悪神の洗礼を受け甦った貧民。その名を――

 その男は生前、自身の恵まれない境遇を憂いながら日々を過ごす貧民だった。

 人が社会を形作る以上生まれた時から格差は始まっている、平等など存在しないという世の理を、幼少期に両親から捨てられかろうじて生きてきた男は早くから知っていた。

 聖職者や孤児院など最初からあてにしてはいなかった。信じられなかったのである。

 アルター神は人智を超えたモノが出た際には人に助け舟を出したが、世界を残酷なもの

と創ったに変わりない。男はそのような存在を敬う人々を蔑んだ。

 そんな男はある日、施しのため集められた献金を教会から盗み、町はずれの森へ逃げたところを同類の輩に刺される。男は絶痛にのたうちながら往生際が悪くも思った。現世でも苦しみ更に煉獄にまで堕ちたくない、至上の楽園に逝きたいと。

 その時、叶わぬ奇跡に縋る男へ誰かが耳元で希望の言葉を囁いた。男は幻聴と思いながらも笑って頷いたのだ。

 錆びついた人生の末、悪神の洗礼を受け蘇った貧民。その名を――

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