第6話 見てしまった私は呆然と立ち尽くす
「ただいま」
アオくんが学校に戻ってしまい、私は仕方なく一人で家に帰ってきた。
洗面場で手を洗い、お母さんとしばらくリビングで会話をしてから自分の部屋に戻る。
「…………宿題でもやろうかな」
私はかばんから数学の問題集とノートを取り出した。
それらを勉強机に広げ、ペンを手に取って問題文を読む。
「えっと…………」
三十分が経過。
「………………」
一時間が経過。
「……………………」
そして、宿題に取り掛かってから一時間半が経過した。
私のノートのページには、問題番号が書かれているだけだった。
「全然集中できない…………」
さっきからアオくんのことについてばかり考えてしまう。
アオくんは確かに言った。お揃いのものを貰ったのは二回目だと。
でも、私は今回のイルカのキーホルダーしかお揃いのものをあげた覚えがない。
となると、考えられることは一つに限られてくる。
アオくんは過去に、私以外の誰かからお揃いのものを貰っている。
「誰に貰ったんだろう…………?」
そして、気になることはもう一つある。
あの美香さんという人は一体誰なんだろう?
お互いに名前で呼び合っていたし、仲はとても良さそうだった。
綺麗な人だった。
美人で、お洒落で、大人っぽくって……む、胸も大きかった。
悔しいけど、私が勝てる要素はどこにもない。
「アオくんに抱き締めたいとか言ってたし、もうなんなのあの人!?」
聞きたい。アオくんにあの人との関係を聞き出したい。
でも、一緒に帰っている時に聞こうとしている途中、アオくんが急に大声を出して遮られてしまった。
私が美香さんという人が誰なのか聞くのをわざと遮られたようにも思えた。
「ますます怪しい…………」
こうなったら確かめるしかない!
私はペンを置いて携帯を手に取り、メールを開いて文字を打っていく。
『帰り道で会った美香っていう人とどういう関係なの?』
そう書き終えたところで、私は全ての文字を消していった。
「これじゃあ、嫉妬深くて面倒臭い彼女みたいになるじゃない!」
こんなメールがいきなり来たら、アオくんに引かれるに決まってる。
「どうやって聞き出そう…………」
そんなことでずっと悩んでいると、本棚に置かれているある一冊の漫画が目に入った。
「あ、そうだ!」
私はその漫画を本棚から取り出す。
アオくんがすごく面白いから読んでみてとしつこいくらいに勧めてきた漫画。
そこまで言うのならと、この前に一巻だけ借りたんだった。
まぁ、私にはあまり合わなくて途中で読むのを止めちゃったんだけど。
これを返しにいくついでに、さり気なく美香さんのことについて聞いてみよう。
そうして私は早速、借りた漫画を持ってアオくんの家に向かった。
到着すると、私は髪が乱れていないかを確認してからインターホンを押す。
すると、出てきたのはアオくんではなく、アオくんのお母さんだった。
「あら、佳奈ちゃん。どうしたの?」
「こんばんわ、おばさん。夜分遅くにすみません。あの、アオくんはいますか?」
「あぁ、ごめんね。蒼生は今、用事があっていないのよ」
「あ、そうなんですね。買い物とかですか?」
「詳しいことはあまり言えないのよ。蒼生に口止めされてるから」
「?」
私はおばさんの発言が少し気になったが、これ以上聞くことはできないので、さらに問うことはしなかった。
「あぁ、分かりました。じゃあすみません、私の代わりにこれをアオくんに返しておいてもらえますか?」
私は小さな紙袋から漫画を取り出して、おばさんに手渡した。
「りょーかい。蒼生に渡しとくわね」
「ありがとうございます。それじゃあ私はこれで失礼します」
私はおばさんにお辞儀をして、背中を向けて歩き出した。
「佳奈ちゃん」
すると、私はおばさんに名前を呼ばれ、歩みを止めて振り向いた
「楽しみにしておいてね」
おばさんは笑顔を浮かべてそんなことを言ったが、私はよく分からず適当に相槌を打ってその場を去った。
それから私は、このまま帰っても宿題に手がつかないと思い、気分転換に散歩をすることにした。
「結局聞けなかったな…………」
いつアオくんに聞けばいいんだろう?このままだとタイミングを失って、これから先もっと聞きづらくなっていってしまう。
そんなことを考えながら歩いていると、私はある二人の人影に目が行った。
「あれって…………」
歩道を並んで歩いていたのは、アオくんと美香さんだった。
夜の道で二人で楽しそうに話をしている。
「うそ…………」
もしかして二人って………………。
でもアオくんはこの前、これから先私以外の女の子に告白されても断ると言っていた。でもでも、私が質問する前からの関係だとしたら、その答えには当てはまらないから納得がいく。
だとしたら、えっ…………私は?
私は呆然と立ち尽くしながら、最悪な考えが一つ頭に浮かんでいた。
アオくんと美香さんは付き合っている?
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