#1.5
#1.5
目を開けると私は「鏡の世界」にいた。そこは前来た時と同じように青空の中だった。目の前の女、セキュアは笑って言った。
「やっぱり来た。」
「まあね。」
「で、どう?違う世界は。」
「どういう状況に置かれているのか把握するのに時間がかかるね。」
嫌味のように私は言った。
「なに?不満?まあ、それくらいならなんとかするけどさ。」
私の周りをたくさんの鏡が囲んだ。たくさんの“私”が私をみている。
「ここに来たってことは違う世界に行きたいってことでしょ。さあ、どれにする?」
「どれって言われても今ここでどういう世界に行けるかなんてわからないじゃない。」
「まあ、どれも映っているのはあなただからね。」
私は右手を前に出してそこにあった鏡に触れた。氷のように冷たい鏡に指先から吸い込まれていく。
鏡の中はひんやりとしていた。青と紺と紫をパレットの上でぐちゃぐちゃに混ぜたような色の中を歩いた。一歩、また一歩と歩くたびに頭の中に声が響く。
『星奈って好きな人いる?』
『私好きな人出来たんだ。』
詩乃の声。
「なんとかするってこういうことか。」
セキュアの言っていたことがわかった。
『星奈、ちょっといい?詩乃ってさ……、好きな人、とか、いるのかな?』
徹の声。え、徹は詩乃が好きなの?
『やっぱりわかんないかー。』
『詩乃のことが、好き、なのかな。うーん、わかんない。』
『やっぱり俺、詩乃が好きみたいでさ。』
頭の中にどんどん声が溢れてくる。
『私、徹が好きっぽい。』
『徹と買い物行ってきたの!』
『で、でえと……。そんなんじゃないってば!』
『詩乃とデートっぽいこと出来たんだー。』
『詩乃が好きなものとかわかる?ほら、もうすぐ詩乃、誕生日だろ。プレゼント、とか、したいなって。』
『私に告白とか無理だって。ほんと無理、無理。』
『詩乃ってさ、頼って欲しくなるし、支えていたい。詩乃のことばっかり考えている。』
『徹は、私のこと、多分恋愛的になんて見てないよ。仲いい友達とかって思っているんじゃない?』
『それでも詩乃は俺のこと好きなんかじゃないかもしれないから……。』
両片思い。そんな言葉が浮かんできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます