5
城に戻ったアリシアは、リビングでのんびりとお茶を飲んでいるジョシュアの姿を見つけて目を丸くした。
「ストラウス騎士団長代理、いらしてましたの?」
ジョシュア・ストラウスは顔をあげると、少し嫌そうに眉を寄せた。
「やあ、アリシア嬢、久しぶり。それで、そのストラウス騎士団長代理って呼び方いい加減やめてくれない?」
「ではなんと?」
「ジョシュアでいいよ」
「はあ。では、ジョシュア様、どうしてこちらへ?」
「国王のお使い」
ジョシュアは端的に答えると、茶請けのマドレーヌに手を伸ばす。
アリシアはジョシュアの真向かいに腰かける。
使用人がアリシアのために紅茶を煎れてくれるのを待って、口を開いた。
「陛下のお使いって……、何か、ありましたの?」
「うん。あったといえばあったかな。おかげでフリーデリックはすごい不機嫌。そのせいで僕は執務室を追い出されちゃってねぇ。まったく、あの王様は次から次へと、人をひっかきまわすのが好きだこと」
いやになるよねぇ、とのんびりと言いながら、ジョシュアは二個目のマドレーヌに手を伸ばす。
そののほほんとしたジョシュアの様子に、大ごとではなさそうだとホッとしながらも、国王のお使いというのが気になって仕方がないアリシアだ。
「それで、陛下はなんて?」
「んー? うーん……、そうだねぇ」
「ジョシュア様?」
歯切れの悪いジョシュアに、アリシアが首を傾げると、ジョシュアは面倒そうに髪をかきむしった。
「あーもうさー、いろいろ面倒くさいから、さっさと子供作っちゃえば?」
「え……?」
唐突すぎて何を言われたのかわからなかったアリシアは目をパチパチと#瞬__しばたた__#き、
「――はい!?」
次に素っ頓狂な声をあげてソファから立ち上がった。
ジョシュアは飄々と、
「だからさー、子供。子供いれば、あの人もひっかきまわす気なんて起きないでしょ。結婚式まで三か月だし、誰も文句なんて言わないでしょ。さっさと一人くらい作っときなよ」
「………」
アリシアはただただポカンと口をあけて、ジョシュアを見下ろした。
「子供嫌いじゃないでしょ? じゃあさっさと産んどきなよ」
「えっと……」
セクハラ――、という概念はこの世界に存在しないから、アリシアはどう返したものかと頭を抱える。
(どうしていきなり子供? そりゃ、子供はほしいけど、でもどうして今? というか今すぐ? 子供って――)
イロイロ想像してしまったアリシアは、みるみるうちに顔を赤く染め上げた。
フリーデリックとはまだ手をつないで庭を歩くだけの関係だ。キスすらしていないのにいきなり子供とか言わないでほしい。確かに三か月後に結婚するが、三か月後に考えたって言いはずだ。
アリシアが答えあぐねていると、ジョシュアが「はー」とため息をつく。
「これ以上面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁してほしいんだよね。さっさと子供作ってくれたらさ、『子供できたんで』って言って城に戻れるのにさぁ」
「――ですから、どうしていきなり、子供……?」
「馬鹿な国王がまた馬鹿なことを言いはじめたから」
仮にも自分の主人たる国王を「馬鹿」呼ばわりするジョシュアに、アリシアは言葉もない。
ジョシュアは、三個目のマドレーヌを口に入れて、
「ま、細かいことはフリーデリックに聞きなよ。僕は子供を作って解決するに一票だけどね」
茫然とするアリシアを見上げて、薄く笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます