残り火
その日の昼ごはんは、焼きそばだった。
使う材料は、恐らく毎回変わる。それは、焼きそばという料理が何を入れても美味しいという、非常に高いポテンシャルを秘めたものだからだ。
野菜と魚肉ソーセージを付属するソース一袋使って炒めたら、その上に麺を乗せ残りのソースと水を少しだけ加える、加えすぎると麺が伸びて千切れやすくなってしまう。
蓋をして、少し蒸し。それから、ピーマンを加えて。麺を切らないように箸で混ぜる。
ピーマンは、初めに炒めると食べるときに色が変わってしまうから一番最後に入れる。火の通りは甘くなるが生でも食べられるし、どうせこの子達は、ピーマンを食べないから問題ない。一貫して、フライパンに焦げ付かせないように作るのがコツだ。
皿に盛り付けて、朝と全く同じ過ちを犯していたことに気が付いた。
でも今日は、1時間勉強をしたのでよしとする。
収穫された、芋のように転がっていただけのくせに二人はよく食べた。
今日は、ピーマンも食べた。残り物が無いと、片付けも洗い物も大変スムーズに済ませる事が出来る。満腹になった二人は、皿を洗っている僕の背後できゃいきゃいと笑った。
テーブルには、僕が先ほど解いていた計算ドリルが開かれていた。
「ねぇねぇ!瑞樹!ここ違うよ!ここも違う!」
「答えはあってるでしょ?」
「それ、ね。カンニングって言うんだよ」
「コウヘイ君みたい!知ってる?コウヘイ君?」
「知らないよ」
可愛そうな、コウヘイ君。顔も知らないがきっと二人によって、良くないイメージで語られてしまうことになるのだろう。そして、僕のように人間にかわいそうだと思われる事もきっと納得いかないはずだ。
「コウヘイ君ッ!ねぇ?風葉!」
「フフ・・・うん。せんせーに見つかってた。膝の下の・・・ククッ・・・!」
「膝の上でしょ!?膝の下ってどうやって見るの?!・・・ヒ・・・ヒヒ・・・!」
学校の事をこの子達の口から聞くのは、初めてだった。
その内容は、あまり褒めたり思い出に残したり出来ないような内容であろうが、紛れもない、この子達が一度は手放してしまった社会生活そのものだった。
「学校、好きだったの?」
二人は、火を消したように静かになって神妙な面持ちになり顔を見合わせた。
「好きだったけど・・・。お父さんとお母さん・・・。いなく。なっちゃって」
風葉が、空子の腕にそっと触れ。それ以上の発言を躊躇わせた。二人は、怯えていた。
両親の事を聞かれることに酷く怯えていた。
「嫌なら、そのまま行かなくても。いいよ」
この時僕はきっと嘘をつくべきだった。しかし、ほんの僅かでも過去の片鱗を正直に教えてくれた二人に対してそれはあまりにも無礼に思えた。
「でも、空子と学校行きたいかも・・・」
顔を見合わせてから、かき消されそうなほど小さな声で風葉が言った。この子達は、僕や、真莉愛とまるで違う、比べるのもおこがましいほど純粋で無知で強いのだ。
「少し、勉強した方がいいのかな?」
それから、夕食の用意を言い訳に辞めるまで3人で計算ドリルを好き勝手に解いた。
夕食を、カレーにするか肉じゃがにするかで悩みながらすっかりパフェを食べそびれてしまった事を思い出す。今日は肉じゃがにしてしまおう。
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