長老

 慌ただしさがいまだに燻る中、親方に自動車の運転免許習得のための自動車学校への合宿を言い渡されれる、もうそんな年になってしまったのかと、寂しさと焦りがじわじわと湧いて出てくる。


断ろう。


そう、思ったがどうやら特別な事ではないらしく、僕が来る直前には佑馬もすましていたのだという。旅館が負担するという合宿費用は偶然だろう。部屋から無くなったお金とほとんど同額だった。いつもと同じように不機嫌な顔の親方と、包丁を片手に微笑む佑馬の顔を数度往復したところで、僕は少し小さくなりながら承諾した。




 合宿所には同学年とは思えない若者たちが数十名集まっていた。

皆、若々しくてキラキラしてそれでいてとても下品に見える。

 出来るだけ、目立たぬよう誰からも声を掛けられないようにふるまったが、卒業試験に何度も落第し続け。「長老」と言うあだ名で呼ばれるようになった頃には、どこで聞きつけて来たのか入学したての見ず知らずの者にまで馴れ馴れしく声をかけられるようになっていた。

 結局、卒業試験に7回落ちた後8回目でなんとか合格し、無事に免許を習得することができた。帰りのバスに乗り込んだ時、やはり顔も名前も知らない若者たちが合宿所からぞろぞろ出てきて僕の卒業を大声で祝福してくれた。

僕は、あの者らの幸せを願わずにはいられない。

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