第14話 共和国

 それから数日後。

 ひどい船酔いで俺はぐったりしていた。放浪者はいろいろとんでもない能力をもっているが、どうやらクローズドなどで実装されてなかった耐性についてはからっきしのようだ。

「あさってにはつくそうよ」

 暑さに薄着になったイトスギが水をもってきてくれる。といっても俺が魔法で結露させた水で、それが船賃でもあるのだが。

「船長のやつが塩が大分たまったとほくほく顔よ」

 まあ、海水を分離するのが簡単なので副産物の塩ができるわけだ。捨てようとしたら残りの船賃はこれでいいと言いだした。水を作る量が急に増えもした。マストに上ったクレイが帆のメンテナンスをやってるがあれも船賃の一部らしい。イトスギは風を魔法で操ってこれまた船賃。思うにいまこの船はいつもより飲み水の分多く荷物を積み込み、船員の数を少しだけ減らし、目的地の共和国首都についたときにはさらに販売可能な塩も樽にいくつも用意できているという儲け物の航海をしていることになる。

 で、なぜ俺たちがこんなとこにいるかというと、つまりあの日俺たちは北方へむかう馬車にはのらなかったのだ。フードマントで顔をかくし、荷台に目立たないようにのっていったのはクレイが作った軽自動車ゴーレム。ウラニアを作る時につかった材料のあまりで作ったものだ。主はアシハヤに設定してあるので、北方一人旅の不安も少ない。このことは土壇場まで知らされていなかったので、俺は本気で準備をすすめていた。

 一計案じたのはイトスギらしい。彼女は別のルートを考えていたものの、宰相の手のものが俺を監視していることを想定して、つまり俺に本気で囮の準備をさせてたようだ。

「さすがにひどいと思わないか」

「うん、ひどいよね」

「クレイはよく同意したな」

「そこで土下座してるじゃない」

 わかったときの会話だ。馬車を倉庫から出発させると、俺たちは残った大きな木箱に隠れて半日様子をみた。気配を殺した男たちが忍び込んで見て回ったのもわかった。面子はかわったがそんなのが三つくらい入れ替わりで来たとのにはおどろきあきれた。見張っていたのは宰相だけじゃないらしい。木箱をあけてみた連中もいる。実のところ、隠れた木箱は床に埋めたもので上の木箱をあけてもごみの類が簡単に整頓されておかれているだけである。そして昼過ぎ、迎えの者の案内でこの船に向かい、そのまま出航した。迎えにきてくれたのはハヤウオだったので、伯爵家も非公式にかんでいたらしい。

 目指すのは共和国首都の大図書館。本の迷宮だ。帝都のそれと同じで、おいそれと入れそうにないと思うのだが共和国のそれは違うらしい。迷宮探索など帝国も王国も禁止状態であるが、共和国では自己責任で入場料を払えば誰でも入れるらしい。といっても迷宮内国境線には近づけない。二層は迷い込むと危険な場所が多い。それでも腕試しや迷宮で得られる知識目当てで潜るものはそれなりにいたそうだ。

「また最下層を抜けます。クレイは初めてかな」

 今でもそうだというのは、共和国を知る一部の者に確認済みだとか。

「ちょっと遠回りだけど、王都の廃屋のどっかにでることができるはずよ」

 そこはそこで危険ではあるのだが。

 そういうわけで、水を作り、塩を樽に集める二時間ほどをのぞいてごろごろする日々が続いている。この間、船酔いでぐったりしているほかに、何もしなかったのかといえばそんなわけはない。

 どうせなら外を見てみたいし、自分があのあと作り上げ、育った上位世界とも接触したい。そのためには今の自分の数理的構造ではおとなしく有象無象でいろと言われるのがオチだ。

 過去の自分はことごとく失敗している。なぜか。手記を分析したものを何度か検算したが、いくつかの箇所で必要なしきい値にいたってないことがわかった。

 それにしても喜劇である。上位世界を生み出した一人が、上位世界に認められないとは。そしてその至らない部分はものすごく簡単に言えば想像力。確かフィールドEと呼ばれる領域で感情的創造性と呼ばれるものが欠けていることになる。この場合の感情は喜怒哀楽ではない。不正確だが簡単な表現で述べれば感情移入。だいたいの下位世界人はこれがないわけではなく、偏りがあってネガティブな結果をもたらすことが多いが、それで切り捨てていいものでない。

 俺の場合、バランスを欠いているというより、バランスを取りすぎて全体のレベルが低すぎるらしい。たぶん、あの宰相の庭番があきれたようにたいていの放浪者はもっと早くに自分が自分と思い込んでいるクラウドマンだと気付くのだろう。

 歴代の俺の中でももっともおそかった可能性はある。手記を注意深く読み返してみると、このときの俺は古書展でもう気付いていたようだ。計算を始めたのもこのときになる。彼にも相棒がいたはずだが、名前以外わからない。

 彼の数式は結論部分で過程は推測まじえて逆算するしかない。しぼりきれない可能性を見て行くと、同じ領域に問題があるがバランスが著しく悪いパターンしかないことに気がついた。今の俺とはそこがずいぶん違う。オリジナルだったころはどうだったか。計算結果はかなりの分量になるので覚えいない。だが、今の俺とも手記の俺とも違っていたような気がする。

 とりあえず、数値を改善するためにいろいろ考えて試しているところだ。イメージトレーニングばかりになるのはしょうがない。そして効果はすぐに出るものではない。ブレークスルーを得ないと変わるまい。

 海の色がかわってきた。北の冷たいくらい色から深い青ではあるが暗さはない色に。気候も温かくなってきた。船員がつり上げる魚も種類がかわって夕餉の主菜も軽やかな白身魚料理が多くなる。

 陸が見えてきた。共和国だ。寡頭制の国で、いくつかの産業、交易の有力都市が送り込む議員の合議制で国策を決める国である。かつては最も強い都市に他の都市が従う戦いの絶えない地域であったそうだが、今はその争いは議事堂の中のゲームとなっているらしい。ナビゲーターの古い情報では今でも交易覇権都市サバエの圧政下にあることになっているが、そのサバエは共和国の生まれた日に陥落と略奪を受け、その宮殿跡に共和国議事堂が建設された。つまり共和国首都である。サバエの市民は今でもその中心であることに満足するほかない。

 黒い軍船がいつのまにか並走している。船長いわく、順調には明日には入港できるので洋上で審査をするのだという。つまり、危険人物、禁輸品、それに疫病を持ち込む心配がないか。

「検査料をふんだくられるんですが、袖の下を受付けないのがまた腹立だしくって」

 船長はぼやいた。いや受け取るなら密輸横行するでしょう。

「気に入ったものがあるといくつかがめられるのもハラがたちまさ」

 ああ、うん。そんなものだよね。だからそれようの酒など積み込んで目立つところにおいておくらしい。

「虹湊の干物を多めにつんだのでそれになるでしょうな」

 安いものじゃなかろうか。

「売ればいい稼ぎになるんですがああハラ立つ」

 強欲な男だ。

 軍船は停戦を命ずる旗をかかげた。大きな旗に七つの星があしらわれ、読めぬが力強い一字が記されている。

「ちくしょう、本物だ」

「本物? 」

「たまに偽物が出るんですよ。そんときゃ最優先で逃げ込んで迷惑料に検査料は免除」

「あの旗は本物か」

「いまいましいことに間違えようがありませんや」

 船長は船員たちに帆を下ろせと大声で怒鳴った。

「旦那は船室でまっててくだせぇ。どうせ船中見て回られるんだ。のんびりしてたほうがいいですぜ」

 そうするよ。

 船室ではイトスギがクレイとなにか細かい作業をやっていた。クレイが作った偵察鳥の修理をやっているらしい。無人島に気になるものがあったので飛ばしたところ、大型の鳥に襲われたのだ。

 無人島には結論として何もなかった。こわされ損である。それでも戻ってきたのだからよいできといえるだろう。

「共和国の役人が検めにくる」

 告げると彼らはそそくさと道具をしまい、クレイは給仕のように素知らぬ顔でたち、イトスギはどこで買ったのか扇を出して椅子で優雅にあおぎだした。

「王国じゃないから、どっかの肖像画見た人いないと思うけど」

 役人はほぼ無遠慮だった。紺色の制服の袖に階級をしめす黄色い線を数本ぬいつけ、甲板、船内での切り合いにむいた短い剣をさげ、ノックの返事も待たずに踏み込んできた。

「失礼する。名前と出身、共和国来訪の目的を教えていただけるかな」

 口ひげをたくわえ、ふんぞり返った役人に、俺はドックタグを見せた。

「トネリコ、放浪者だ。目的は本の迷宮」

「ほぉ」

 役人はドックタグを手にとって棟からさげた手帳ほどの板の上に置いた。

「間違いないですの。放浪者が共和国にくるなど十年ぶりですな」

 彼はそれからイトスギを見た。

「で、そちらの女性は? 」

「イトスギともうします。トネリコの連れですわ」

 なんとも優雅に挨拶する。

「ご出身は? 」

「王国のナナカマドです」

「行ったことがあります。大きな町ですな。連れと申されたが、それではあなたの身分は保証されない。このままでは拘束し、ナナカマドの市民かどうかの確認が終わるまで官費でまかなえる程度の宿で過ごしていただくことになるが」

 イトスギは身分証をもっていなかったはずだ。彼女は厳密にはナナカマドの市民ではない。問い合わせてもそんな市民はいないという回答が来るだろう。その場合、密入国者としてどんな目にあわされるのか。

 といって力づくというのは下の下だ。

「いや、実を言えば」

 ここまで何も考えていない。何かいわなければならない。続く言葉はするっとでてきて言った俺もびっくりした。

「我々は夫婦なのです。これでは身分証明になりませんか」

「ほう、これはこれは」

 役人はおおげさに驚いて見せた。

「この場合はどうでしたかな。ちと規則を確認させてもらいますよ」

 そういってびっしり細かく書かれた手帳を出してめくり始める。イトスギが何やらアイコンタクトを飛ばしてきた。指で丸を作っている。

 ああ、そういうことか。

「どうか、お願いします」

 役人の手を取り、家族で豪華な食事ができるくらいの金額を押し込む。彼は重さで額をさっしたらしい。ふむ、ともったいぶってみせた。

「どうやら問題ないようですな。あ、そちらのゴーレムはあなたの所有物ということで間違いないですな」

 彼は鞄から紙束をだすと何やら書いて三枚わたしてきた。審査済み証、俺とイトスギとクレイの分だ。

「よい旅を」

 金をしまい込みながらちらっと見た役人は上機嫌になった。彼の思うより額が多かったのだろう。

「本当いうと、身分証はあるんだ」

 イトスギがぼそっと言った。そしてごそごそと胸元からペンダントを出した。王国の紋章がはいっている。

「見せればよかったのに」

「内容確かめたらびっくりするわよ」

「どういうことだい? 」

「それ、王族の身分証なの。継承順位三桁の後ろ半分くらい」

「なんでそんなものを」

「本の迷宮に一緒にはいったドリメディアって人がいたでしょう」

 帝国への密使をつとめた神官だったな。帝都の下宿の縁者。手記を渡してくれた男。

「いたね」

「あの人からもらったの。ちゃんと同調済みだった」

「なんで王位継承権があるんだ」

「王家のご先祖の妃、あれが私のオリジナルだから、その子供枠で今の国王から血縁の遠さ数えたみたい。系図が入ってるけど。普通さかのぼっておりていくはずがのぼりっぱなしで最後一つ下りるようになってるの」

 それは見られたらびっくりされるだろうな。

「だから、夫婦っていってかばってくれてありがとう。うれしかった」

「複雑だったんじゃないのか? 君はナナカマドで生まれたときに条件づけられて俺といる。俺をどう思ってるとしても、それは作られた感情だ」

「それは事実だけど、同時にまごうことなき私の気持ちでもあるのよ。違和感、抵抗なかったわけじゃない。けれど、これがそれほど絶対的じゃないってわかったらそんな抵抗なんてただの屁理屈だって気付いたのよ。ま、自分の気持ちに素直になることにしただけ」

「俺は女にもてるような人間じゃないと思うのだけどなぁ」

「でもほっとけないとこがある。よかったら、わたしを世話焼き女房にしてくれない? 」

 それでいいのか?

「いいのよ。愛想つかすまであなたと一緒にいたいだけだから」

「ええとつまり」

「愛想つかしたらお別れよ」

 どこがというわけではないが冷える思いに俺は身をふるわせた。

「ずいぶん変わったな」

「変わることをこばんで必死だった誰かさんを見てきたからね。あなたの最初の希望がかなうなら、それはそれでよかった」

 そう言えば、俺は彼女に自分も同類だと告げたのだろうか。

「驚いた。それにしては動揺してないわね」

 そのことを告げた彼女の反応はこうだった。

「いや、死にたくなったよ。ただ、石の賢者と話をして見たいものができた」

「そっか」

「君はどうだったんだい? 」

「死にたい思いになったから内緒」

 ほら、船が動き出したよ、と彼女ははぐらかした。


 共和国首都は活気ある町だった。入港したとき、港に死体が浮かんでいて港湾労働者や役人たちが淡々と引き上げ、検分の準備をしているくらいに活気がある。ほとんどいきなりスリにであい、その手を軽く払いのける事数回というほどみんな元気だ。

「ハガネに教わった技? 」

「うん、無手格闘の応用。君は狙われないのか」

「わかりやすく魔法の印を出してるからね。死にたくなければ手を出さないと思う」

 そういう手があったか。

 港湾区域を出るとそういう連中はいなくなった。安心して泊まれる宿と、迷宮入りの手続きができる場所については船長から聞いていたのでまずは宿を取ることにする。迷宮入りの手続きは捺印の関係で一日以上かかることはわかっていたし、受付は午前でもう午はまわっていた。

 それに、服もかいかえておきたかった。虹湊は北国で少し着込む必要があるがここは南国で通気性のいい服装のほうが過ごしやすい。行き交う市民も露出は控え気味だがゆったり通気のよさそうな仕立ての服をまとっている。インベントリにあるのは鎧とかなのでものものしくって使えない。

「市場にいくなら、スリ、置き引きに十分注意してくださいね」

 宿はホテル形式で、フロントのどこかの執事のような初老の紳士が注意してくれた。

「ありがとう」

「いえいえ。当方もお客様の支払い能力に影響があるとこまりますから」

 前払いで今はらったとこなんだけどな。

 市場が雑然としてうまそうな匂いとにぎわいに満ちているのはこれまでの町以上だった。ほとんどいつも誰かとぶつかりそうになって危なっかしい。その中からスリの手が時々のびてくるわけで油断もすきもない。しかし、南国らしく何もかも色鮮やかだ。魚売りの売る魚も黒っぽいものばかりだった虹港とちがって鮮やかもの、優雅なものばかり。呼び込みも陽気に歌うように行う。衣服はくたびれていても、女たちは花をさすことを忘れないし、男たちは色鮮やかな布をワンポイントあしらっている。何もかもが目新しい。そして時々スリが近づいてくる。少し多すぎないか。

「ここにゃあ共和国中からいろんな人間が流れてきますからね」

 仕立て屋の店主は朗らかにそう言った。洋上では厳重な検査を受けた気がするのだが。

「共和国人ならどこの都市からでも入れるってことです。わたしも七年前に小さな町から一旗あげにきたんですよ」

 なんでも綿の名産地らしい。そのせいで縫製、仕立ての腕のいい者が多く、抜きん出た店主は思い切って首都に旗揚げにきた次第。

「できあいでもちょっとだけお時間いただければサービスで直しますよ」

 値段はそれなりしたが、イトスギは上等の生地の派手さを押さえたスリーピースを、俺はゆったりした着流しを着た。

「それと、これを」

 小さな布きれを袖につけてくれる。

「これは? 」

「うちの店の客だって目印です。これをつけていればスリはよってきませんよ。今日はね」

 つまり彼らの元締めとつながりがあるってことか。おそらくそういうつながりがなければ危なくってやっていけないのだろう。

 本当にスリがよってこなくなったのでおどろきだ。

 不愉快な売り物もあった。路傍にはこぎれいな服装をきせられた子供たちが椅子に座らされて三人ほど。椅子はもう一つあるがこれはあいていた。よく見ると子供たちの足首には革のベルトが巻き付けられている。ベルトには小さいが錠前がつけられ、細い鎖が椅子と彼らを結びつけていた。

「この子たちは? 」

「流民の子供ですよ。こいつらは帝国東部から逃げてきた親から預かりました。二十年の奉公で前金を渡しております。これをお譲りする相手を探しております。殺すことと不具にすること以外は何をやってもかまいませんよ」

 要するに奴隷ではないか。共和国は奴隷制があるのか。

「ここは自由経済の国です。なんだって売れないものはないし、買えないものはない。こいつらだって二十年たてば自由の身です。旦那がどんな商売やってるにしても、しっかり仕込んで餞別に資金の少しでも援助してやれば感謝はされても恨まれはしません」

 悲惨な奴隷、というのは案外少ないのだという。そういう使い方をする者は共和国では無能とあざ笑われるとか。

 どこまで本当なのやら。値段も軽自動車ゴーレムより少し安い。商人の取り分を考えると親が受け取った金が知れるというものだ。弱みにつけこんだ商売なのは間違いない。

 子供たちは不安そうにこちらを見ている。この人が自分を買うのだろうか、どんな人なのだろうか、そんな探るような目だ。

「行きましょう」

 イトスギにうながされ、俺はそこを離れた。子供たちはがっかりした顔になる。しかしどこか安堵もあるようであった。商人は気にもとめないようである。かなり高スペックのゴーレム、つまりクレイを連れているので客にはならないと踏んでいたようだ。それでも丁寧に応対したあたり、商人としてはやり手なのだろう。

 この町を一言でいうならごった煮、混沌であった。

「疲れたわ」

「おつかれさまです」

 クレイはジャンク屋で拾った戦利品をかかえて上機嫌なようだった。彼には表情などないが、声の調子が違う。

「クレイ、お前は自由とかほしいと思ったことはないか」

「さよう、前の主のもとでは自由でしたし、今のあなたも好きにさせてくれるよい主です。路頭に迷ってまでほしいとは思いませんな」

 お追従までいえる。ゴーレムは意志がないから売買の対象となるのだと仮定するとこいつを保有するのは奴隷を抱えてるのと同じじゃないだろうか。

「もし私めを捨てるのであれば、クロニス様くらいしか頼るところはなく」

 ああ、違う。こいつは俺に保有されてるんじゃない。俺に寄生してるんだ。

「もういい。もしそういう気になったら相談にのるからな」

「心得ました。たぶんそんなことはないと思いますが」

 こいつ。

「今日は早めに休みましょう。明日は朝からお役所ですよ」

 休むところも違っている。クレイはベランダに出て天空に祈りを捧げること。最近はエネルギーだけでなく、ライブラリにもアクセスできるようになったらしく、それでウラニアを組み上げることができた。彼はもう一つコアをもっている。それをどう使うのか、考えているようだ。

 そして俺とイトスギは夫婦となった。もう何年かつれそったようなごく自然な営みだった。

「なんだかおさまるところにやっとおさまった気分だわ」

 ことがすむと、彼女はそういって大きくためいきをついた。

「俺はちょっと微妙な気分だけどね。君を洗脳してこうしたような」

「でも、それはあなたの意志でやったことじゃないでしょ。でも、あなたをこういうかたちで受け入れることにしたのはわたしの意志よ」

 これ以上悩んだら怒るな、と思った。

「ありがとう。思ったより俺もしんどかったようだ。実をいうと楽になった」

 話をかえたところで気になることを思い出した。

「しかし、その、勢いと流れでこうなったが避妊してないわけだが大丈夫だろうか」

「そうね、なっちゃったら旅を続けるのに困るけど、そんときはどこかで数年腰を落ち着けてもいいんじゃないかな。あの古書展とおばあさんはそのままだと思うから」

 産む気なんだ。分子レベルから組み立てられているのだから身体にその機能があれば可能だろう。

 彼女の体は目の前で作られた。生物学的な生成過程を経ていない。そのへんどうだろう。

 少なくとも、表面的にはなんらかわりないように思える。

 この世界の魔法のあり方から考えると、医療機器のかわりをする魔法があってもおかしくない。

 というか、彼女がそういうのを知らないわけがない。

「ちょっと聞くのだけど、この世界の魔法使いはそのへん魔法で制御できるんじゃないかな」

「ある程度はね」

 彼女はそれ以上は言わなかった。そうか、としか言えなかった。

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