第3話
セツナとは自分が探さなければならないAIの名前そのものだったからだ。
「セツナ? アンタ、セツナっていうのか?」
「えぇそうよ、私はセツナ」
「じゃぁ、アンタはアンドロイドなのか?」
ジーンスの言葉に今度はセツナが驚き目を丸くしてジーンスを見つめ、その後ろでゴトーが大きく笑う。
「セツナがアンドロイドなわけがないだろう。というより、この場所にアンドロイドなど存在するはずがない」
「だが、ここは重要警戒区域で、無数の機械の墓場で、僕はAIの回収に……」
「AIだって? 人工知能のことか。そんなもの、ここに在るわけがないだろう。あるとすればこの外だ」
「外。確かに外にもAIはある。でも僕は確かにここにセツナのAIを探しに来たんだ」
思わず呟いたジーンスが端末を眺めた時、セツナはその端末を見て驚いた。
「その端末は。一体どうして貴方が持っているの?」
「どうしてって、今回の仕事で使えとマダムゼロが」
マダムゼロと聞いてセツナは端末をジーンスから奪うように手にして操作しはじめる。
ジーンスは一体何を始めたのかと驚いていたが、暫くしてセツナは大きなため息をついてジーンスを見つめた。
「ここでは何ですから私の家に行きましょう。ゴトーさんも一緒に来てください。貴方も聞く権利が十分ありますし、ここで帰れと言っても帰らないでしょう?」
「当然だ、来るなと言ってもついていくぞ」
端末を持って行かれたまま、ジーンスは半ば強制的に暫く歩いた先にあるレンガ作りの家に向かう事になる。
鉄の壁の向こうでは見たことのない草原と森。
外から見ても広大でどれくらいの大きさがあるのかわからないほどの鉄の塊だったが、中に入り草原を眺めているとここが鉄で囲まれた世界ではなく、世界のすべてがこの場所のような錯覚を起こしそうになった。
「凄いな、まるでひとつの村か街だ」
「当たり前だ、ここはその昔一都市があった場所で、都市一つ分を囲っているんだからな」
「いや、広さもだけど、様子が。外の世界とはまるで違う」
「隔離された世界でありながら、かつての世界を失いたくないと先代が頑張ってきた結果なのよ」
感心するジーンスの言葉に嬉しそうにセツナが笑顔で答えたが、ジーンスが逃げないようになのか、ゴトーはジーンスの後ろで機嫌悪くぴったりひっつくようにやってきて、セツナの家に入るとドアの鍵をかけた。
セツナは椅子に腰掛けるようにすすめ、そのまま台所へお茶の用意をしにいき、ジーンスはすすめられた場所に腰を下ろす。ゴトーは席につくことはせず、ジーンスの真後ろの壁にもたれかかるようにして腕組をした。
「まるで囚人のような気分だな」
ジーンスの呟きにお茶を持ってきたセツナが少し困ったように笑ったが、ゴトーは気にしてない様子。
「ゴトーは自分がこうすると決めたらそうする人だから気にしないで頂戴」
「まぁ、構わないよ。それで、僕の端末はいつ返してくれるんだ? あれが無いと僕は帰れないし、何よりマダムゼロに何を言われるか」
「マダムゼロというのは、クーロンゼロのことね」
「そう、クーロンゼロ、通称マダムゼロ。彼女は僕の雇い主で、その端末の持ち主」
「いいえ、この端末の持ち主は私よ。正確には私のご先祖様のものよ」
「え?」
懐かしそうに端末を撫でるセツナ。
「あいつが関わっているのか?」
「えぇ、そうよ。この端末をクーロンゼロが彼に持たせたということは」
「……なるほど。そりゃ立って聞くべき内容じゃないな」
ジーンスを見張るように立っていたゴトーが席につき、セツナに視線を流した。
セツナは端末を机の上において、ジーンスがマダムゼロに決して触るなと言われたアイコンをタップする。暗証番号を入れる画面になり、セツナは躊躇なくそこに暗証番号を入れ、ロックが解除されるとマダムゼロの立体映像が画面上に現れ話し始めた。
「D-CYTYの方々、そしてセツナ元気? イチタカはもうすでにこの世にはいないでしょうから挨拶はなしね」
立体映像のマダムゼロは片方の唇の端を上げてちょっと偉そうに微笑んだが、すぐに真剣な顔つきになってハスキーな声色が更に低くなる。
「彼は使者であり、解放者よ。世界は貴方達が出てきてもいいほどに回復し、時は満ちたと言ってもいいと思うわ。貴方達の協力もあって、酸素も十分に回復しているし、水も綺麗になった。世界の様子は貴方達が住むのに支障ないほどに変わりつつ在る。でも、この世界の住人達は貴方達が当初思い描いていたものとは違った者達となってきているわ。貴方達にとっての十年が私達にとっては一年という計算になり、小さなことから大きなことまで生活自体が人間ではない、彼らは人として生きているけれど、その実は人とは程遠い生き方なのよ。つまり、約束した時のように貴方達が彼らの中に溶けこむことは難しいと思うわ。だからこれから先どうするかは貴方達が決めればいい。ジーンス、詳しいことはセツナに聞きなさい。その上でどうするかはアンタが決めなさい。私はどっちでも受け入れるよ」
それだけを言うと立体映像はノイズを残して消え去り、ジーンスは一体何がどうなっているのかと呆然とする。
「コイツは本当に何も知らなかったのか」
「そうみたいね、クーロンゼロも意地悪だわ」
セツナはため息混じりに微笑んで、呆然とするジーンスの瞳を見つめて優しく、聞きたいことがあれば何でも答えると言い、ジーンスは大きく深呼吸した後口を開いた。
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