1-14 二人

『先日千羽市の輸入雑貨販売店で発生した強盗事件の容疑者として、四人の男が逮捕されました。

四人は輸入雑貨店の店員とその知り合いで、強盗に見せかけて金品を盗難した疑いがかかっています。警察は、窃盗、器物損壊、傷害、違法薬物所持の罪で四人の取り調べを行っています』

 何気なくつけたテレビから流れたそのニュースを、俺はマグカップを傾ける手を止めること無く眺めていた。

 結局全員捕まったのか、と他人事のように受け止めている自分に気がついて、微妙な居心地の悪さを感じながらマグカップを置く。鮮烈だったあの一日は、すっかり日常生活に塗りつぶされてしまっている。

 身支度を整え、代わり映えのない私服に着替える。今日は久しぶりに、一日中外出する予定だ。

 コンコンコン、と前にも聞いたノック音が響く。今度はチェーンをつけずに開けると、そこには予想通り山瀬が立ってた。引っ越しの時と同じく、ややラフな(山瀬比)服装をしている。

「おはようカラス」

「……顔合わせるの一週間ぶりか?」

「確かに。案外生活時間被らないよね」

 五時スタート夕方終わりの俺と、何時からかは知らないが二十三時頃になってようやく帰ってくる山瀬。互いが家を出入りする時間が全く被らない。

「それじゃ行くか」

「ん」

 靴をつっかけて、戸締まりを確認する。

「そういえばニュース見たか。円藤も加藤も腰巾着も全員まとめて逮捕されたって」

「そうなんだ」

「興味なさそうだな」

 態度で丸わかりだ。

「……結局わかってねーけどさ。あいつらさ。普通に輸入雑貨店やって、ヤバいけど違法じゃない薬を売ってるだけなら平和だったのに、なんであんな事したんだろうな」

「ああ、それは簡単。全員そろって勘違いしたからだよ」

「勘違い?」

「そう。自分達はこんなにグレーゾーンを泳ぎ慣れてるんだから、もっと深く、もっと危険だけれども利益の出るところまで潜れるはずだ、ってね」

 俺は、数年前のあの日の、怪しい輸送バイトのことを思い出していた。もし、あの仕事がなんの危険も無く終わっていたら。もし、金が必要になった時にそのバイトのことを思い出したら。「一回きりだ」と言った舌の根が乾かないうちに、「あと一回くらいなら」と言って頼みを引き受けていたのではないだろうか。

「……まあ、わからなくもねーかな」

「何も生き急がなくてもいいのにね。……半グレの末路はグレーゾーンの埋め立てに追いつかれるか、自滅するかなんだから」

「……どう考えても俺が上手くやっていける世界じゃないな」

 早々と自滅して、寧ろ大正解だ。

「今日はどのあたりまで?」

「長井町だな。……そういえばお前、免許持ってんのか」

「持ってないし見ての通り車もないよ。カラスは?」

「俺もだ。軽トラ借りて今日中に持って帰るのは無理だな……」

「えっもう一日手伝ってくれるの?」

「設置くらい自分でやれ張っ倒すぞ」

 軽口を叩き合いながら、俺と山瀬は連れ立ってバス停へと向かっていく。

 角を曲がって大通りに出たその時、ギターケースを背負った尾花と鉢合わせした。随分と眠そうだ。

「……なるほど、この時間に帰ってくるからゴミを出せねーわけか」

「んだよ、そんなの俺の勝手だろ」

 尾花の眠そうな目が、俺ら二人が連れ立っている姿を見て怪訝そうに歪む。

「……というかお前ら、何があったんだよ。いつの間にそんなに仲良くなったわけ?」

 俺と山瀬は顔を見合わせて、そして正面に向き直った。

「そりゃもう大親友だよ」

「誰がだ」

 山瀬は笑って。俺は仏頂面で、そう言った。

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