あとがき3

作中に出てきた情報なんかをまとめながら いつもの雑学を語る あとがきです



クリス(Kris)

マレーシア。ブルネイ。タイ南部。フィリピン南部などで主に見られる芸術性を持つ短剣

インドネシアでは工芸品として2005年にユネスコ無形文化遺産に登録されている

刀身が波打っている物が主だがマジャパヒト時代(1293~1478年)のクリスは真っ直ぐな刀身をしている物もあり必ずしも波打っているとは限らなかったりもする。

ブレード表面はヒ素によって黒くなった黒色鉄の層とニッケルによる白銀の層が混ざあうことにより木目金もくめがねと呼ばれる不規則で独特な木目模様を持つ

柄は木材。象牙。金などが素材に選ばれることが多く彫刻を施したり宝石で装飾されていたりする

武器としての使用用途以外に護符や儀式用の装身具としても用いられ社会的地位を示し英雄的象徴を持ちジャワ文化の伝統的宗教ではクリスには地水火風の要素を持ち(属性要素に関して地属性は金や木の属性と解釈されることもある)霊の器となる物と考えられている

またクリスが自分の意思で動き相手を殺すと言った話がパララトン([Pararaton]ジャワの伝説)やタミン・サリ([Taming Sari]マレー伝承で登場する武器)に見られ聖霊信仰的な捉えられかたを持っている事が判る


クリスの起源には諸説あるが1361年頃には存在していたと考えられていて語源については貫通。刺すを意味する古いジャワ語のngerisが起源ではないかと推測されている


追記:クリスの刀身はいわゆるダマスカス模様と呼ばれるものであるがダマスカス鋼の製造は現在では失われた技術となっている(現代技術でほぼ再現は可能となっているが分子レベル単位で若干の違いはあるとのこと)上記に記載した方法でダマスカス模様を作るやり方はおそらく近代に確立された再現技術と思われる(個人で調べられる範囲では調べられる限界があるので再現技術なのかまでハッキリとは解りませんでした。すみません)

ダマスカス鋼に関しての詳細を知りたい方は【ゆっくり解説】現代の技術では未だ完全に再現できていない金属があるらしい【ダマスカス鋼】(https://youtu.be/GXhzTKO--DQ)をご参照ください





騙し絵トロンプ・ルイユ(Trompe-l'œil)

フランス語で目を騙す。錯覚を引き起こすを意味する。噴火で埋没した古代都市ポンペイからトロンプ・ルイユと思わしき絵が発見されているため古代ローマを起源とする説があり、今ではトリックアートという言葉で馴染み深い芸術である

分類・様式は広く、実際は存在しないものをそこにあるように見せるクァドラトゥーラ(17世紀に生まれた遠近法の技法を用いて描かれた天井画。平坦な天井を立体的に見せる手法)や三次元では成立しない不可能図形。見方によって見えるものが異なる隠し絵ダブルアートなどが例として上げられる


作中では館内に飾られた騙し絵をクロードが魔術に用い距離感を狂わせていたという設定にしています




異時いじ同図どうずほう

動きのある絵を描く際に使用される技法

始めて異時同図法が用いられたのは玉虫厨子たまむしのずしと呼ばれる仏壇の右面(須弥座しゅみだんに向かって右面)に描かれた捨身飼虎図しゃしんしこずだと言われているが明確な起源は(作者が調べた限りでは)不明。古いものでは紀元前2850~2350年頃に存在した工芸品ウルのスタンダートに異時同図と思われる絵が存在するが、一つの絵の中に異なる瞬間のワンシーンを同時に描き動きのある絵にしたかったのか、ただ複数の馬を描いただけなのか解っておらず意見が割れている

現代では漫画で見ないことが無いほど有名な表現技法となっている


作中内での使用者は剣の鞘にウルのスタンダートのような絵を彫金されているという設定になっています




マクシミリアン一世の凱旋馬車(Large Triumphal Carriage)

神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世から委託されアルプレヒト・デューラーが製作した連作木版画

二対四頭の馬に引かれた馬車に21体の擬人像が配置されマクシミリアンの栄光を讃える凱旋の図となっている


擬人像一覧

プロヴィデンシア(神の摂理)[Providentia]

モーデラティーオ(節度 自制心 ガイダンス 政府 規制)[Moderatio]

アラクリタス(迅速 陽気 活気 華やかさ アニメーション 意欲 持続性 熱意 情熱 歓喜 勝利)[Alacritas]

オッポロトゥニタス(好機)[Opporotunitas]

ヴェロチータス(速度 迅速)[Velocitas]

フィルミチュード(硬さ 耐久性 強度 不変性 安定 性信 頼性)[Firmitudo]

アクリモニア(感覚の鋭さ 辛味 強情 緊縮)[Acrimonia]

ヴィリリタス(精力 男らしさ)[Virilitas]

オーダシア(勇気 大胆 挑発的 横柄 無謀 性急 不見識)[Audacia]

マグナニミタス(寛大)[Magnanimitas]

エクスペリエンティア(経験)[Experientia]

ソレーティア(スキル)[Solertia]

グラビタス(重力 重み 尊厳 荘厳 威厳 貫禄)[Gravitas]

ペルセルヴァンティア(安定性 不変性 永続性 忍耐力)[Perserverantia]

フィデンティア(信頼)[Fidentia]

セクリタス(セキュリティー)[Securitas]

イユスティーティア(正義)[Iustitia]

フォルティトゥード(剛毅)[Fortitudo]

プルデンティア(思慮)[Prudentia]

テンペランティア(節制)[Temperantia]

ラティオ(理性)[Ratio]


以前、擬人像について解説を行った通り。ラテン語の抽象名詞の多くが女性名詞であるため上記の擬人像は全て女性である


作中内アンドレが使用した物は、この凱旋馬車を模倣した作品を使っていたという設定となっている




タロット(Tarot)

起源について諸説あり明確には解っていない

本来はカードゲームとして使用されていたがアントワーヌ・クール・ド・ジェブラン(Antoine Court de Gébelin)[1725年1月25日~1784年5月10日]という人物が、タロットは古代エジプトの秘術を記した絵を基に作られたものとするタロット古代エジプト起源説を唱え1781年に著作『原始世界』を出版。これにより古代エジプト説が流れるようになる(ただし、この説は根拠に欠ける流説である)それと同時にタロットの魔術利用が広まった

波及した理由は二つあり、一つは魔術に芸術性を取り込むというアイデアが衝撃的であったため

二つ目はタロットの起源が不明なため明確な規定も存在せず枚数。名称。絵柄を自由に作り変えることが許されていたからである

例えば一般的なタロットは1デッキ78枚なのに対してローカルルール用に作られたミンキアーテ版タロット(Minchiate Tarot)は1デッキ97枚と枚数が大きく異なる

このように使用者の都合に合わせて変更を加えることが出来ることがタロットの人気を高めたと言われている



ソラ・ブスカ版タロット(Sola Busca Tarot)

1450年頃に製作された使用用途不明のタロットカード

一説にはソラ・ブスカ家の人間を描いているともローマ帝国の勃興を描いているとも言われている

現存するタロットの中では始めてミノルアルカナカードにイラストを入れられた物として知られている




ゴシック様式

西ヨーロッパの12世紀から15世紀にかけての建築美術を指す言葉であったが建築装飾に使われていた彫刻。絵画などが単独でも扱われるようになった経緯もあり現在では、かなり広義な意味合いを持ち建築に関しても尖ったアーチ。大量の光を取り込む大きな窓。建物を外側から支える梁といった特徴が主に見られるが地質。地理。経済。政治といった様々な要因によって形体が異なるためデザインも多岐にあり明確に定義することが難しい

イメージとして闇。死。退廃的。廃墟。神秘的。異端的。黒といった要素を持つ




スクラマサクス(Scramasax)

古代から中世初期のヨーロッパで使用されていた刀剣。肉切り包丁や鉈に似た外見を持つ片刃の直刀であったりナイフであったりする

刃にルーン文字が刻まれているものや柄に蛇が彫刻されたものも存在する


(作中では間違えて剣と表記していました。すみません)




銀砂と鋸歯十字の紋

ジョルジュ・カドゥーダルの紋章


調べられる限り調べましたが詳細に情報を集める事ができませんでした

気になる方はBlason de Georges de Cadoudalで検索すれば出てくると思います

魔術の仕組みもオリジナル要素が強く魔力でなく血の代償によって機能するという設定となっています




ズーモーフィック・ヒルトの短剣(Dagger with Zoomorphic Hilt)

16世紀後半。インド。デカン。ビジャプール。ゴルコンダで見られる刀身が波打ち柄に動物形象を施した権力や支配を象徴する短剣




茜の花について


「茜の花三つが病気の進展を押さえ、五つで病気が治る。七つなら魔術に対抗できる」バビロニアタルムード シャバットの篇 六六b頁より

作中ではこの話を基に魔術抵抗の効果を付与するという設定になっています



バーサーカー

北欧神話 軍神オーディンの加護を受け忘我状態で獣ように戦う戦士のこと

バーサーカーになる儀式は部族によって異なるがヘルリ族では武器を持たずに戦い野獣の生活に慣れ親しみ肉食獣のように振る舞うことで成れるものと考えられていた


ピシュグルはギアナで生き残ったことで狂戦士化の魔術を取得したという設定となっています。また、加護を得やすいようにオーディンの存在を示す〝アンスール〟の文字を刻んでいた

ヘルリ族はゴート族と共に黒海沿岸やエーゲ海を荒らしていた事や4世紀頃に東ゴート族に征服されているので狂戦士化の魔術をゴート風と筆者は解釈し、同系統の魔術に対してアンリエッタの魔術による衰退の効果を受けないという設定にさせていただきました



いつもながら、こうして あとがきで解説はしていますが作者個人が調べたものなので全てを鵜呑みにせずに必要に応じて調べて頂ければと思います


以前アルガディ・オブ・アンドロンと表記した芸術がありましたが翻訳ミスだったことが解って後でアルガディ・オブ・アンディロンと修正したりしましたので



最近はコメントなども頂けて励みとなっています。いつも見ていただけてありがとうございます


少し話が変わりますが、ある時、カクヨムで作品に関し、こう論じてる人が居ました


「他人の時間を使わせてまで読ませる価値があるか考えるべき」と


正直この意見に全面的に賛同はしませんが、何かを得ることを目的に読む人もいることをこの時、知りました


なので、この雑学が他の読者であり作家である方々にお役に立てればと思います


では、また次回のあとがきでお会いできることを望みながら筆を置かせていただきます

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