第20,1話 革命の裏

 ヴァル・ド・グラースでの戦いの後、エミールは出来得る限り人目につかぬように瞬間移動を繰り返しクラマール墓地の近くにある教会へと戻ってきた。


「お帰りなさいませ」


 神父がエミールを出迎えるとソフィーが居ないことに気づき何があったか聞いてきたのでエミールは答えた。


「連れ去らわれた。サン=ジェルマンとかいう胡散臭い男にな…」


「サン=ジェルマン……伯爵ですか?」


「知っているなら、何か教えて貰おうか?」


 エミールは伯爵について問いた。そうして得た情報は先のマルロー神父と同じものもあったが少しばかり詳細な部分もあった。


 曰く、彼 サン=ジェルマンが所属する組織イルミナティはユダヤ人の自由と平等の権利を勝ち取るためにルイ16世の いとこルイ・フィリップ2世の放蕩癖につけ入り多額の借金を抱え込ませ返済できない場合はルイ・フィリップ2世の持つ宮殿パレ・ロワイヤルを民衆の為に解放するという契約を結んだという。


 その後イルミナティは解放されたパレ・ロワイヤルを当時の革命勢力の拠点となるように仕向け更に革命勢力に資金提供を行い、思惑通りに革命を成功へと導いたという。


 そこまでの説明を聞いてエミールは疑問に思った「なぜ啓明結社イルミナティそうまでしてユダヤ人の自由を求めるのか」と


 その疑問に神父は答える。


啓明結社イルミナティは創設時にユダヤ人 貸金業者のマイヤー・アムシェル・ロスチャイルドから資金提供を受けていますので、その関係かと」


「なるほど後援者パトロンがユダヤ人だからその同属にも救いの手を差し伸べようということか……

しかし、皮肉なものだフランス人のためのフランス革命は本当はユダヤ人のための革命だったということか…」


 だとしたら、フランス人のため。国の礎のためにと犠牲になった父と母の死は何だったんだろうかと余計に判らなくなる。


 もはや革命から得たものでさえ守る価値すら無いように思えてきた……


 だが…それでも自由・平等・博愛の精神を信じた者に…共和制を支持した父に報いようと考えた。


啓明結社イルミナティ会員の居場所を突きとめて下さい」


 エミールは神父へそう命じた。

 

 彼ら啓明結社イルミナティがマルロー神父が言ったようにユダヤ人強制居住区域の解放を望んでいるのであれば交渉の余地も出てくるかもしれない。そう思ったからだ。



 数日後。神父の調べにより啓明結社イルミナティ会員の一人がボーブール通りに面するカフェ・マンソンジュに出入りしていることを知り、エミールはフード被り日の沈む夜に紛れカフェへと出向いた。


「レイモンド・ブロイだな」


 エミールが相手を見て声を掛けると男は「どちら様ですか?」と尋ね返してきた。


啓明結社イルミナティ会員なんだろう。伯爵からボクのことを聞いていないかい?」


「あーー…ルイ…いやエミールだったかな? なんの御用で?」


「玉座に戻る手伝いをしろ。その見返りにユダヤ人の人権を保障しよう」


 要件を言うと彼は笑った。


「バッカじゃねぇの。そんな要件を飲む理由がない!」


啓明結社イルミナティにも自由。平等。博愛の精神があるのだろう? いまの状況はアンタたちの望むものじゃないんじゃないか?」


「残念! ナポレオンは俺たちの自由をもう約束してる。代わりにヤツが栄華を極めるために支援しなくちゃいけないがな、お前は最初からお呼びじゃないんだよ」


「そうか…」


 エミールは静かにそう呟くとレイモンドの顔を殴りつけ言った。


「なら!報いを受けろ!!」


 エミールはレイモンドの胸倉を掴み再度 殴りつけると近くの人間は離れていき野次馬が騒ぎ出した。


「ケンカか!? いいぞ暇してたんだ! やれ!やれ!」


 煽る者。逃げ出す者。賭けをし始める者。様々な人間が周囲を取り巻く空気を作り出し、それと同時にレイモンドの顔はグチャグチャになっていく。


 彼が「やめてくれ」と叫ぶとエミールは少し手を止めて言った。


「そういえば、さっき良いことを教えてくれたなナポレオンあいつの栄光にはお前たちの支援があると

なら、お前たちを潰せばアイツにも痛手というワケだ。言え、何処だお前たちのアジトは?」


 レイモンドは怖かったのか直ぐに口を開かず今度は怒鳴りつけるようにエミールは言った。


「言えっ!!」


 それと同時に警察が店内へと足を踏み入れてきた。


 それを見るとエミールは舌打ちをしながらレイモンドを放し、店の壁を魔術で破壊すると外へと逃げていった………

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