2章
第17話 敗走
テュイルリー宮と隣接するナポレオン美術館。
そこで皇帝陛下が襲われたという報告がドゥノンへと伝えられた。
「シルヴェスト!見張りはちゃんとしていたのか!?」
ドゥノンは報告に来た50代の白髪頭の男に言った。
「怒鳴るな、情報伝達には誤差はつきものだ。幸い皇帝陛下に大事はなかったのだから良かっただろう」
「あったらクビが飛んでいたところだ…しかし皇帝になった直後で直ぐに裏切るとはな」
「どうする?」
シルヴェストが質問するとドゥノンは笑みを溢し「捕まえてこい」と言うと続けて言った。
「生死は……いや、もう死んでいるか…ともかく捕まえてこい、あれほどデカい
「あくまでコレクション対象か…ルイ17世はつくづく ついてないね」
ドゥノンから指示を受けシルヴェストは背を向け外へと向かっていった。
※
その頃。エミールはテュイルリー宮殿内から脱出しボロボロの体を引きずりながら
最低限動けるようになると人目を避けて逃げることにした。
そうしている内に行き止まりに当たった。
アンパッス・デ・パンドル。2区の袋小路だ。
「くそ…」
エミールは悪態をつくと道を引き返す。
〈どこでもいい…どこか身を隠せる場所…〉
考えながら歩いていると前から一人の男がやってきた。
「
見覚えのある顔にエミールは苛立ちながら相手の名を口にするとネズミがシルヴェストの方に走っていく。
ネズミはシルヴェストの差し出した手の上に乗り鳴き始める。
「よ~しよし、ありがとう案内してくれて」
「ネズミと話せるのかアンタは」
「そんなに驚くことでもないだろ初歩的な魔術だ
やり方は簡単。洗礼者ヨハネの祝日前夜にシダから落ちる種を白い布で受けとめ 手にするだけ、それだけで動物の言葉が解るようになる
勉強になったかいルイ17世どの」
「正体もご存じか、その様子だとアンタがボクを日頃から監視してたんだろうな」
エミールは苦笑いしながら言った。
「察しが良いね。それじゃ逃げ回るのも無駄だって解っただろ?」
その瞬間エミールは瞬間移動し剣を振るう体勢でシルヴェストの横に立つ。
「殺せば済む話だ」
一閃 横切るがシルヴェストも剣を魔術で作り出し受け止める。
そこから返す刃をエミールは防ぐと攻防を繰り返す。
攻撃の最中シルヴェストが後ろに下がるとエミールは追い討ちをかけようと踏み込もうとした。
その時、カラスが横槍を入れてきた。
隙が生じるとシルヴェストから腰の入った一撃が飛んでくる。
痛みはない。それでも体に鈍い衝撃を感じながら吹き飛ばれ、倒れないよう踏ん張り相手から目を反らさず睨みつけると猫や犬がシルヴェストの後ろからやってきて襲いかかってきた。
噛みつかれ爪を立てられたがエミールは容赦なく吹き飛ばした。
「
だが殺しても殺しても次々と鳥やネズミ、街の中にいる動物が襲ってきた。
「
まとめて焼き払う。
「おいおい、火事でも起こす気か」
そう言いながらシルヴェストは指先で水を意味するヘブライ文字〝メム〟を空中に書き消火する。
「しかし、もう限界だろ。いい加減 諦めろよ」
男の言うとおりエミールは既に満身創痍で立っているのもやっとだった。
「ほれ、終わりだ」
最後に止めを刺すためにシルヴェストは動いた。
すると動物たちが騒がしくなり後方からの攻撃が来ることを知ると急遽 横方向に動きアイリスと共に咲く剣の群れを避けた。
「コレは?!」
見覚えのある魔術の使い手に目を向けるとソコに銀髪に青い瞳をした女性……マリー・ソフィー・エレーヌ・ベアトリクス・ド・フランス その人が居た。
「ほう……コレはコレは報告にあった自称お姫さま。いったい何の用だい?お兄ちゃんを助けに来たのかい?」
「ええ、その通りですわムッシュ。ですのでソコを退いてくださらないかしら」
「そいつはできない相談ですね」
シルヴェストの一言に続いて犬やカラスがソフィーに向かい襲いかかる。
「バードケージ」
その瞬間。巨大な鳥籠によって動物たちは閉じ込められる。
「躾がなってないいませんわ」
彼女の言葉の後にシルヴェストは籠の影からソフィーの横を取り攻撃する素振りを見せた。
彼女が防ごうと構えるが相手は攻撃せずに横を通り抜け距離を取って言った。
「美人を前に逃げ出す ご無礼をどうぞお許しを、老骨に二人も相手は厳しいものでね」
ソフィーは追撃をかけよとも思ったがやめた。逃げ出さなそうなことを言った矢先に尻尾を巻くような相手だ、どこまでハッタリで本気かも解らない。
それよりもエミールに向かい合い言った。
「無様ね。散々 共和制主義を指示してナポレオンに尽くして このありさまとはね
テュイルリー宮に襲撃したの貴方でしょ?騒ぎになってましたわよ」
「なんの用だ…」
「貴方に会いたいという人が居ますの」
会いたい?いったい誰がとエミールは思い思わず口にした。すると答えが返ってきた。
「サン・ジェルマン伯爵」と
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