第4話 邂逅2
邂逅2
総檜で造られた浴室。
先代から使用されてきた湯船は年季を感じさせ、目一杯に張られた
呆けた様子で体の隅々迄ボディータオルで体の汚れや心の汚れを擦り落とすように力を込めた。
全身に付着した泡を取り除くように蛇口を回し、シャワーヘッドから出る少し高めの温度に設定された熱湯を頭から足先まで浴びながら、今日の出来事も水に流してしまいたいと願った。
そっと足先から首まで浸かり蒸気で曇る天井に視線を移し瞼を綴じると脳裏で再生される雅の言葉
「善悪の区別も無く生命を奪う行為の方が絶対悪だ」
真っ直ぐと刮目する揺るぎない強固な瞳
妖でも分かり合えると信じて身を挺した雅の姿が心を揺さぶり、動揺させた。
正義の為と幾度も振るった刃で生命を絶やし汚れていく自分の姿は、酷く濁っており悪だと思い命乞いする妖の生に縋る様が脳裏に過り自分の行いが本当に正しいのか分からなくなった。
狼狽する胸部で高鳴る鼓動。迷う梓の心で眠る倶利伽羅は呼応するように梓の心に先代の巫女達の感情によって循環されていき、徐々に梓の精神を穏やかに緩和されてゆく。
巫女を精神を保つ為に組まれた倶利伽羅の沈静化作用で冷静さを取り戻し揺るいだ覚悟を取り戻して、湯船から身を取り出して、再度シャワーの熱湯で汗を洗い流し元の位置へシャワーを戻し、浴室の写鏡に投影された自身の肉体をまじまじと凝視する
骨格は一般的な女性と何の遜色もなく見方によってはか弱く写るのかもしれない透明感のある素肌に締まったモデルのような印象を与える肉体。
鏡に映る自分に向けて言いかせるように
「善も悪も関係なんてない、わたしは一匹残らず斬る」
浴室に反響して消える言葉は雅の思いを断ち切るものであった。
大きく息を吐き出しながら口にする
室内に篭る唸り声は寝具の上で逢魔が時に邂逅を果たした妖である座敷童との出来事が雅を悩ませた。妖でありながら、人との共存を願うモノは雅の心を動かし、刃を抜いた梓に向けて言い放った言葉と行動が心を縛る。
行動自体は間違っていたと等思わない
しかし、事情も知らないのに勝手な事を言い過ぎたと反省し謝罪の言葉を述べて頭を下げた
刃を向けたことを梓も謝罪の言葉を交わし何故かお互い変な感じ空気になり互いに笑いを零す
そんな、別れ際に微笑みを溢す梓の表情の奥底が濁っていたのを雅は見逃す訳もなく、初めて見る表情に透明な記憶で出逢った桔梗の途切れながも必死に残そうとした言葉を思い出し理解する
その言葉の真意は『心を縛る真鶴の想い』
生まれながらに戦う事を運命づけられ、次の世代へと紡がれていく憎悪。巫女の血統が梓の心を縛り付け『善』すらも悪と捉えてしまう思考になっていることを。
「余計な事を考えすぎて寝れねーや」
寝具から飛び降り、キッチンに置かれた冷蔵庫に開けた瞬間放たれた冷気と共に飲み物が空っぽである事を忘れていた。
4月半ばにも拘らず蒸し暑くじっとしているだけでも汗を掻き、喉は餓え枯れ水分を求めている。水道水を飲むのも癪なので自室の机の上に置かれた財布を手に取り、玄関を出て往復五分程度の距離のコンビニまでの道のりを辿る
勉強用のカフェオレ2つに牛乳と2Lのミネララルウォーター2つを持ちながら来た道を戻っているが、息と様子が違う。
眼前よりも先まで続く一本道がまるで歪み時空が違っているとでも言うほどの違和感を感じる。
静寂に包まれた夜道に灯された輝きを放つ街頭は明滅を激しく繰り返し、その陰から2つの人影が現れた。
1人は以前出会った事のある恐ろしく美しい着物を羽織った妖は此方に向けひらひらと手掌を振る
薄い蜜の色合いをした頭髪に加えて、深緑の瞳は宝石と遜色のないほど美しく残光が闇夜を照らし、胡散臭い笑顔を振りまいているが、明らかに抑えている中から漏れ出す殺気が自分に向けられているモノだと雅は直ぐに理解した。
「会いたかったわ」
愛おしそうに顔で雅を視姦する変質者の如き視線で眺める蔦の姿。雅にとっては恐怖でならない。以前、赤子の手でも捻るように容易く心臓を手刀で一突し、生命を奪った相手なのだから。
この恐怖感と心の拒絶反応は間違いなく正しいものだと雅は自分に言い聞かせながら、言葉を吐いた
「俺はちっとも会いたくなかったよ」
梓の居ないタイミングでよりにもよって、出逢ってはいけないラスボスと出逢ってしまい非常に。非情で。心中穏やかではない。
恐怖と対応策を脳内で練る雅を他所に蔦は只々愛おしそうに眺め、何をしたら楽しい反応を示すのかを考える。
「
「よしなさい金蘭錦。」
諭す口調で告げられ、妖はすぐさま無礼を詫びるように雅に一度頭を下げて胡散臭い笑みを浮かべるが駄々漏れの殺気に。隠すならもっと上手く隠せと心の中で吐き捨てた。言葉にしたら殺されるのが目に見えて分かったからだ。
「お前が真鶴が言ってたもう1人の妖だろ。2人揃って俺を殺しにでも来たのか?」
雅は買い物袋を地面に置いて、走って逃げれる準備といつでも戦闘できるよう構えた。
今までかつて戦闘などしたことも無い素人が構えても怖さなど微塵もないだろう。
「今回はただお話をする為に来たのよ。今度は
やや視線を下にさげる蔦の言葉の意味も視線の先に映るものも即時理解出来たことをひたすらに後悔した。
「随分俺のことを好いてるんだな。とても光栄かもしれないが、生憎な話し生命を奪われてトラウマを植え付けた相手を好きになるほど俺も変わり者じゃないぜ。あと、童貞は好きな女に捧げるって決めてるからお断りだ。」
「あら初めてなのね。余計に欲しくなったわ。逢魔は桔梗の小便臭い雌〇〇〇に欲情する癖に私の体には一切欲情しなかったのよ。雅、貴方はどうかしら」
見事とんでもない藪蛇だった。
アナコンダに全身巻き付かれた気分とはこの事だな。
「こないだよりも良く回る舌だな。言われた事ないのか喋ると残念って。」
「言われた事ないわよ?残念なんて言った奴の首を瞬時に撥ねて殺すもの。」
声音でわかった今の言質は間違いなく過去に行った事がある。
素人の不格好に身構えた姿で煽る雅ですら愛おしく見えて仕方がない蔦は恍惚な表情を浮かべてながら手招きをしていたが雅は決して動かない。否、恐怖で動けない。
蔦は一歩踏み込めば、踏み込んだ一歩で、簡単に目の前まで到達する縮地が出来るが必死に我慢した。
向こうから此方に来なければ意味がなく──
「感覚なんて憶えてないけど生命を奪われてそんな犬でも呼ぶように手招きされても。はい、何でしょう?なんてならないぞ。」
「あの時はごめんなさい。思わず殺してしまったことは謝るわ、不本意だけれど烈火の神器には感謝しているのよ。雅に再度生命を吹き込んでくれたことをね。」
なら、最初から殺すなよと思ったが口には出さなかった。勿論殺される可能性を危惧しての事でトラウマを引きずっている訳ではなく、あくまで警戒してのこと。
微笑みを絶やさない蔦の表情から笑みはスッと消え今度は真面目な声音で吐かれた。
「神器の使い方教える代わりに此方側に来なさい」
「はへ?」
素っ頓狂な声と豆鉄砲を喰らった顔をした雅の
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