過去回想


眠りについた冬馬とルナシーたちのそれぞれの過去回想である。

その当時、まだ7歳の冬馬には5歳年上の春馬というお兄ちゃんがいて物凄く仲がいい兄弟だった。

おじいちゃん、おばあちゃんに同じように愛され育てられた2人はある出来事を境にお兄ちゃんが一方的に避けるようになった。

それは冬馬に紅月家の文献や伝承などに書かれていた能力がある事や陰陽師としての素質がある事が分かったことと文科省推薦で陰陽寮に入ることが決まり、十二天将の騰蛇候補にあがるまでになったことなどでお兄ちゃんとしてのプライドはズタズタになった事だった。


「冬馬ちゃんはもう7歳になったのー? 大きくなったわねー」

分家で叔母さんの赤橋優花はお母さんの百合子と話していた。


「そうなのー でも、まだまだ甘えん坊のところはあるけどね。」


「うちの所の将太なんておおちゃくいから大変よ。|麻琉(まひる)は逆に大人しくて心配なのよ。」


「うちも心配事があって…」


「どうしたの?」


「実はね…春馬が引きこもってしまったのよ…」


「えっ!? あんな明るく元気な子が?」


「うん、冬馬が陰陽師としての素質が分かったり、陰陽寮に入ることが決まったりしてからあの子めちゃくちゃ落ち込んじゃったって…」


「それは…何とも言えないね。」


「ただ、唯一の救いなのは冬馬

冬馬はまだお兄ちゃんについて回ってるのよね。」


「そうなのね。まぁ、今日はお祝いだから来るでしょ。さて、まわししていこうかしら。」

親戚はお祝いの準備を始めた。

その頃、子供たちは家の中を走り回っていた。


「お兄ちゃんー お兄ちゃんー どこにいるのー?」

お兄ちゃんである春馬を探して家中を探す冬馬

一方、春馬は地下室に引きこもっていたため冬馬の声は聞こえなかった。


「冬馬くーん」

手を振りながら走ってこちらに向かってくる麻琉の姿が見えた。


「走ると危ないよ。」


「大丈夫ー 冬馬くん遊ぼー」


「分かったよー。今行くねー」

麻琉と冬馬は近くの公園で遊びに行き、将太もその後を追って遊び行ってしまった。

夕方になって帰ってきた3人は色々な料理が食卓に並んでいた。


「やったー 美味しそうな料理があるねー」


「ねー 将太 手を洗うぞー」


「おう 分かったー」

3人ともおかってに行き、手を洗って自分たちの席に座って待っていた。

その頃、地下室にいた春馬も地下室からご飯を食べに上がってきた。


「おー 春馬 元気か?」

赤橋優花の夫で叔父さんの弘樹が声を掛けてきた。


「えぇ 少し風邪気味で寝込んでいました。」


「そうか。あんまり無理をするなよ。」


「はい、ありがとうございます。」

早々と会話を終わらせ、おかってへと向かっていった。


「春馬から邪気を感じた…まさかな…」

弘樹の予感は後に当たることになる。

さて、食卓では陰陽寮に入る冬馬のお祝いが始まり、大好物のハンバーグやエビフライなどをたくさん食べていた。

扉が開く音が聞こえて、遅れてきたおじいちゃんとお父さんが入って来た。


「ただいま」


「おかえりなさい。」


「元気良く食べてて嬉しいねー。」


「お父さんたちも食べますか? それともお酒を飲みますか?」


「うーん、先にご飯食べようかな。」


「分かりました。用意しておくので着替えてきて下さい。」


「分かった。そういえば春馬は?」


「春馬ならさっきご飯を貰いに来てそのまま地下室にこもりましたよ。」


「そうか… 」


「まだ気にしてるんだな。私たちは陰陽師になることを強制するつもりはないんだがな…」

お祝いは夜の20時を過ぎ叔父さんたちはいい感じ酔っ払っていた。

そんな頃におじいちゃんから発表があった。


「そうだ。みんなに言わないといけないことがあったんだ。」


「なにー?」


「それは…… 冬馬が十二天将第一位の騰蛇になることが決まった。」


「騰蛇ってなにー?」


「凄いわねー 冬馬くん」


「騰蛇はどうやって決まったんですか?」


「あぁ、それは冬馬が持つ能力と文科省で行われた能力試験の際の成績、紅月家の歴史などなどが考慮されたそうだ。」


「流石ね。うちの子とは違って能力が国からのお墨付きなんて」

そんなほのぼのとした会話が続くと思っていた。

大声で話していたため、地下室にいた春馬にも会話が聞こえていたんだろうか…

突然、ふすまがバーンっと開いた。

怖い目をしてるお兄ちゃんがそこにいて何かをブツブツ呟いてる。

幼い僕らにとっては恐怖以外のなにものでもなかった。


「春馬… まさか… 悪鬼化したのか…?」


「コロス コロス コロス コロス オレノホウガ オレノホウガァァァァ」

悪鬼化した春馬はお父さんに飛びかかったが、寸前のところで叔父さんが護符を使って弾き返した。


「グァァァァ 」

弾き返された衝撃波で灯篭に手が突き刺さってしまったが、血も一切出ていなくてすぐに傷跡が再生してしまった。


「どうしてお兄ちゃんは悪鬼化してしまったの?」


「恨みや妬みが募ると邪神が取り憑く。すると徐々に邪気に当てられていってしまい何かのきっかけで悪鬼化してしまうんだ。」


「多分、お兄ちゃんとしてのプレッシャーやプライド、嫉妬などが入り乱れ邪神に取り憑かれて閉まったんだろう。現に暗い地下室にこもっていたのはそれが原因だろう。」


「どうすればお兄ちゃんは元に戻るの?」


「一度悪鬼化した人間は元の人間には戻れなくなる。祓えば悪鬼化した人間は地獄に落ちてしまう。」


「そうなんだ… せめて、お父さんたちに祓わせてあげようよ。」


「そうだな…」

叔父さんたちはアシストをしながら悪鬼化したお兄ちゃんと戦った。


「紅月流陰陽術 聖光龍波せいこうりゅうは

聖なる光で邪気を祓い、悪鬼の能力を弱めることが出来る。

もろに直撃するとそのまま祓ってしまうこともある。


「ソンナコウゲキデオレニカテルカァァァ!」


「そうか… 情けをかけてはいけないもんな… ちゃんと祓わないと… 紅月流陰陽術 煉炎槍(れんえんそう

紅月流陰陽術の中でも威力が高い陰陽術で、悪鬼の身動きを封じれんごくれんごくの炎に焼かれた槍が徐々に貫いていく。


「グァァァァァァァァァァ イタイヨ… タスケテ… オトウサン…」


「それは出来ない… 許してくれ…」

涙をぽろぽろっと零しながら、トドメを刺す。


「紅月流陰陽術 八咫烏やたがらす

悪鬼よりも遥かに大きいカラスが現れて食べられた悪鬼は、お腹の中で邪気がどんどんと吸収されて最後には地獄に送られてしまう。


「グァァァァ… ハァハァハァハァ…

ゴメン…ネ… コンナフガイナイオニイチャンデ…」

この言葉がお兄ちゃんの最後の言葉となった。

お兄ちゃんは大きなカラスに連れられて地面の下に消えていった。

最後の言葉が本音だったとしたら、僕は迷わず言うだろう…全然、不甲斐なくない自慢のお兄ちゃんだと…


「お父さん、お疲れ様でした。」

お母さんが呼びに近づくとお父さんはその場で倒れ、病院に運ばれたがまもなく息を引き取った。

死因は脳梗塞だったそうです。

幼い僕らはいつの間にか疲れて寝てしまい、お父さんが亡くなったことや大人たちがバタバタしていたことも知らなかった。

後にこの事を聞かされた僕はお母さんの胸で泣きじゃくったことを思い出す夢だ。

僕を呼ぶ声が聞こえる。


「冬馬くん 起きてー」

肩を揺さぶられて起きた。


「ん? どうしたー? 麻琉か?」


「おはよう。やっと起きたね。この子たちは誰?」

麻琉にくっついているルナシーたちが見えた。


「その子たちは保護した仙狐だよ。」


「まじー? こんな人懐っこい仙狐いる?」


「一応、仙狐として保護したし、この子たちから感じる呪力は割と強かったから悪鬼を呼び寄せるからもしれないからね。」


「そうなんだ。この子たちずーっとくっついてくるんだけど」


「しょうがないよ。まだ子供なんだから」


「とうまー お腹空いたー。」


「分かったよ。ご飯作ろうか。」


「はーい。」

(完全に親子だー)

そう思う麻琉であった。

次回、奨学生

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