第5話 俺は彼女のために今日も働く

佳奈からお揃いのプレゼントを貰った。

イルカの形をしたキーホルダーだ。

俺は嬉しい気持ちで一杯になりながら、キーホルダーを自分の学生かばんに付けた。


「これでお揃いのものを貰ったのは二回目になるなぁ」


俺はイルカのキーホルダーを眺めながら、あの日のことを思い出していた。


「あれ?蒼生くんじゃん」


すると、正面の方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

前を向くと、そこにはミディアムに整えられたライトブラウンヘアーの

大人っぽい雰囲気を漂わせた美女がいた。


「み、美香さん…………」

「ハロー、こんなところで会うなんて珍しいね」

「そ、そうですね。美香さんは、どうしてここに?」

「ちょっとコンビニでお弁当を買いにね。それにしても蒼生くん、制服姿も似合うわね。今すぐ抱き締めたいくらい可愛いよ」

「はぁ……ありがとうございます…………」


全然嬉しくねぇ…………。

この人はどんな場所でも本当に抱きついてくるから恐ろしいんだよな。

美香さんは、隣にいる佳奈の方に目をやる。


「おや?その子はもしかして、蒼生くんがこの前言ってた…………」

「わー!美香さん、その話はしないでください!」

「あ、ごめんごめん」


佳奈には、俺とこの人の関係を知られたくない。


「それじゃあ美香さん、俺たちはもう行くんで、ここで失礼します」

「あぁ、うん。じゃあまた後でね、蒼生くん。今日もよろしく」

「はい、こちらこそ」


美香さんは手を振って、コンビニのある方へと向かって行った。

まさか、弁当を買いにきた美香さんとばったり会うなんて思いもしなかった。

ん?弁当?弁当…………。


「ねぇアオくん、今の人だっ────」

「あぁあああああ!!!」


俺はあることを思い出し、思わず叫んでしまった。


「ど、どうしたの?」

「教室に弁当箱置いてきちゃった…………」

「えぇ…………」


流石に取りに帰らないとやばいよな。


「すまん佳奈。俺、学校に戻るから先に帰っておいて」

「えっ、ちょっと、待っ────」


俺はすぐに回れ右をし、ダッシュで学校へと戻って行った。




   ♢   ♢   ♢




「いらっしゃいませ。二名様ですね?こちらのお席へどうぞ」


無事に弁当箱を取って帰ることができた日の夜、俺は家から自転車で十分圏内にあるファミレスにいた。

佳奈には言っていないが、俺は高校受験が終わってから、ここでアルバイトをしている。


「葉月くん、休憩入っていいよ」

「あ、はい」


店長にそう言われ、俺は休憩室の扉を開けて入った。


「あ、蒼生くん、お疲れ」


するとそこには、バイトに行く前にも今日顔を合わせた女性がいた。


「お疲れ様です、美香さん」


彼女の名前は美波 みなみ美香 みか

このファミレスでの俺の先輩だ。

美香さんは現在大学二回生で、一年前の春からここの近くで一人暮らしをしているらしい。


「お菓子食べる?昨日、お隣さんから頂いたんだ」

「ありがとうございます。いただきます」


俺は美香さんの向かいの席に座り、彼女からクッキーを貰ってそれを食べる。


「ここで働くのにはもう慣れた?」


荷物からお茶を取り出して飲んでいると、美香さんがそんな質問をしてきた。


「そうですね。でもやっぱりすごい疲れます。働くってこんなにも大変なんですね」

「あはは、そうだね。私なんか家賃払うためにたくさんシフトを入れてるから毎日ヘトヘトだよ」

「すごいですね。俺だったらそんなに働けませんよ」

「蒼生くんもすごいよ。好きな人の誕生日プレゼントを買うためにバイトしてるんだから」


そう。俺がここで働いているのは、佳奈の誕生日プレゼントを買うためだ。

四月二十七日。それが佳奈の誕生日。

ちょうどその日は休日だし、遊園地にでも連れて行って最高に充実した一日を過ごしてほしい。



「せっかく高校生になってバイトできるようになったんだから、自分で稼いだお金であいつに何か買ってやりたいんです」


佳奈のためなら、俺はどんなことでもやってみせる。

これが、俺が考える限りの最高のサプライズなんだ。


「やっぱり蒼生くんは優しい子ね。可愛いからハグしてあげる!」

「ちょっ、美香さん!?」


俺は美香さんに抱き締められ、赤面しながら必死に抵抗するのだった。

相変わらず胸がデカイ…………。


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