第14話 天音サイド~ 金曜日の飲み会2
うわ~、こいつガツガツくるな。
希美のマシンガントークに、目の前にいる凛達と会話もままならず、目の前に透明な壁があるんじゃないかってくらいえらく遠く感じる。
しかも、希美がベタベタボディータッチしてくるのも鬱陶しい。
これってセクハラじゃないか?
今は腕に胸を押し付けながら、さりげなく太腿を撫で回されてる。たまに内腿をスルリとかすめたり、僕の天音君をかすったりするもんだから、さすがにムカッとしてくる。
ムラッとじゃないからね!
ずいぶん軽く見られてるなって思うよ。万が一素っ裸でクネクネダンスされても、僕の天音君を直撃攻撃されたとしても、無心でいられる自信200%ある。
「あ、僕トイレ」
さすがに際どいところを撫でられ、背中がゾワゾワして立ち上がる。希美は、欲の籠った目で僕を見上げてくるけど、そっち(興奮してムラムラ)じゃないからね。気持ち悪いだけだから。
個室を出ると、すぐに榎本に電話を入れた。榎本はすぐに廊下に出てきてくれた。
「どうした? 」
「すいません、席替えお願いします」
「そりゃ……。おまえと有栖川ちゃんってどうなってんの? 」
「ただの同期です」
「にしては、ずいぶん仲良さげじゃん? 」
「希美ちゃんって距離感おかしいんですよ」
「おまえもな。ありゃ完璧カップルのイチャイチャだろ」
「違いますよ。セクハラされてただけです。第一、僕の彼女は凛さんだし」
「は? 」
心底わからないって顔をされる。
「僕、三週間前から凛さんと付き合ってるんです。今日だって二人で夕飯食べるつもりが、希美ちゃんに襲撃されてついてきちゃって」
「えっ? おまえ彼女の前で他の女とイチャイチャしちゃう訳? それって駄目だろ」
榎本は頭をガシガシかきながら、意味わからんとつぶやく。その立派な体躯を壁に寄りかからせ、スマホのカバーをカパカパさせる。何か考えているらしい。
「高柳って……見た目があれじゃん。片っ端から排除してるみたいだけど、とにかく男が寄ってくるんだよな。すっと、女からは良く思われないみたいで、色んな噂流されてるんだわ」
「係長の愛人とか? 」
榎本は苦笑する。
「まあ、だな。馬鹿らしいし、ガキじゃないんだからって思うんだけど、なんでか高柳も否定したりしないから、噂もエスカレートしてるみたいで。おまえ、そういう噂を真に受けて……その……軽々しく近寄ったりしてないよな? 」
確かに、凛には数多くの恋愛遍歴を窺わせる噂が多々ある。でも、そんなのは通常の凛の後ろ姿を見ていれば、かなりな確実でデマカセだってわかる。
「そんな訳ないじゃないですか。凛さんとはまだ付き合ったばかりだけど、真剣に交際したいなって思ってます」
「ならいいんだけどよ……。にしてもおまえ、やっぱ彼女いんなら彼女以外とベタベタするのはよくねぇよ。相手が不安になんだろ」
「えっ? 凛さんなんか言ってました? ヤキモチとかやいてくれてました? 」
そうだったら嬉しいと、力んで榎本ににじり寄ると、榎本は呆れたように僕の頭を小突いた。
「ああ、なるほど、おまえが高柳に本気っぽいのはわかった。残念ながら、高柳は無表情過ぎて何考えてるかわからんかったがな。動揺や苛立ちはなかったと思う。うら、あんま長いとウンコだと思われるぞ」
「あ、榎本さん先に戻って、サクッと席替えしておいて下さい」
「へぇへぇ」
榎本は大きな身体を揺らして個室に戻って行った。きっかり三十数えて僕も個室に戻る。
「ただいま」
「お帰りなさい」
榎本はうまく希美の隣りに移動してくれており、希美は嫌そうに距離を取っている。
凛はいまだに最初に頼んだウーロン茶を少しづつ飲んでいて、もう少しでからになるところだった。
「凛さん、お酒は飲まないですか? 」
「えぇ、まぁ」
「懲りちゃいました? 」
「そういう訳じゃないんだけど」
「大丈夫ですよ。もし飲み過ぎても、今回はちゃんとおうちまで送りますから」
「 天音君ちって練馬方面だよね。私もそうだから、帰りは二人でタクっちゃおうよ」
榎本から話しかけられているのを無視して、希美が僕達の会話に乱入してきた。
「へぇ、有栖川ちゃんも練馬方面なんだ。俺も俺も。高柳はJRだっけ? 」
凛は一人だけ帰る方面が違うことにうなづいた。
「あまり遅くなると電車混むから、私はこれで……」
「確かに最終近くなるとラッシュ並みだよな。酔っぱらいも多くなるし。そんじゃお開きってことで」
榎本はタブレットの会計ボタンを押した。
すぐに店員がやってきて、榎本がカードで支払いをしてしまう。
「榎本君、いくらだった? 」
「いいよ、たいした額じゃなかったから」
「半分出すわ」
「あ、僕も払います」
「ご馳走さまでーす」
言うまでもなく僕にかぶるように言ったのは希美だ。希美はさっさと立ち上がると、僕の横に来て腕を引っ張った。
「少し酔っぱらっちゃった。天音君腕貸して」
「ごめん、僕も酔っぱらいだから、榎本さん、希美ちゃんのことお願いしますね。凛さん、凛さん素面ですもんね。手貸して下さい」
榎本が「しゃあねえな」と希美の腕を引っ張り僕から引き剥がし、立ち上がって困ったように僕を見下ろしている凛の手に僕はそっと触れて立ち上がった。
そのまま恋人繋ぎをして部屋を出る。凛はその手を振り払うことはなかった。
「酔ったの? 大丈夫? 」
店を出ると、凛は僕を見て小さく囁いた。希美避けにはいた嘘を信じているらしく、わずかに眉が寄っている。相変わらず無表情だが、心配してくれてるんだろうなというのが窺える。
「実はほとんど酔ってません。希美ちゃんが鬱陶しかったんで嘘つきました」
わざと凛の耳元で内緒話しのように言うと、凛の手がピクリと動いた。手を離そうとしちんだろうけど、僕は腕まで絡めるようにしてその手を離してあげなかった。
「酔ってないから、おうちまで送らせてくださいね。二人っきりで話せなかったから、凛さん不足なんです。それに阿佐ヶ谷から練馬って実は近いんですよ。深夜バスも出てるし」
「うちは阿佐ヶ谷じゃないわよ」
「どこですか? 」
「吉祥寺」
「なら、吉祥寺まで送って、阿佐ヶ谷戻ってバスで楽勝です」
凛は戸惑っているようだが、何やら思案した後にペコリと頭を下げた。
「もし本当に大丈夫なら……送ってもらえる? 」
「もちろんです!! 榎本さん、僕今日は凛さんのおうちに行きますから、ここで!!! 希美ちゃん送ってあげて下さいね」
希美をガッチリつかまえていてくれている榎本に手を振り、僕は凛さんの手を引いて駅に向かって足を速めた。
凛さんも自分と一緒にいたいって思ってくれたのかと、僕の頭の中はお花畑状態になっていた。
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