第7話 天音サイド ~ラブホテルでした
さっき全身ピンクに染めて布団に潜ってしまった凛は、本当に可愛かった。四歳も年上の女性、しかもキレイ系半端ないにも関わらず、本当に可愛らしかった。
いつもは切れ長の涼やかな大きな目が、零れ落ちちゃうんじゃないかってくらい大きく見開かれて、小さくふっくらとした唇が半開きになってたな。
あれなら舌も入れられたけど、さすがにそんなキスをベッドの上でしちゃったら、我慢なんかできなくなっちゃうし。さすがにそれはまだ早い。
男一般……いや人間全般? に凄く警戒心を抱いているみたいだから、がっついちゃダメだよな。無味無臭……違う、人畜無害だ、性的な物は封印して、側にいるのに、スキンシップに、キスするのに、慣れてもらって……って思っていたんだけどな。
ああ、ついキスしちゃった。
どうでもいい女は、たとえ素っ裸で跨がれても無反応でいられる自信はあるけど、高柳先輩……凛さんには無理。実際昨日は眠れなかった。どんだけ地獄なんだよって、キレイなうなじから背中のラインをガン見しつつ、煩悩に狂いそうになる下半身を鎮めるのに、どれだけの自制心が必要だったか!
★★★
凛を初めて見たのは、今の課に配属された最初の朝礼の時だった。
新人として、僕と他四人が壁の前に並ばされていた。部長に名前を呼ばれ、一言づつ挨拶をしている中、僕は男子女子関係なく注目を集めていた。もちろん、そんな視線はいつものことだし、特に緊張することなく先輩方を見回していたら、凛だけが僕に無関心・無表情で僕を見ていなかった。誰とも視線が合わないようにしているのか、多分視線は頭の上を素通りして壁を見ているのではないだろうか?
僕もだけれど、新人達の視線は凛に向かっていたように思う。皆、あまりに場違いな美貌に二度見し、間抜け面で見惚れ、挨拶もしどろもどろになりつつ「ウッソダアッ!! モデル? モデルばりな美人がいる?! 」と心の声が表情に出まくっていた。
最初に惹かれたのは、その女神のようにキレイな美貌だったのか、僕に興味を表さない冷たい視線だったのか……。
多分両方だろう。
女性に好意をもってもらうのは容易いことだった。逆に、恋愛感情をもたれないように、友達をキープする方が難しいくらいだった。それなのに、凛にこの二週間毎日笑顔で挨拶をしようと、可愛い後輩をアピールして仕事をレクチャーしてもらっても、凛の視線が僕に向くことはなかった。
見てもらえなければ見てもらえないほど、凛の視界に入りたくて、感情を揺るがせたくて……。
★★★
「凛さん、凛さん、僕あっち向いてますから、顔出してくださいよ」
僕はクスクス笑いながらベッドから離れると、凛に背中を見せて立った。
「こっち見ないでね」
背後でごそごそ衣服を着ている音がする。
ああ、振り返りたい!!
切実に思うけれど、そんなことをしたら昨日のお付き合い発言を撤回されそうだし、何より人畜無害……はもう無理か。キスしちゃったもんな。でも、警戒されたくないし。
「いい……ですか? 」
何となく雰囲気で衣服を着終わったのを察した声をかけると「いいわ」と返事があった。
スーツを着こんだ凛は、すでに無表情の通常モードに戻ってしまったようだ。
「素っぴんの凛さんもキレイですね。というか、いつもとあまり変わらなく思うんですが……」
「そう? 」
今は化粧をしていない筈なのに、何でこんなに目鼻立ちがくっきりしているんだろう? 普通化粧落とすと二割減になったりするのに、素っぴんでも十割の高柳凛だった。
「ちょっと、顔を洗ってくるわね」
戻ってきた凛は、化粧をしてきたようだけれど、かすかに肌の質感がかわったのと、口紅をつけただけに見えた。実際、顔を洗いに行くと言ってあまり時間もかかっていないから、たいして化粧をしていないに違いない。そして、これが通常会社で見ていた凛である。
どんだけポテンシャルが高いのやら……。
「凛さん、凛さん。僕、おなかすいちゃいました。朝ごはん、食べに行きましょうよ」
「じゃあ、出ましょうか。ここのお支払いは……」
「泊まりの代金は前払いで払ってますよ。……凛さんが」
「あら……」
少し考えるようにして、思い出したのかゆっくりとうなづいた。
「飲み物代は? 」
テーブルの上にはビールの缶が二つと、ゴミ箱にはそれ以外にもビールの缶が数個捨てられていた。
昨日、部屋に入ってから一緒に飲んだのだけれど、もしかしたらこれのせいで記憶が曖昧になってしまったんだろうか? ここに入った記憶はあるようだったけど。
「ほら、タブレットで注文して帰りに支払いなんですよ」
「ああ……」
枕元の備え付けのタブレットを指差すと、手に取って見ている。無表情だけれど、興味があるのだろうか?
「もしかして……初めてですか?ラブホテル」
「……」
「ああ……まあ、実家じゃなきゃこんなとこ使いませんよね。凛さんは独り暮らしでしたもんね」
「そうね」
「今までの彼氏とかと来たいねとかなりませんでした? ほら、たまには趣向をかえてじゃないけど」
凛は黙りで答えなかった。
ちょっと下ネタだったかな?
もしかして、不愉快にさせてしまっただろうか?
不安になりつつ凛の表情を伺ったけれど、特に表情の揺らぎは見つけられなかった。
「……彼氏……いたことないからわからないわ」
「は? 」
「お付き合いした男性がいたことがないの。だから、趣向のかえようがないわね」
「ええッッ?! 」
この美貌とスタイルで、何を言ってくれてるんだろう? そんなの信じられる訳ないのに!
不変の天音スマイルが初めて崩壊する。それくらい衝撃的な発言だった。「えっ? マジ? いや、ウソでしょ? 」と繰り返す僕を見て、凛が初めて口角をわずかに上げた。
微笑み……と呼ぶにはあまりに微かな変化だったけれど、凛の笑顔に違いなかった。
「ご飯……食べに行くんじゃなかったの? 」
「あ……はい、そうですそうでした」
凛さんの微微微笑、初めて見ちゃったよ。
さっき全身ピンクに染めて布団に潜ってしまった凛は、本当に可愛かった。四歳も年上の女性、しかもキレイ系半端ないにも関わらず、本当に可愛らしかった。
いつもは切れ長の涼やかな大きな目が、零れ落ちちゃうんじゃないかってくらい大きく見開かれて、小さくふっくらとした唇が半開きになってたな。
あれなら舌も入れられたけど、さすがにそんなキスをベッドの上でしちゃったら、我慢なんかできなくなっちゃうし。さすがにそれはまだ早い。
男一般……いや人間全般? に凄く警戒心を抱いているみたいだから、がっついちゃダメだよな。無味無臭……違う、人畜無害だ、性的な物は封印して、側にいるのに、スキンシップに、キスするのに、慣れてもらって……って思っていたんだけどな。
ああ、ついキスしちゃった。
どうでもいい女は、たとえ素っ裸で跨がれても無反応でいられる自信はあるけど、高柳先輩……凛さんには無理。実際昨日は眠れなかった。どんだけ地獄なんだよって、キレイなうなじから背中のラインをガン見しつつ、煩悩に狂いそうになる下半身を鎮めるのに、どれだけの自制心が必要だったか!
★★★
凛を初めて見たのは、今の課に配属された最初の朝礼の時だった。
新人として、僕と他四人が壁の前に並ばされていた。部長に名前を呼ばれ、一言づつ挨拶をしている中、僕は男子女子関係なく注目を集めていた。もちろん、そんな視線はいつものことだし、特に緊張することなく先輩方を見回していたら、凛だけが僕に無関心・無表情で僕を見ていなかった。誰とも視線が合わないようにしているのか、多分視線は頭の上を素通りして壁を見ているのではないだろうか?
僕もだけれど、新人達の視線は凛に向かっていたように思う。皆、あまりに場違いな美貌に二度見し、間抜け面で見惚れ、挨拶もしどろもどろになりつつ「ウッソダアッ!! モデル? モデルばりな美人がいる?! 」と心の声が表情に出まくっていた。
最初に惹かれたのは、その女神のようにキレイな美貌だったのか、僕に興味を表さない冷たい視線だったのか……。
多分両方だろう。
女性に好意をもってもらうのは容易いことだった。逆に、恋愛感情をもたれないように、友達をキープする方が難しいくらいだった。それなのに、凛にこの二週間毎日笑顔で挨拶をしようと、可愛い後輩をアピールして仕事をレクチャーしてもらっても、凛の視線が僕に向くことはなかった。
見てもらえなければ見てもらえないほど、凛の視界に入りたくて、感情を揺るがせたくて……。
★★★
「凛さん、凛さん、僕あっち向いてますから、顔出してくださいよ」
僕はクスクス笑いながらベッドから離れると、凛に背中を見せて立った。
「こっち見ないでね」
背後でごそごそ衣服を着ている音がする。
ああ、振り返りたい!!
切実に思うけれど、そんなことをしたら昨日のお付き合い発言を撤回されそうだし、何より人畜無害……はもう無理か。キスしちゃったもんな。でも、警戒されたくないし。
「いい……ですか? 」
何となく雰囲気で衣服を着終わったのを察した声をかけると「いいわ」と返事があった。
スーツを着こんだ凛は、すでに無表情の通常モードに戻ってしまったようだ。
「素っぴんの凛さんもキレイですね。というか、いつもとあまり変わらなく思うんですが……」
「そう? 」
今は化粧をしていない筈なのに、何でこんなに目鼻立ちがくっきりしているんだろう? 普通化粧落とすと二割減になったりするのに、素っぴんでも十割の高柳凛だった。
「ちょっと、顔を洗ってくるわね」
戻ってきた凛は、化粧をしてきたようだけれど、かすかに肌の質感がかわったのと、口紅をつけただけに見えた。実際、顔を洗いに行くと言ってあまり時間もかかっていないから、たいして化粧をしていないに違いない。そして、これが通常会社で見ていた凛である。
どんだけポテンシャルが高いのやら……。
「凛さん、凛さん。僕、おなかすいちゃいました。朝ごはん、食べに行きましょうよ」
「じゃあ、出ましょうか。ここのお支払いは……」
「泊まりの代金は前払いで払ってますよ。……凛さんが」
「あら……」
少し考えるようにして、思い出したのかゆっくりとうなづいた。
「飲み物代は? 」
テーブルの上にはビールの缶が二つと、ゴミ箱にはそれ以外にもビールの缶が数個捨てられていた。
昨日、部屋に入ってから一緒に飲んだのだけれど、もしかしたらこれのせいで記憶が曖昧になってしまったんだろうか? ここに入った記憶はあるようだったけど。
「ほら、タブレットで注文して帰りに支払いなんですよ」
「ああ……」
枕元の備え付けのタブレットを指差すと、手に取って見ている。無表情だけれど、興味があるのだろうか?
「もしかして……初めてですか?ラブホテル」
「……」
「ああ……まあ、実家じゃなきゃこんなとこ使いませんよね。凛さんは独り暮らしでしたもんね」
「そうね」
「今までの彼氏とかと来たいねとかなりませんでした? ほら、たまには趣向をかえてじゃないけど」
凛は黙りで答えなかった。
ちょっと下ネタだったかな?
もしかして、不愉快にさせてしまっただろうか?
不安になりつつ凛の表情を伺ったけれど、特に表情の揺らぎは見つけられなかった。
「……彼氏……いたことないからわからないわ」
「は? 」
「お付き合いした男性がいたことがないの。だから、趣向のかえようがないわね」
「ええッッ?! 」
この美貌とスタイルで、何を言ってくれてるんだろう? そんなの信じられる訳ないのに!
不変の天音スマイルが初めて崩壊する。それくらい衝撃的な発言だった。「えっ? マジ? いや、ウソでしょ? 」と繰り返す僕を見て、凛が初めて口角をわずかに上げた。
微笑み……と呼ぶにはあまりに微かな変化だったけれど、凛の笑顔に違いなかった。
「ご飯……食べに行くんじゃなかったの? 」
「あ……はい、そうですそうでした」
凛さんの微微微笑、初めて見ちゃったよ。
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