彼は墓を叩く。

ぐりぐりと、ごりごりと、めり込むひじには幸せいっぱい。

「・・・いたくない?」

この世界の中心の、崖っぷち、あごの下のあたりでうーとかあーとかうめくもの

「ぅん・・・大丈夫」

愛しの人にのしかかるしがらみを。

ぐりぐりと、ごりごりと、恨みをこめてり潰す。

「痛くない?」

手始めに、体重をかけてグイっと押して。尺骨しゃっこつを前後にスライドさせます。

「ぁ、うん」

ぐりぐりと、ごりごりと、2匹のカニが歩くみたいに僧帽筋そうぼうきんを搾ります。

「痛くない?」

鎖骨さこつに当たると痛いから、バランスを崩さないための体幹が重要です。

「うぅん」

肘から上腕骨でグーっと押して身体をぴたりと着けたら、ヘブンリーの完成です。

「おっぱい」

ぐりぐりと、めり込むせいで。ただでさえ半分剥がれた魂は押し出されてしまいそう。

「うぅん」

この方法で、私は、この人の深層心理しんそうしんりにアクセスします。今まで反応した言葉は、お金。お母さんお父さんそしてあの女の名前。

「ゆきちゃん」

「ん。宮下さん・・?」

私の居場所は、この人の中には少しも無いのでした。

「・・・」

悲しむのは、疲れます。人を恨むのはもっと疲れてしまいます。

お金とご両親、そして、あの女を大切にする愛しい人。

世の中は、とても理不尽です。あの女よりも私の方が早くこの人に出会っていて、命の恩人でもあるはずなのにこの人が側に置くのは、あの女。

「空子」

「・・・・ぅぅん」

生温い風が心に吹き抜けました。

出かかる言葉を飲み込んで。

ぐりぐりとごりごりと、めり込む肘には幸せいっぱい。


ああ。でも。

「苦しいです。サンタマリア」

私は、薄暮に浮かんだ十日の月を仰ぎ見て今日もただ一人、呟くのでした。

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