裸で過ごすなら自分も裸になること一択しかない。


 ★★★


「マジうまかったです。凛さん、料理までパーフェクトとか、僕胃袋まで凛さんに絆されちゃうな。これ以上好きになったら困っちゃうなぁ」

「おそまつさまでした。……天音君は、その誰にでも気軽に好きとか言うのはどうなんだろう? 」


 誰にでも?


 僕は洗い物を手伝う手を止めて、ちょっと驚いて凛を見てしまった。だって、女子と仲良く友達すること多いし、「可愛い! 」とかはよく言うし、「天音君大好き」とか言われれば、「僕もだよ~ん」と会話の流れで返すことはあるけど、僕から「好き」なんて言ったことないのに。

 ちょっと心外というか、ショックなんですけど。


「誰にでもなんか言いませんよ」


 頬を膨らませて言うと、凛に「ならいいんだけど」と流された。


「凛さん、お話しがあります」


 洗い物が終わった時点で、僕は凛に向き直った。


「……はい? 」


 食事をしたローテーブル前のソファーに座り、グリンと凛の方を向く。

 二人掛けソファー、グッジョブ!

 膝が当たるくらい距離が近く、凛の良い香りが鼻腔を擽る。


「僕は誰にでも好きだなんて言いません。気軽にお付き合いもしません。凛さんにはちょっと付け入ってしまったというか、お互いに異性避けに付き合おうみたいな流れに持っていっちゃいましたけど、相手が誰でも良かった訳じゃないんです」

「……はぁ」

「凛さんは誰でも良かったですか? 」

「誰でも……って訳じゃ」

「僕は凛さんだからです」


 そっと凛の手を取った。

 無理に力を入れることなく、いつでも振りほどける力で。そして性的な意味合いは排除して、なるべく真摯な表情を向けた。


 手は振りほどかれることはなかった。

 その手を口元に持っていき、チュッとキスをする。その途端固まってしまった凛の表情に、フッと笑みを溢した。


 凛に警戒されたい訳じゃない。

 その身体に触れ、キスして、裸族としての触れ合いだってしたい。脳内では淫らに誘う裸の凛の姿を妄想して、誰にも見せたことない男の煩悩が暴走しそうになる。


 でも……。

 今じゃないよな。


 凛の瞳には、情欲の欠片も浮かんではいない。ちょっと男としては情けないけど、ガンガン攻めるのばかりじゃ……ね?

 凛にとって僕は名前だけの恋人であり、友人ですらないのだから。


「凛さん、僕ゲーム持ってきたんです。DVDも持ってきました。何からしましょう? 凛さんは何がしたいですか? 」

「私? 」


 手を離してニッコリ微笑むと、珍しく凛さんに表情が浮かんでいた。警戒と戸惑い……そんな感情だとしても、彼女の表情が動くほど気持ちを揺らがせたのなら、それだけでも今日一番の成果だ。


「私……ゲームってしたことないんだけれど」

「じゃあ単純なのがいいかな。少しやってみます? 」


 凛は小さくうなずき、その日明け方まで僕達はゲームをして過ごした。なにげに凛はRPGが気に入ったらしく、どこに進んだらいいか僕に聞きつつ、とにかく熱心に進めていた。

 集中してゲームする凛は、何て言うか……無茶苦茶可愛らしかった。

 キレイで可愛いとか、僕の彼女最強だな。これにいつかエロが加われば言うことないんだけど……。



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