僕は神を恐れない。
何が、大人になろうだ。
何が、嫌いにならないでだ。
何が、愛してるだ。
ふざけるな。
「ぅ・・・・ん」
いけない、起こしてしまう。
蒸かした芋のようにホクホクした二人は、犬の香りを発し始めていた。
ふと、火の元が心配になって、明かりを探すと。
三角柱のろうそくの黒はすでに燃え尽き。白は、半分ほどの長さをいまだに保ち、火は時折小さく猛りながら、音も無く燃えていた。
結局のところ、大変自分勝手な事をしてしまった。
心臓の手術を受けるお金は無いし、たとえ受ける事が出来たとしても、管だらけにされて残された者に悪戯に恐怖を植え付け、ただ死んでいくだけかもしれないと言うのに。
「う・・・・ん」
いけない、起こしてしまう。
先程から感じていた手の平の違和感は、じっとりとかいた手汗から来るもので、そうさせているのは、この瞬間まで確かに繋がれてきた二人の命の炎の残り火かも知れない。
いっその事、死んでしまえばいいのにと。今は、とても考えられずにいた。
先の見えない世界を生きる事は、とても苦しい。
誰かからは、いつも沢山の事を教えられてばかりだ。
ふと、初めて長谷川に出会った時の事を思い出していた。
「田牧さん!中卒の!田牧さんってば!」
あの男の笑顔は、出会った時からずっと変わらない。
「はい」
「田牧さん料理のお仕事してたことあるんですって?」
その質問に、それ以上深追いするようならば、こちらも、それ相応の態度を取らなければならない。
「凄いなぁ!俺もここ来る前蕎麦屋でバイトしてたんですよ!」
振り降ろした手に、花やお金が握られ、それを渡されたような複雑な状況に、悔しくも
この男の手中にはめられ、耳を傾けてしまった。
「はい」
長谷川は、存分に僕を焦らし。その間、次の手を整えているように見えた。
それが終わると、レールの本線に話題が載せられ歪み一つ無く進みだす。
「飲食店って!常連さんとか営業時間全然守らないじゃないですか?」
「はい」
「俺が働いてるとこでも、おじいちゃんなんですけど、営業時間の20分も前に店に来るお客さんがいたんです!」
「はい」
「それで、俺は毎回時間きっちりにバイト入ってたんですけど半年くらいしてそのおじいちゃんが急に、急にですよ!まだ一回も話もしたことないのに」
「はい」
「田牧さん、ほらお茶入れますよ!お菓子もどうぞ!」
とっとと話せ。
「俺に向かって、おおいあんちゃん。あんたいい加減やる気出しておいより早くきたらどうだ?って急に言うんです!俺一回も遅刻してないのに!」
「はい」
「だからね、俺も言ってやったんです」
長谷川は、白い歯を見せ途端に勝ち誇ったにやけずらになった。
「おじいちゃんも。早く死んじゃえばいいのに。って!」
そんな。
そんな、飲食店の店員があるものか馬鹿者。
ああ、でも。
ふふ。
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