遅れてきた少女……?

「ふーい、やっとここまで来たぞぇ」

 一人の少女が荒れ果てた麦畑を横断しながら長い溜息を吐きだした。随分と長い距離を歩いてきたのか、足取りがおぼつかない。幼くも凛々しい顔立ちには幾つもの玉汗を浮かべており、隠せない疲労がにじみ出ていた。

 少女は腰まで伸びた青と白が入り混じる鮮やかな髪をかき上げると、その琥珀色の双眸に小さく映る朽ち果ての街をじっと見つめた。まるで何かを観察するような視線である。

 磁器のように透き通った肌色。その小柄な身体を包んでいるのは、袖が大きく緩やかな裾を持つ独特の形状をした桃色の衣だ。

 神秘的な雰囲気を漂わせた少女は、この世のものとは思えない浮世離れした姿である。

「長かった、実に長かったぞ。やっと追いついたぞぇ勇者ぁ!」

 そして街に向かって思いっきり叫んだ少女は限界がきたのか、身体を支える力を抜ききって大地に身を委ねた。服が汚れようとお構いなしである。

 数刻程空を眺める。先程まで明るかった空は灰色の雲に覆われており、今にも一雨きそうだ。そして今度は寝ころんだまま右手を支えにして、再度街の方向に顔を向けたのだ。

「ふむ、誰かと共にいるが、現地で救出した者だろうか。街からも離れておるようだし、これは一刻も早く合流して情報交換せねばな」

 少女は意味深な言葉を発すると、先までの怠惰感を消す勢いで飛び上がった。

「してもよく生きておった、勇者よ。ここからだ。悪を滅し、この地に必ずや緑の息吹と天下泰平を取り戻そうぞ」

 少女はそう自身にも言い聞かせるように宣言すると、両手を広げて朽ち果ての街まで一直線に走り出したのである。

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